障害特性に配慮した配置によって障害者が一緒に働く職場を実現
2002年度作成
事業所名 | 株式会社小嶋産業 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山形県酒田市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 縫製業(婦人服の縫製) | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 141名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 7名
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1.(株)小嶋産業の概要
小嶋産業の本社は酒田市の中心、山居倉庫のそばに位置している。業種は縫製業、具体的にいうと、婦人服のボトム(パンツ、スカート)を中心に、ジャンバースカートまで製造している。創業は昭和32年である。最初は木工業(コンクリートパネル)であったが、昭和50年、婦人服の製造を開始、その後木材部門を全廃し、縫製部門の充実を図り現在にいたっている。酒田に本社工場がある他、近隣の羽黒町にも営業所・工場がある。 従業員のうち5名が事務で残りの140余名はすべて「現場」で働いている。従業員の平均年齢は約45歳である。勤続年数については、「10年を超えるとあとは長く勤める人が多くなるが、10年以下だと出入りがかなりある」ということである。小嶋産業は地場産業であり、従業員も地元の出身者が多い。 製品に対してはもちろん自信をもっているが、小嶋産業の特徴はそれだけではない。現場で働く従業員の数が多いので、短期間の納期にも対応できるのである。ジャケットやスキーウェアなど工程数の多いものだと従業員の多いところもあるが、婦人服のボトムだけを製造している工場で、140名余の従業員がいるところはほとんどない。200~250着の注文であれば、裁断からボタンかけ・糸きりまで3日間で完了し、委託しているプレス工場に製品を送ることができる。しかもこの日数は特別に無理をしているわけではない。もっと急ぐなら、もう半日か1日短縮することも可能である。わが国の製造業はコストの安いアジア地域との競争を強いられている。小嶋産業は、短期間の納期に対応することで海外との差別化を図っているということである。ちなみに、小嶋産業での製造工程は、大まかにいうと「裁断→芯貼り(「型くずれ」しないように「芯」を生地の裏側に貼る)→ロック始末→本縫い(ミシン)→まとめ(ボタンかけ、糸切り)→検査」となる。 |

2.(株)小嶋産業における障害者の雇用
(1)採用のきっかけ |

障害者を雇用したきっかけは、職業安定所の障害者担当者から依頼されてということであるが、それよりも以前に中学の実務学級(特殊学級)を卒業した人を採用した。25~6年前のことである。その人は最初、製材部門で採用されたが、その後縫製の仕事に就き、現在も勤務している。 現在、聴覚障害者4人(うち、重度のもの3人)、知的障害者3人の障害従業員がいる。 |

(2)障害者はどのような仕事を任されているか-障害の特性に配慮した配置と工夫 |

[1] 配置 障害者は、ミシン工程のうち難しくない作業と芯貼りに配置されている。どちらの仕事もある程度独立していること、作業として難しくないことが特徴である。 [2] 聴覚障害者 聴覚障害者であると最大の問題はコミュニケーションがとりづらい、ということであろう。その点を考慮して、指示が複雑になってしまう工程ではなく、できるだけ簡易な説明でわかる工程を任せている。芯貼りは単純な工程であるので問題はない。ミシンを使う工程にはいろいろとあるが、あまり複雑な工程だと、作業の説明をするのに時間がかかるのだが、教える方も自分の作業をこなしながら教えることになるので、そんなに時間は割けない。従って、障害者には比較的覚えやすい工程を担当してもらうことになる。また、ミシン工程は連続作業であるが、その中でもどちらかというと独立した工程(例えばブランドネームを付ける)を任せるので、その人のペースで作業することもある程度可能となる。 [3] 知的障害者 知的障害者についても作業の説明は簡単ではない。障害のない人なら1回の説明で理解できるところでも、知的障害者の場合、何度か根気よく説明する必要がある。小嶋産業では「説明した人、伝えた人が、必ずその結果にまで責任をもつ」ということを全社的に確認しているということである。知的障害者がなかなか仕事ができないときや間違ったりしたとき、指導係りの人が「私は教えたのに」と言っても、小嶋産業ではそれは認めないのである。相手が理解し納得したことを確認し、それを実行できて始めて「伝えた」ということになるというのである。このような対応は少なくとも12,3年ほど前からできていたそうである。知的障害者と仕事をするようになって、最初はトラブル(知的障害者がうまく作業ができず注意されても、何で怒られているかわからず困ってパニックを起こしてしまう)もあったそうだが、そのなかで、責任の所在を明らかにすることが必要だと気づいたということである。 [4] 労働条件等 障害者が一人前の仕事ができるまでには、他の従業員の協力が不可欠である。短期間の納期にも対応できることが(株)小嶋産業の特長であることは前述した。従業員は一秒たりとも無駄にせず作業を行っている。障害をもたない従業員と同じだけの仕事をしたとしても、そこに至るまでに障害者には「時間・労力」がかかっているので、その分を賃金から差し引いている。従って、賃金は最低賃金を割ることもあり得る。その代わり、一緒に働き、一人前の仕事ができるようにしているのである。しかし、就業時間、休日など、賃金以外の労働条件はすべて障害のない従業員と全く同じである。 他の従業員と知的障害のある従業員との交流(仲良くする等)はあまりないということである。しかし、花見や忘年会など会社の行事には一緒に参加するし、そのことを他の従業員もごく自然に受け止めているようである。 |

