専任の指導員と父母の会が一体となった職場定着の推進
2002年度作成
事業所名 | 東邦メッキ株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 宮城県柴田郡 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 電気メッキ製品製造 自動車部品、弱電機器一般機器及び電装の表面処理 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 61名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 19名
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1.東邦メッキ株式会社の障害者雇用
自動車のハンドルを握って、宮城県仙台市のインターから東北自動車道に入り、15分もしないうちに、村田インターにつく。村田インターを降りて、「村田工業団地」を示す看板の案内にそって進むと、まもなく高速道路に隣接した東邦メッキ株式会社の社屋と工場(宮城県柴田郡村田町)に到着する。東邦メッキは、創業が1946年の会社で、以前は仙台に工場があったが、村田工業団地の開設とともに移転してきた。事業は、電気メッキ製品製造、自動車部品、弱電機器一般機器及び電装の表面処理、特に、キャブレーターの電気メッキを主な仕事としている。社長は、第三代目の島田博雄氏で、社員は58名を数える企業である。 東邦メッキの障害者雇用は、工場が仙台にあった時代にさかのぼり、聴覚障害者をはじめて雇用したことにはじまる。しかしながら、障害者雇用が本格化したのは、会社が村田工業団地に移ってからのこと。年々、雇用障害者数は増え、1993年に身体障害者8名(重度7名)、知的障害者10名(重度7名)、1998年に身体障害者5名(重度5名)、知的障害者13名(重度6名)、2002年現在では、身体障害者5名(重度6名)、知的障害者14名(重度5名)が働いている。今まで退職していった障害者は家庭の事情や病気を理由とした数名に過ぎない。1992年には全国障害者雇用促進大会に参加し、1996年は職場改善コンテストに出展、1999年には労働大臣より障害者雇用優良事業所として表彰されている。 現在雇用されている障害者は、最高62歳から19歳までにわたり、そのなかには勤続年数20年をこえる人もいる。障害者はグループ・ホームで生活している者以外は自宅で生活し、近くのJR駅からマイクロバスで通勤している。 会社が村田工業団地に移転して障害者雇用を本格的に始めるきっかけとなったのは、地域の精神障害者のための作業所から社会復帰のために職場体験をさせたいので協力を得たいという依頼であった。そのとき、精神科の医師が指導を担当し、作業所の指導員がフォローしてくれるということで、大きな不安はなかったということである。その後、養護学校の進路担当の先生が会社を訪れて来て、現場実習を引き受けて欲しいと依頼され、その現場実習をもとに、養護学校卒業生が入社することになり、順次、知的障害者の雇用がすすみ今日を迎えている。障害者の従事している主たる仕事は、メッキをする部品の治具掛け作業、検査と塗装の準備作業などである。 |

2.専任の担当者による社内での定着指導
![]() 専任の担当者は、各部門の業務遂行者と協働して、[1]マンツーマンで指導して、[2]次に独立して作業ができるようにし、[3]さらに健常者と一緒にラインにはいる、[4]最終的には作業能力のレベルアップとともに難度の高い工程に移行させる、という指導体制で職場適応を促す。また専任の担当者は、各作業職場の長(課長、係長、班長)と個別面談会を開いて、一般健常者の障害者雇用について理解促進を行うとともに、障害者についての不満を聞き出したり指導上の示唆を得るようにしている。さらには、知的障害者は仕事もさることながら生活面で指導が必要であることから、[1]あいさつの部、[2]普段の行い、[3]作業成績、の三部門での社長表彰制度をもうけている。作業成績部門は、作業優秀者と言うより努力した者を表彰する。毎月1名を部門ごとに表彰するとともに、年間最優秀者には副賞としてトロフィーを贈呈し、職場適応と勤労意欲のレベルアップを図っている。 専任の担当者は、障害者指導にあたり全幅な責任をあずけられている。作業中の本人たちを巡回して指導するが、今日では、作業は職場実習をしたことのある者については作業能力などの状況は知っていることもあり、専任担当者の主な指導は生活指導になる。彼らの職場定着には、生活面のしつけや挨拶などの指導をしっかりする必要があり、そうした生活指導があって職場人として育っていくと理解している。そうした育ちを確実なものにするためには、家庭の協力が必須であり、一人ひとりについて家庭とのやりとりをする連絡帳をもたせている。連絡帳の記入と家庭とのやりとりは専任担当者の仕事である。 さらに、毎週木曜日には、職員の朝礼のあと、本人たちの担当者が各自から定食の注文を聞いて、近くの弁当屋からお昼を取り寄せて、専任担当者をまじえてみんなでとるようにしている。加えて、知的障害者の年間行事なども用意され、お花見、カラオケ、一泊旅行、キャンプ、芋煮会などが開催され、そこには専任担当者だけでなく、ときには社長も参加している。こうしたお楽しみが、働く生き甲斐をつくりだしている。 専任の指導者が、社内で仕事を進めるにあたり、バックアップしているのは、養護学校の先生や地域の授産施設の方々である。専任の指導員が障害者対応に困ったときに、相談にのったりしているのが養護学校の先生や地域の授産施設の指導員である。彼らが学校での指導のし方や授産施設での指導のし方を教えて、社内での対応などに示唆をあたえているのである。加えて、障害者職業相談員資格の認定講習を受けた人が合計10名にもなっている。そのうち、障害者職業コンサルタントをしている人が2名いる。こうした人たちが、専任の指導員を支えている。 |

