知的障害者雇用の拡充と社員指導援助体制の整備
2002年度作成
事業所名 | 株式会社中原商店 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岩手県盛岡市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 焼肉レストラン等の経営5店舗、テイクアウト冷麺の製造・販売、冷麺、惣菜等の出店・卸売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 82名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
![]() |
1.取り組みの要約
昭和30年の創業以来、積極的に多店化、営業拡大を図ってきた(株)中原商店。各店舗・工場には必ず障害者を1人配置し、雇用率は実に18.3%。障害者雇用の増加に伴い、ナチュラルサポートを活かした職場を目指して、知的障害者の社員指導援助体制を整備し、やる気を引き出す雇用管理の工夫を進めている。平成13年にはこの実績が評価されて、障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰に輝いた。 | ![]() 5店舗の中で一番新しい都南店 |

2.障害者雇用の動機と雇用の拡充
この会社を訪れてみて感じることは、障害者がみんなパワフルで眼が生き生きと輝いていることだ。 会社で、最初障害者を雇用したのは、昭和63年8月。邉社長が住んでいた町内に知的障害者施設「緑生園」があり、社長自身ボランティア活動で深い関わりを持ってきた。この緑生園の園長の「障害者、特に重度障害者をどうにかして社会に役立てる人間に育てたい」という信念に共鳴した邉社長が、障害者と接触を持ったことのない従業員から猛反対があったが試みに同園の重度障害者2人の採用を決断した。 最初雇用するのに反対していた統括店長が一緒に鉄板や食器を洗い、具体的に仕事を教えた。その作業ができるようになってから、肉の味付け、機械からの冷麺の落とし方、厨房の下ごしらえを教えたところ、健常者にあまり負けないようになった。 採用してみて、どの子も、考える力とかスピードでは差があるが、コツコツと一つの仕事を継続・反復し、単純作業に耐えられることが分かった。また、いわば知的障害者の特性として、ひたむきに根気よく働き、一度覚えた仕事はしっかりとこなすことに驚かされたという。 このようなことから、施設から職場見学や職場実習を進んで受け入れ、施設側と定期的に勉強会を重ねるなどして相互に障害者雇用に対する理解を深めながら、障害者の雇用を拡大してきた。最初に雇用した岩渕鉄也さん(37)が平成10年に、2番目に雇用した工藤操さん(33)が平成12年にそれぞれ優秀勤労者として県障害者雇用促進協会から表彰されたが、大変な感激ぶりで、職場内によい刺激となっている。 そして、仕事についての成果や成長が見られた人には、オペレーション操作などステップアップのチャンスを与え、本人のやる気や向上心に応えるようにしてきた。いいところを根気よく見つけだして、きっかけをつかんでいけば、仕事は十分にクリアしていくことが徐々に分かってきたという。 同社では現在、重度知的障害者5人、重度以外の知的障害者5人の雇用を数える。重度障害者をダブルカウントすると雇用率は18.3%となる。仕事の内容は鉄板・食器洗い6人、厨房2人、ウエイトレス1人、冷麺製造1人。これまで離職した障害者は4人だが、離職理由はいずれも両親の介護のためなど本人の都合による止むを得ないものだけであった。 今日では、邉社長の「社会は子供から高齢の方まで障害者とか健常者など様々な形で成り立っている。そして、色々な背景を抱きながら皆生きている。我々はそれぞれ得意、不得意の分野があるのだから共に理解し合い、助け合いながら物事が成立してゆくものであろう。それはとりも直さず持って生まれた個性を生かすことでもある。」という哲学が企業経営を太く貫いている。 | ![]() 接客業務もしっかりとこなす(本店) ![]() 厨房で冷麺をゆでる(都南店) ![]() 鉄板洗浄で汗を流す(本店) ![]() 盛り付けも健常者に負けない(駅前店) |

3.知的障害者社員指導援助体制の整備
(1)取り組みの背景 |

障害者が少ない時は問題はなかったが、人数が増えてくると、知的障害者の特性や障害程度は一人ひとりさまざまであり、次のような問題が一部の障害者に生じるようになった。このため、職場内では就労時のケアのほか、就労時以外のケアにも悩むなど、多角的な見直し、検討が必要になった。 ア 鉄板の洗浄枚数の配分に対する不満や、やる気をなくする者、仕事を怠けたり、職場を放棄する者が現れた。 イ 指導する上司に反発し、突如物を投げ捨て不満を発露。 ウ 帰社の際の無許可での寄り道、ボーリングなど。 エ 誤解を招くような店の前での異性に対する行動。 オ 障害者同士によるいじめ、物や金の貸し借りのトラブル。 カ グループホームでの集団生活に馴染めない。 |