(3)世話係り |

聴覚障害者の場合、仕事の最初には多少説明する時間が必要であるが、仕事を覚えてしまえばほぼ順調に作業を続けられる。知的障害者も基本的には同じであるが、それほど簡単にいかないことも多い。知的障害者の場合、複数の人からバラバラの情報を教えられると混乱することもあるので、1人=世話係りが教えるようにしている。世話係りの人選であるが、世話係りの性格や障害者との相性ではなく「仕事のつながり」から決めるそうである。この仕事をさせたいから、それならこの人に任せようということで決める。小嶋産業では従業員の90%近くが女性であるので、世話係りは女性となるが、年齢などについても別に考慮していないということである。それでもいままで障害者と世話係りとの相性でトラブルらしいことが起こったことは一件だけであり、それも世話係りを変えたらうまくいったということである。 |

(4)採用の条件など |

障害者を採用する際の基準の第一は、「勤勉であること」である。これにも関係するが、「眠くなってしまうような薬を飲んでいないこと」も採用条件となる。作業中眠くなってしまうようなことがあると危険であるし、工場全体の作業も遅れてしまうからである。そして「家族の協力」がある。家族に特に表立った何かしてほしい、というのではないが、本人が勤勉に働けるような環境を作っている家庭であれば、ということである。家族が熱心でないと、仕事を続けられないことも多い。本人が少しでも仕事に行くのを休みたいという素振りを見せると、休ませたり辞めさせたりしてしまうからである。 採用は面接によって決定するが、面接時に何ができるかを聞いて、配置を決めている。他の職場でミシンの技術を修得している人はミシンの工程を、そうでなければ比較的覚えやすい芯貼りの工程に配置するということである。現在、聴覚障害者と知的障害者を採用しているが、他の障害、特に四肢に障害のある人であると、作業の関係上、採用は難しい。 |

3.取り組みに対する評価
障害者が働くことができるか、また働き続けられるかについて、共に働く人たちの協力は重要である。コミュニケーションのとりづらい聴覚障害者と、仕事を覚えるのにある程度の時間がかかったり、工夫が必要な知的障害者に対して、小嶋産業は「できるだけ簡単な工程」(覚えやすい)「比較的独立した工程」に配置することで、一緒に働く人たちの負担も減らそうとしている。一方で、知的障害の特性に配慮し、「教えた人がその結果にまで責任をもつ」ということを全員に徹底することで、障害者に対する理解を深め、また、責任の所在を明確にすることで、トラブルを減らすことに成功している。 今後、小嶋産業では障害者の雇用数を増やす計画は特にはないということである。障害者の雇用は社会全体の責務であるし、一部の企業が集中的に雇う必要はない。その企業のできる限りで障害者と共に働くようにすればよい。そうして社会全体に障害者の働く姿がみられるようになることこそ、ノーマライゼーションであろう。 |

執筆者:東北公益文科大学 講師 澤邉 みさ子 |

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