家庭的な雰囲気の中で雇用
- 事業所名
- 株式会社故紙センタートヨタ
- 所在地
- 静岡県静岡市
- 事業内容
- 事業所および一般故紙の回収と受け入れ
産業廃棄物、事業所一般廃棄物の収集運搬、処分
廃プラスチック類の処理、販売 - 従業員数
- 84名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 10 選別作業 回収補助 精神障害 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社故紙センタートヨタの前身は1969年に富士宮市において故紙卸売業として開業した「小山商店」である。1972年に静岡市に居を移し、1975年に現在の駿河区豊田に移転した。1995年、「リサイクル法・廃棄物再生事業者」として静岡県の登録を受け、行政と一体となって環境に配慮した資源のリサイクル事業を展開してきた会社である。新聞・雑誌やダンボールなどリサイクル可能な故紙の回収からプレス加工までを手掛け、特に富士市の製紙会社のニーズに応えるべく毎日トラックが富士市を行き来し、再生紙を原料として納入してきた。静岡市街地という好立地のため搬入量が多量で、故紙だけで月間4,000t以上の扱い量があり、故紙問屋としては中規模である。
2001年に菊川工業団地に菊川営業所を、2005年には藤枝テクノタウンに藤枝営業所を開設し、故紙に加え廃プラスチックの再生処理を本格的に始動した。資源のリサイクル地球環境保全に大きく貢献をしている。
「企業活動を通じて地域社会の環境保全に寄与し、持続可能な環境型社会の形成に貢献する」「お客様に満足いただくことで、社員とその家族、そしてわが社の業務にかかわるすべての人々の幸福を追求する」を経営理念として掲げ、高い志をもって「熱意を持ち行動する」これが会社の掲げるスローガンである。
障害者雇用への取り組みは1988年に始まった。現在駿河区豊田の本社工場に構内作業員として2名、駿河区富士見台の第二工場に補助作業員として2名、藤枝営業所に2名、菊川営業所に4名を雇用している。障害者の平均年齢は37.7歳。1番の年長者は藤枝営業所で働くEさん55歳である。
2011年9月には、「障害者雇用の重要性を深く理解し、積極的に雇用を行い、障害のある人の自立に大きく貢献してきた」として、障害者雇用支援月間に合わせて開催された「静岡県障害者雇用促進大会」において「静岡県知事褒状」も受賞した。
(2)障害者雇用の経緯
創立者の会長夫妻には27年前に障害のある娘さんが生まれた。障害者雇用を始めるきっかけになったのは、この娘さんの誕生だったと夫妻は語る。わが子の成長とともに、周りにいる多くの障害者とその家族、支援者、支援団体を知り、多くの関わりをもってきた。その関わりの中で、「会社として障害者の安定雇用に貢献したい」という思いが膨らみ、23年前に1人の知的障害者Aさんを初めて雇用したのである。娘さんを自分の会社で働かせることを考えたこともあるが、親子が同じ会社にいてはお互いにわがままがでてしまうことを懸念し、現在娘さんはほかの作業所で日々を過ごしているという。
Aさんは県立静岡北養護学校(現在の静岡北特別支援学校)を卒業している。その後も当該学校からは3名の卒業生を雇用してきた。勤続21年のBさん、12年のCさん、4年半のDさんである。彼らにはそれぞれに知的の障害がある。育った家庭環境も違い、性格も特性も異なる彼らであるが、皆まじめに仕事に精を出し、会社に貢献をしている。
2. 取り組みの内容
23年前に初めて雇用したAさんは現在42歳。本社で選別作業の現場にいる。数名のパート従業員が座って仕分けをする間をこまめに動きながら、選別されたものを大きなかごに収める作業をしていた。Aさんは自閉的な傾向のある人で、人見知りが激しく、コミュニケーションをとることが苦手である。気に入らないことがあると外に出て大声を出し、発散する。本社は片側2車線で車の通行量が多い大通りに面しており、向かいには静岡南警察署がある。時に、通りに出て大声を出す彼の存在は、会社にとってはイメージダウンにも通じるであろうし、これまで長い間にはトラブルもあっただろう。しかしその彼が23年もの長い間ここで仕事を続けてこられたこと、そこには彼にとっての「自分の居場所」があったからである。
回収され持ち込まれた故紙の山の中を、休むことなく動き回りながらてきぱきと仕事をこなしているAさんの姿を見ることができる。ここにも会長夫妻の障害者雇用に対するぶれない熱意と愛情を感じる。
そればかりではない。わが子の行く末だけでなく、まわりにいる障害者の親亡き後の将来を考え、社長は会社の近くに生活の場としてケアホーム「シンフォニー」を立ち上げた。現在NPO法人下で経営するこのケアホームには5名の障害者が暮らしているが、その中で唯一の男性がAさんである。Aさんの親御さんは健在ではあるが、将来はいずれ息子が1人で暮らさなければならない事を考え、親元から離れてケアホームを利用することを選択した。将来のために今から生活基盤を作っておくということは、非常に心強いことである。生活面での安定が就業面での安定、継続雇用の要因となる。それを実践しているところに、会長・社長夫妻の熱意と愛情を感じる。
取材時に会うことはできなかったBさんはAさんに次いで勤続年数が長い21年の人である。養護学校(当時)高等部3年時に職場実習を体験し就職した。コミュニケーションをとることが上手で、周りからの指示を出されなくても動ける人である。職場の人気者で、なくてはならない存在だという社長の折り紙つき。取材時に会えなかったのは残念であった。