3.父母の会「むつみ会」
![]() 定例の「むつみ会」では、まず、専任担当者が会社での作業状態、家庭で指導して欲しいことなどを話す。つまり、各人の作業への取り組み状態と「自動車の出入で増加に伴う工場入り口で危険」「自転車通勤での交通事故への注意」など、その都度家庭でも指導して欲しいことなどが話される。一人ひとりについて話しをするのは、一人ひとりが個性をもち知的障害者といっても違っているからである。しかしながら、専任担当者が、「○×くんは、若い女性社員に気があるようで抱きつくようなしぐさをとって問題になった」ことなどを話題として提起すると、それに対して、保護者たちが、自分の子についてのことのように意見を述べる。当事者だけの問題にしてしまうのでなく、みんなで問題を受け止めて共同・協同して考えていくという雰囲気が、そこにはある。 また専任の担当者は、知的障害者が作業や職場での人間関係で悩みや苦情を家庭で言っていないかも聞いてみる。それは、知的障害者の会社での指導に示唆を得るためでもある。同時に、家庭での様子も話題になる。障害者スポーツ大会に東邦メッキのユニフォームを着て陸上中距離とフライイングディスクに選手を送り出した経緯もあり、毎朝薄暗いうちから近所を走っていることなども話題として提供される。最後に、「むつみ会」の企画する行事が話題になり、行事日程と参加予定の確認を行う。 |

4.東邦メッキでの職場定着の秘訣
東邦メッキにおける障害者の職場定着の秘訣は、社内における専任担当者による作業と生活の両面からの指導に連動した「むつみ会」の活動にあると言っても過言でない。社内での作業や生活指導と障害者を支える保護者の「むつみ会」での活動を連携のあるものにしているのが専任の担当者である。そして、専任の担当者が「こまった」というときに、障害者職業センターやハローワーク、とくに、養護学校や地域の授産施設の指導員がバックアップ機能を適切に発揮して専任の担当者と連携・協力する。東邦メッキは、障害者雇用に理解をもち、障害者の採用にあたり家庭と会社の連携を重視しているが、その重視の一つに、保護者を交えた行事の開催や連絡帳など家庭との連携、二つに、「むつみ会」の活動に反映している。会社の姿勢、専任の担当者の会社内での指導、「むつみ会」の活動に、養護学校や地域の授産施設等、外部の関係機関のバックアップが加わり、重度の知的障害者の職場定着が図られていると言える。会社-専任の指導員-「むつみ会」-養護学校や授産施設などの外部バックアップ、が一つのシステムとして職場定着を促進しているのである。 最後に、専任の担当者は、熱帯性の植物の一種を「葉ッピイ」と名づけて、栽培・販売に乗り出している。これは、企業内授産へと発展させたいという専任担当者の夢なのであろう。 |

執筆者:宮城教育大学教授 清水 貞夫 |

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