付帯業務を特例子会社業務に移行することで雇用を生み出した事例
- 事業所名
- 株式会社大山どりーむ
- 所在地
- 鳥取県米子市
- 事業内容
- 建物の洗浄及び建物の維持管理に関する業務
- 従業員数
- 27名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 工場清掃、修繕 内部障害 知的障害 7 かご洗い、工場清掃、鶏舎清掃 精神障害 5 かご洗い、工場清掃、鶏舎清掃 - 目次


1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
親会社である株式会社「大山どり」の業務範囲は鶏の飼育から加工までの一貫生産体制をとっているが故に多様な業務が混在し、従業員の負担が大きいことと、業務の効率化のためにもコアな業務への人員集中を図って効率的な業務分担を構築することが急務とされていた。業務のなかでも特に、社員の残業や休日出勤で対応せざるを得なかった清掃業務や、クリーニング業務等の派生業務を、本社から委託を受ける会社として、また、雇用を待ち望む高齢者・障害者の雇用増進を図ることを目的として「大山どりーむ」は、平成23年3月に設立された会社である。
社名の「株式会社大山どりーむ」は本社の名称である「大山どり」の語尾に「—(のびる)」と「む(∞)」を付け足すことで、大山どりが無限大に躍進することと「夢」の意味を掛け、障害者・高齢者に「夢を描き」「夢を叶え」「夢を与える」象徴としてネーミングしたものである。
(2)障害者雇用の経緯
元来、親会社「大山どり」は、障害者雇用には積極的ではなかったが、「障害者就業・生活支援センターしゅーと」から障害者の実習受入を依頼されたのがきっかけで、障害者は業務の範囲を限定し、個々の障害特性に配慮さえすれば、充分に戦力になることに気付いた。それ以降は、「しゅーと」と一緒になって、大山どりの業務の中で障害者でも就労可能な業務を洗い出し、実習につなげ、雇用に結びつけていった。しかし一旦洗い出してみると思った以上に任せられる業務は多くあり、一方で働く能力と意思を兼ね備えた障害者も多く存在する中で、それを結び付けられないジレンマにも陥っていた。
そのような状況の中、企業にとっても、雇用を待ち望む者にとっても、双方の願いが叶う施策として考えられたのが、特例子会社を作ることであった。
子会社を含め県外での活動が増えてきたことに伴い、今の企業規模では不相応だとは感じたが今後の事業展開を見据えて特例子会社の創設に踏み切った。1年間で12人の新規雇用を目指し、発足させた特例子会社業務に適した人材を雇用する必要性から、各機関に協力を求め、実習期間を設け、実際に業務を体験したうえで、適任者を雇用している。
2. 取り組みの内容
(1)募集・採用
特別支援学校高等部等から障害者雇用を目的とした体験実習の依頼を受け、特別支援学校高等部生徒の実習を行った結果、業務遂行の能力があると判断した者を、採用することとした。
以後、特例子会社の業務内容を、「障害者就業・生活支援センターしゅーと」「ハローワーク」「特別支援学校進路担当者」等へ具体的に提示し、就労可能な者を募集した結果、親会社である大山どりからの移籍を含め、現在14名の障害者を雇用している。14名のうち6名は中途採用であるが、その中には、大山どりが行っている地域貢献型イベント『びっくり市』に出店している小規模作業所の出身者も含まれている。
雇用に際しては、鳥取障害者職業センターが行うジョブコーチ制度も活用し、雇用の定着を図るとともに、「障害者就業・生活支援センターしゅーと」「特別支援学校進路担当者」と密に連絡を取り合い、各人の様々な課題等に積極的に取り組むことで、就労継続につなげている。
(2)障害者の業務・職場配置・個々の特性に応じた人員配置
業務の範囲を限定し、障害の特性を予めよく知ることで、その作業に適した人材の特性に応じた実習や採用を実施したうえ配置を行っている。



・従業員同士の相性についても配慮した配置
職場でのトラブルは、仕事上のことや障害の特性上の問題よりも、むしろ人間関係によるものが多く、それぞれの人間関係に配慮した配置を心がけている。
・本人の希望に対応した勤務時間
予め洗い出した仕事を個々の特性に合わせた採用を行なっているため、勤務時間等も各々の特性や希望に配慮している。
例えば、通常の勤務時間は、午前8時30分から午後5時であるが、出勤時間を午前9時の者2名、午前9時30分の者1名、午前10時30分の者1名とフレキシブルな対応が出来ている。
(3)職場環境の整備
・休憩室の充実
主な業務が清掃やかご洗いであることから、体力を消耗することが多く、休憩室はゆっくり休めるスペースを確保できるよう改装を予定している。
・清潔さへの配慮
シャワー室を設置し、業務上の汚れを落とし、気持ちよく過ごせるように配慮している。
・車いす対応のトイレ設置
身体障害者への対応として、設置する予定としている。
(4)適正な労働条件
・最低賃金を支給
賃金は日給制で、基本給は他者との差を設けていない。
・契約期間
契約期間の定めは無しとし、本人の労働意欲を大切にしている。
(5)直接、収益に繋がる事業への参加
・無人卵販売所の運営
特例子会社として親会社に頼るのではなく、自ら収益をあげていく自主運営を目標に掲げており、その第一弾として、親会社の敷地内に無人卵販売所を設置して、管理運営を行い、日々収益を得る活動を平成24年7月から開始した。