回収車に乗って補助の仕事をするCさんが帰ってきた。にこやかに挨拶をしてくれる。従業員と取材者とのやり取りを見ていたのだろう、Cさんは着ていたジャンバーを脱いで、背中を向けて、ユニフォームの会社ロゴマークを見せてくれた。会社で一社員として必要とされているという自覚をもち、それを誇りとしている表れであると感じる。回収車から一緒に降りてきた従業員が、そんなCさんの様子をほほえましく見守る姿が印象的であった。
Cさんは明るい性格で、とりたてて指示をしなくても前向きに作業をこなす人だという。回収車やフォークリフトが頻繁に動いている工場内であるが、車の動きや周りの従業員の動きをみて、自分が動き出すタイミングを心得、安全に気をつけている様子が伺えた。
下の写真のDさんは勤続4年半。以前の職場でいじめにあった経緯がある人だという。前職場を退社後、入所した施設から実習にきて当社が気に入り、「ここで仕事がしたい」と本人の気持ちの中で決めたらしい。採用が決まってはいないのに会社にきてはアピールをしていたと、社長は当時をふり返る。積極的にコミュニケーションをとる人ではないが、取材時真っ先に自分から背中を向け、無言ではあったが会社のロゴマークを見せてくれた。新しいロゴ入りの作業着が気に入っているのだろう。
そんなDさんが仕事に向かう眼差しは真剣そのものであった。Dさんは構内で持ち込まれた故紙の選別作業を黙々と行なっていた。身体を動かす作業が好きで意欲的だが、同じ作業が続くと集中力が低下するため、多少の配慮が必要な人である。
何人もの障害者を雇用し、他の従業員の理解と協力を得てバランスを保って行くのが、障害者の継続雇用の上では難しいことであり、気をつかう事柄でもある。事業の特性上、従業員が障害者を伴い外部に出掛けていくことが頻繁なため、外部からの苦情を受けたこともある。それは「社員が障害者を乱暴に扱っている」といったような苦情であった。
この時、会長は他の従業員に障害者への対応・接し方を徹底的に教育したという。それからは、毎日の朝礼では心得について話をしている。また、障害者への配慮に欠け、会社の障害者雇用に不満を抱くような従業員には退社をしてもらってきたと会長は語る。ここまで本気で障害者雇用に取り組む姿勢に敬意を表したい。
また、腰の低い社長の姿に取材者は感銘を受け帰ってきた。パートの女性たちや故紙持ち込み業者にも丁寧に挨拶し声をかけて回る。故紙が積み上げられ、埃もたつ殺風景な工場の中が、こうした社長の声かけや笑顔で家庭的な雰囲気に包まれる。
会長夫妻の息子さんが勤務する藤枝営業所にも、こうした雰囲気が漂う。藤枝営業所は社屋も新しく、工業団地内に立地し敷地も広い。ここでも本社工場と同様に故紙のリサイクル事業が営まれていて、障害者が2名働いている。
勤続5年5ヶ月のEさんは紙管をカットし、金属と分別する作業を行っていた。この仕事はEさんのために導入した仕事である。この他にも選別作業はもちろんのこと、関連した作業がいくつもある。選別作業の中には、紙質をみて分別先を判断する仕分け作業もあるが、Eさんは分別がしっかりできる人だと評価されている。
Eさんは前職場で精神的につぶれてしまい、行き場を探していた。市の障害福祉部から紹介され、この仕事に巡り合った。てきぱきと作業するEさんの後姿からも、仕事に対する自信がうかがえる。










3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
障害者雇用の推進と障害者支援機関との関わりが、事業に新たな展開をもたらしてきた。静岡市の本社と藤枝・菊川両営業所ともに、それぞれが近隣の障害者支援施設と密接な関係を築き、施設に作業を委託することができるようになったこともそのひとつである。この「トリクル」というシステムは、施設の利用者が職員と一緒に、依頼を受けた家庭や事業所を回り、故紙を回収し、各工場にもってくる。企業と福祉の協働作業により、障害者の仕事が構築され、環境の保全と資源のリサイクルに役立ってきた。
障害者の仕事作りへの貢献は会社の中だけにとどまらない。静岡市内にある障害者の就労継続B型施設「ラポール川原」には、紙とプラスチックの選別作業を委託してきた。施設利用者の仕事づくりである。
(2)今後の展望と課題
会社には新たな計画がある。それが会長の考え出した故紙回収袋「サポートバッグ」の製造である。
現在、特許庁への実用新案と商標登録の届け出を済ませ、実用化へ向けて準備をすすめている段階であるが、いずれこの仕事を「障害者が製造に携われる生産工程を確立して雇用につなげる」仕事として進めていきたいと考えている。
障害者雇用も含めた会社のあり方に関する今後の課題は、次期世代への引継ぎである。障害者の就労場所を確保するために、このような新期事業を立ち上げて雇用を推し進める会社のあり方は、地域の理解と協力・共感を得る意味でも、地域社会との共存共栄が欠かせない。さらに、会社のスローガンにも謳われているように、障害者も含めた社員がみな幸せになるよう、社員の人材育成が引き継がれていくことがこれからの大きな課題でありすべての従業員にとって幸せと喜びを生み出すものと考えている。
そして、社会貢献と地域社会との共存共栄を真摯に考え、地道に障害者雇用に取り組む当社のような存在を、これからも多くの事業所に発信していきたい。

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