中途障害者の職場復帰に伴う通勤対策及び職場環境の整備
- 事業所名
- ミロク機械株式会社
- 所在地
- 高知県南国市
- 事業内容
- 各種工作機械の製造・販売
- 従業員数
- 145名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 事務職(パソコン入力、書類確認) 内部障害 1 現場作業員(孔明作業) 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)事業所の概要
① 事業の特徴
ミロク機械株式会社は、高知で誕生した猟銃メーカー株式会社ミロク製作所技術部が前身である。
昭和46年11月ミロク製作所より分離し、工作機械メーカーとして操業を開始した。昭和61年11月本社及び工場を現在の南国市比江に新設移転。周辺は工業団地であり、落ち着いた環境にある。
以来、当社はミロクグループ企業として新たな製品・技術への挑戦と研鑽を重ねている。
主力製品は、ガンドリルマシンとガンドリル、定盤である。ガンドリルマシンは、ドリルの直径を1.4ミリ小径用から50.8ミリ、また径の100倍~200倍の深さの孔を開けることが可能ということから自動車関連業界や金型、油圧機器など幅広い分野に納入し、顧客の生産現場を支えてきた。
海外進出を図る顧客も多く工場の海外移転に伴いミロクのマシンも北米・東南アジア最近は中国を視野に世界市場に進出している。
一方、ガンドリルマシン用ドリルやラッピングマシン用定盤等の消耗品製造・販売に加え、名古屋、三郷、相模原の3工場と機械工場では、自社の機械を使った孔開け加工も請負っている。
② 障害者雇用の理念等
障害は突然やってくる。それが事故であれ病気であれ障害として残る場合もあれば、元のように治ることもある。これまで当社でも作業中の事故等で障害者となった例もある。
雇用した社員が復帰を望み、仕事ができるなら会社としては何とかしたいと努めるのは当然と考えている。社員もまた、いつ自分に起きるかもしれないとの理解はあると思う。
つまり、障害者雇用というよりも社員として雇用した以上、会社としては定年まで面倒はみたい。何といっても当事者自身が一般社員と対等に働くことができるかどうかが重要であるという考えである。
(2)障害者雇用の経緯・背景
今回紹介するAさんは、平成18年大阪営業所の営業社員として雇用、勤務していたが、平成20年4月に自宅で脳内出血により倒れ、病院治療に専念してきたが、後遺症として右半身不随・失語症が残り中途障害者となった。
会社からの今後の就労についての意見を尋ねたところ、本人から復職の希望が示された。
復職希望に対応するため人事担当者がハローワークの職業指導官に相談したところ、受け入れ準備の第一歩として国立吉備高原職業リハビリテーションセンター等での訓練を進められたのである。
復職を受け入れるために、病状が安定した後、平成21年12月8日〜平成22年5月28日まで「国立吉備高原職業リハビリテーションセンター」(以下「吉備リハ」という。)に入所し、機能回復や復職に向けた職業訓練を受けてもらった。
入所中に人事担当者が状況を確認しながら復職の準備が進められた。
社内での検討では、重度の障害が残っているためこれまでAさんが従事していた営業職での復帰は無理と判断されたが、本人が勤労意欲を持つ以上会社としても何とか対応することとした。
同時に復帰に対しては会社側から本人に何度も確認がされた。
Aさんが勤務してきた大阪営業所では営業職しかない、また転職も難しいだろう。これまでのように自由に動けない、電話応対も無理。可能性があるとしたら事務職しかなかった。
職種の変更を受け入れる気持があるのかの確認とともに仕事をする以上、障害者だからの甘えは許されないことも認識してもらった。
そこで障害があっても可能な仕事を模索した結果、本社総務部の資材課で勤務が可能ではないかとの結論に至った。
吉備リハでは、機能回復は勿論、新たな業務に必要なパソコン等にも挑戦しながら復帰への準備を進めた。当社ではこれまでも障害者を雇用した事例はあるが、特別な配慮を要する重度の障害者の受け入れは初めてであった。
ここにAさんの強い復職意欲に対し、会社として就労可能な場所を構えて待つ体制が整えられた。こうして平成22年7月、Aさんは大阪営業所から本社総務部資材課に職場復帰を果たすことができたのである。
2. 障害者の従事業務・職場配置等、取り組みの内容
(1)障害者の従事義務・職場配置
① 障害者の従事業務
仕事は事務職で、パソコンでのデータ入力が中心のデスクワークである。電話応対は難しいため従事していない。