3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
① | 「障害者就業・生活支援センターしゅーと」、「特別支援学校進路担当者」、「ハローワーク」等の各機関と密接な連携をとることで、会社側の意向と本人との「思い」、家族の「想い」を双方向で確認することができ、早めの問題解決につながっている。 また、各機関が会社の求人に対する考え方を十分理解した上で、会社に適した人材を紹介してくれるというメリットも生まれている。 |
② | 職場における人間関係のトラブルを障害のせいだとの先入観をもつのではなく、本来だれもが抱えている人としての感情を重視した人間関係のトラブルと捉えた対応により、徐々に人間関係のトラブルが改善されつつある。 |
③ | 職場環境の整備に対し積極的に取り組もうという会社の姿勢は、働く者にも知らされており労働意欲の向上にもつながっている。 |
④ | 適正な労働条件の中でも特に最低賃金が支給されていることは、働く喜びをもたらし本人の自信にもつながり、働く意欲を高め、仕事を継続させる大きな要因となっている。 |
初めての給料を手にしたAさんの給料の使い道は、以前、通所し共に働いていた小規模作業所の仲間たちに、ジュースを買って差し入れをすることであった。Aさんのこの行為により、仲間たちにも、自分達も働いて給料がもらいたいという思いが湧いてきたようだといわれている。
就労契約期間が設けられていないことにより、本人にやる気さえあれば長期間働けるという安心感が精神的な安定となり、業務遂行への意欲につながっている。
(2)今後の展望と課題
「大山どりーむ」は、試行雇用奨励金、特定求職者雇用開発助成金等の支援、の制度を活用し設立された会社であり、その後、移籍及び新規に従業員の55パーセントを占める障害者の採用を行っている。
「株式会社大山どり」の工場長兼務「株式会社大山どりーむ」の代表取締役の尾崎正秀氏は、「大山どりにとっても、雇用を待ち望む働く能力と意欲がある高齢者、障害者にとってもお互いメリットになる方法を構想し、特例子会社の創設を思い立った。
親会社の業務の効率化のためにも、清掃等の派生業務は子会社に委託し、親会社の従業員にはコアな業務に集中してもらうことで利益を生む余地が生まれ、それと同時に雇用の創出及び維持を図ることが可能になるものと確信している。」と語り、また、「雇用を増やすことは、企業としての社会的使命を果たすとともに、最大の地域貢献になるものと考えている。イベントから発生した《地域貢献》の芽を、更にステップアップして、雇用の創出につなげ、単に雇用を維持するにとどまるような消極的な発想ではなく、食を扱う企業として、親会社としては普段は手が届かない食品加工の分野に進出することで、更なる雇用の創出と、利益の向上を目指したい。」と将来設計を述べている。
特例目的会社設立概要書には、障害者雇用の今後の予定として、2015年には31名の社員数のうち、21名の障害者雇用数をあげていることからも、尾崎代表取締役の障害者雇用拡大への意欲がよみとれる。
また、採用計画の具体的な方策として、各機関との積極的な連携、特別支援学校等の職場実習の積極的な受け入れ、自社ホームページを活用する等の項目が記載されている。このように、より具体的に雇用増大計画が記載されていることに対し、雇用拡大に意欲を燃やす経営者に感謝するとともに、今後の業務拡大に対しても大いに期待したい。
業務拡大にともなって、障害者が個々の力を十分に発揮できる新たな業務が発見され、より多くの障害者が、労働意欲をもって働ける場が創出されるよう願いたい。
尾崎代表取締役は、「大山どりーむは、福祉施設ではなく、あくまでも営利企業です。福祉として障害者を雇用するのではなく、収益に貢献する業務を発生させ、そこに働く意欲を持ち業務遂行能力がある者を採用するコンセプトは崩したくない。」と語っていることからも、今後の課題は、即実践力として働ける人材の確保にあると思われる。
そのためには、採用決定の一助となる業務遂行能力の判断基準の整備についても進展が望まれる。また、スムーズな人間関係が業務遂行効率をあげるために欠かせないことから、良好な人間関係を築くための方策も今以上に必要になると考えられる。
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