重度知的障害者の職場定着への取り組み
2002年度作成
| 事業所名 | 株式会社北日本リースキン | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 秋田県秋田市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 平成4年秋田基準寝具株式会社から独立して、洗濯業とともに清掃用品、清掃用具、清掃機器の販売及びレンタル業として操業を開始した。同業種の技術革新による新規参入など、乱立傾向にある中にあって、着実に事業展開を図り、年々その実績を伸ばし、県内の業界の中にあって地位を確実なものにしている。 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 22名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 2名
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1.取り組みの経緯、背景
| 地域から信頼され、愛され、地域と一体となった企業づくりを目指すことが経営方針となっている。また、親企業から引き継がれた障害のある人達との共同社会の構築が根底にあり、その理念を引き継いで会社を設立したものであるが、引き続く景気の低迷等から障害のある人達の雇用は少ないが、今回、秋田市内の知的障害者更生施設（バックアップ施設）が管理するグループホームから、障害者の障害特性を見極めながら重度の知的障害者を雇用し、関係機関と連携を密にしながら雇用管理のノウハウ探り、職業生活の継続を図ろうとするものである。 |
2.取り組みの課題
| 当該障害者は、「仕事に集中できない、仕事にムラがある」、「職場での対人関係（挨拶・返事等）」に問題があり、そうした問題を少しでも解決しながら継続させることが課題であった。特に具体的には、 ［1］ おしぼりの自動巻取機を操作して包装作業に従事させているが、集中力の低下（誰かが見ていないと手が止まる）から作業実績にムラがあること。（健常者の場合は一日約15，000枚できるが、多くて7，000枚で、その日によってムラがあり、少ないときは2，500枚～3，500枚まで落ち込むことがあること、その中でもおしぼりの不良包装が2割程度と多いこと）、また［2］ 挨拶及び返事については、挨拶は全くできなく、返事はする時としない時があること。勤務態度は、特定の人（工場長、直属の指導員、年配者1人）の指示は聞くが、他の従業員の指示は聞かず、不良包装がでた場合のやり直しなどで他の従業員とのコミュニケーシーョンがとれないため、不良包装を他の場所に隠すなど放置されている場合があること。 特に、「挨拶・返事をしない」ため「素直でない」と他の従業員との距離がどんどん広がり、作業面で協力・援助体制に問題が生じており、その修復が必要であること。 このため作業の集中力を高め、作業のムラをできるだけ少なくするとともに、挨拶・返事を意識化させて、他の従業員とのコミニュケーションを図っていくことが課題であった。 |
3.取り組みの内容
| これまでの作業態度（仕事への集中力）に関しては、「誉める」「叱る」、作業能率に関しては数値をとるだけの対応であったが、これだけでは根本的な課題の解決には繋がっていなかったため、障害者職業センターのジョブコーチとバックアップ施設に対して上記課題解決のため支援を要請した。ジョブコーチは、具体的な支援策を講ずる前に、本人の課題に対する認識の確認と課題改善への動機付けを行うことを目的に、事業主の許可を得て本人とじっくり話す機会を設定した。 その話し合いの中で、本人は、［1］作業に集中していない時があること、［2］能率にムラがあり、他の者と比べて作業遂行量が少ないこと、［3］挨拶・返事をする時としない時があることなどを素直に認め、それはいけないことであって、会社に迷惑をかけていることで、改善しなければならないことであることといった認識はもっていることが確認できた。 そこでこうした課題解決のための具体的支援策（改善策）として、［1］集中してやらないとできない量である7，000枚を1日の目標として設定して、ペース配分表を作成し、自らがペースメイクができるように促した。 |
| また、［2］対人関係については、外部の支援者や事業所の限定された従業員に対しては緊張感が高まり、挨拶・返事は意識して行えるが、他の従業員には態度が硬化するなど乖離が生じていたことから、ジョブコーチによる挨拶・返事の必要性を繰り返し指導するとともに、モデリングをとおして話し方やそのタイミングを付きっきりで指導を行い、基本を本人にフィードバックしながら自信を付与するとともに、この継続性を維持するため、毎日作業日誌」をつけさせ、挨拶・返事について意識した反省をさせることにした。 作業日誌は、事業所で毎日、バックアップ施設とジョブコーチで定期的に見ることとし、見られることによって「しっかりしなければ」といった意識を植え付ける効果と、しっかりできた時には誉めることによって認められたといった意識的な効果を期待した。この日誌は、本人だけでなくバックアップ施設の協力を得て、同じグループホームで生活し就労（実習）している人達にも記入させることで、本人の精神的負担の軽減を図った。 |  ペース配分表  職場のことば |
4.取り組みの効果
| 一日の作業目標を設定し、目標の明確化と時間帯ごとの目安ができたことから、自分のペースを調整して、コンスタントに一日7，000枚前後までできるようになり、以前のような2，500枚～3，500枚まで落ち込むようなことはなくなった。また、おしぼりの不良包装は、従来の2割程度から1割程度にまで減っている。 また、朝夕の挨拶の大切さ、他の人から何かしていただいた場合のお礼など、ジョブコーチが付きっきりで指導を行うとともに、「作業日誌」を付けさせ、挨拶・返事について意識した反省をさせ、多くの人達から誉められる機会ができた結果、これまで全くできなかった挨拶が大きな声で素直にできるようになったし、自分のロッカーへの行き帰りにすれ違った一人一人に、自ら大きな声で話しかけるなど表情に明るさが見られるようになった。 このように作業量の増加と不良包装の減少とともに、挨拶・返事が素直にできるようになったことから、他の従業員の見る目が少しずつ変わってきており、他の社員の職場での声かけや不良包装の処理などで協力的な変化が見られ、会社全体の雰囲気が以前よりも明るくなった。 |
5.専門家の視点による評価
| 労働習慣が乏しく、日常生活に必要な基本的な挨拶・返事など未熟な障害者を、いかに職場定着させるかを考えながら、根気強く見守り、タイミングを見ながら障害者職業センターのジョブコーチを要請するとともに、バックアッブ施設からも応援を求めるなど、潜在能力や働きがいを引き出しながら、いかに伸ばしてやるか、地道な事業主の努力によって重度の知的障害者を雇用継続させた好事例である。 しかしながら当該障害者は、勤務中も依然として「よそ見」や「ぼんやり」する時もあり、今後、こうした作業態度の改善を図りながら、いかにすれば作業能率の向上に結びつくか、試行錯誤を重ねているのが現状である。このように重度の知的障害者の雇用を継続していくためには、事業主の努力はもちろんのこと、働いている周囲の人達の暖かい声かけとともに、専門機関である障害者職業センターのジョブコーチ等による定期的な適応指導と、きめ細かな支援体制を継続することが必要であろう。 |
| 執筆者：秋田県中小企業団体中央会 総務部長 斉藤 信郷 |
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