資材課で復帰するにあたり会社は全員集会で障害を含めてAさんのことを話し理解を求めた。手助けを受けることもあるが、職場での人間関係はスムーズである。

② 雇用管理
雇用形態は、障害認定以前と同様に常用である。障害により職種は変更したが通常勤務についており、勤務時間は8時15分〜16時55分。45分の昼休みと午前・午後に10分の休憩時間がある。休日は、変形週休2日制で、有給休暇等は法定どおりである。
給与・手当・賞与等の賃金面は勿論、社会保険等の福利厚生面もほかの社員と変わるところはない。復帰前と違うとすれば職種及び勤務地の変更により営業手当や地域手当等の見直しを行ったということだろう。
(2)取り組みの内容
① 能力開発への取り組み
右半身の機能障害と言語機能障害があり、病院でも訓練に励んできたAさんだったが、復職を前提に会社の了解の上、失語症の治療では東京に行き、機能回復と職業訓練のため吉備リハ入所、職種の変更に備え事務作業ができるようパソコンの訓練等(左手での作業能力向上が中心)を受けた。現在は資材課でデスクワークに従事している。
② 職場環境の整備
職場復帰にあたり、身体の右半身に障害があり勤務が可能となる職場環境の整備が必要となり、以下の箇所が改善された。
- 本社1階男子トイレ(本社1階男子トイレを和式から障害者用洋式に改修及び手摺の設置)
- 1階〜2階の階段手摺(従来片側のみを両側設置に拡充)
- 駐車場カーポート(障害者専用カーポートの新設)



③ 通勤対策
現在46歳のAさんは、大阪営業所に勤務時は京都の自宅から通勤していたが、本社勤務(高知県南国市)となり、住宅及び駐車場が必要となった。現在は出入りがしやすい住宅(1階)に居住し、専用駐車場から特別仕様の乗用車で通勤している。
通勤対策として以下が準備された。
- 住宅の確保(会社借り上げ)
- 駐車場の確保(会社借り上げ)
④ 活用した助成金等
これまでに活用した助成金は、次のとおりである。
- 作業施設設置等助成金(第1種)
- 重度障害者等通勤対策助成金
(住宅の賃借助成金)
(駐車場の賃借助成金)
3. 取り組みの効果と課題
(1)改善の効果
Aさんのために、和式トイレを洋式トイレに改善した結果、トイレの使用が可能となり、勤務そのものが可能となった。
また、本人の勤務している本社資材課は1階にあるが、2階にある技術部・製造部との打ち合わせが必要であり、頻繁な移動は難しいが、業務の打ち合わせで2階に移動することが必要である。これまでは階段の片側(上り右側)に手摺があるだけで、右半身に障害があり歩行時には補助の杖を使っているAさんは、階段を上る時に手摺が使えない状態となっていた。これに対して反対側にも手摺を新設し、一人で上り下りが可能となった。
さらに会社の駐車場はスペース的には問題のない広さが確保できていたが、屋根付きではなかった。Aさん専用のカーポートを設置することでずぶ濡れが解消され、乗り降りをあわてることなくできるようになり、安全性も高まった。
(2)Aさんのコメント
復職後生活に慣れるまで実家から母親が来て家事等の面倒をみていたが、現在は一人住まいである。
通勤同様に毎日の買物、リハビリのための病院通いも障害対応の車両で移動している。週1回家事援助のサポートを受ける程度で普通の日常生活を送っている。
相手の話は聞くことができるが、話すことはまだ十分とは言えず、現在もリハビリに励んでいる。短文なら話せるが、長い説明や文章となると中々言葉が出にくくなるようだ。「病気のすぐ後は、何となく頭がはっきりしなかったが、少しずつ普通のようになった。」復職までの過程は大変だったが「吉備のリハビリテ−ションセンターでの機能訓練でパソコンができるようになって、復職できて本当によかった。」と感想を述べた。
これからのやりがいは「パソコンがもっとできるようになることで、これで仕事の幅を広げたい。」と今の仕事に意欲を持っている。言葉はスムーズに出ないが、一生懸命に伝えたいとの気持は伝わってきた。
(3)今後の展望と課題
今回の事例は、会社としてはあたり前のことであり、たとえ1社員の復職や自立であったとしても可能性があれば応援したいと思っている。雇用した以上面倒はみるという体制が社員全体の和と安心を支えていくだろうということである。
Aさんは勤務場所と仕事内容は変わったが、他の社員と同様の待遇で少しずつ慣れてきている。ただ、周囲はこれからの頑張り具合をしっかりと見ていくはずである。
職場では障害を可哀想というだけで甘やかしてはくれないだろうし、自己の能力を高め仕事で認めてもらうしかない。厳しい助言もあるだろうが、必要とされる社員として是非とも定年まで頑張って欲しいと願っている。
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