(2)取り組みの内容 |

ア ナチュラルサポートの強化 —部署ごとに役職員による職業生活相談員の配置— まず、障害者に対する就業上、生活上の指導体制を各店舗・工場ごとに整備し、職場に自然に存在するサポート機能を意図的に作り出す目的で、平成7年度から役職者に遂次職業生活相談員資格認定講習を受講させた。この結果、現在12名の職業生活相談員が各部署に配置され、職場内や生活面における指導援助の要となり、人間関係の潤滑油となっている。 イ 全社的援助体制として障害者職場定着推進チームを結成 障害者の問題行動・トラブルが発生した場合、部署内だけで処理せず全社的対応が必要なことから推進チームを設置した。 推進チームでは、トラブル処理のほか、会社の障害者雇用にかかる基本課題として[1]障害者への指導のあり方、[2]朝礼での啓発活動をどう進めるか、[3]能力に応じた職場への配置転換、ステップアップ、[4]各部署間との意見交換やレクリエーションの実施などと取り組んだ。 ウ 保護者、施設職員等との「情報交換会」を開催 障害者の保護者、グループホームの世話人、知的障害者施設「緑生園」の職員、当社の役職員からなる情報交換会を適宜開き、意見交換や勉強会を実施した。 エ 知的障害者のやる気を引き出す |
|

(3)取り組みの効果 |

職業生活相談員によるナチュラルサポート、職場定着推進チーム、外部関係者との情報交換会の指導援助機能を利用し、これらの三者の連携をとることにより、諸問題を大方解決できるようになった。 ア 職場での不満をぶつける所がなかったり、人間関係がうまくいかずにトラブルを起こすことがあったが、職業生活相談員を増やしたことにより、障害者への声がけが多くなり、生活相談員同士が指導の仕方について、意見を出し合い、悩んでいることをお互いに相談できるようになった。また、様々な相談にのり話しをじっくり聞いてあげたほか、健康管理面でも常時本人の顔色や態度をきめ細かく観察し、異常があれば早めに処置をとるなどの改善がみられ、この結果作業に集中できるようになった。 イ 社会や会社のルールからはみ出して生活相談員だけで対応がおいつかない場合、職場定着推進チームでの検討のほか、緑生園の先生方、グループホームの世話人、障害者の親とのネットワークを利用して迅速・的確に解決していくというシステムが定着し軌道に乗ってきた。情報交換会で協議し、中には生涯教育の中でもう一度やり直す必要がある人には、退職ではなく、緑生園で再教育という形をとり、現在2人が施設に戻っている。 ウ 勤務表の作成や目標設定により、知的障害者に責任感を持たせることができた。業務日誌で成果をきちんと確認することによって、自分が会社に貢献している喜びを感じてもらい、そこから「やる気」を引き出すことができた。また、鉄板洗浄で積極的に仕事に取り組んだ者にはステップアップの機会を与えているが、これまで厨房に2名、冷麺工房に1名を配置転換した結果、生き生きと意欲的に働いており、職場内に良い刺激となっている。 |

4.今後の課題・展望
当社の障害者雇用は、仕事をやって見せて、きちんと教えればこの子たちは絶対出来るようになると信じてチャンスを与えることからスタートした。しかし、その道程は順風満帆ではなかった。それを支えたのは12名に及ぶ職業生活相談員のナチュラルサポートであり、こうした生活相談員の長年の実績と積み上げが、今日をもたらしている。 また、施設側(緑生園)でも絶えず生活面のサポートに努めている。グループホームを訪れたり、定期的に職場訪問をしたり・・・このようなメンタル面でのフォローにも大いに助けられてきた。ネットワークの心強い支援もあった。 これらは、障害者を雇用している事業所としては、これまで15年間に及び築いてきた正に大きな「財産」である。今後の展望について邉社長は「これらの貴重な人的財産を極力生かしながら、社員やスタッフの協力を得て、障害者の雇用を充実させていきたい。職場の中に、ごく普通に高齢者も障害者もいるのがノーマルな社会であり、職場は小さな社会、社会の縮図ととらえるべきだと思っています。」と述べている。 | ![]() 緑生園やグループホーム世話人との 懇談会に出席する邉社長(中央) |

執筆者:(社)岩手県障害者雇用促進協会 事務局次長 古舘 博 |

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。