「何もしていませんよ」
2002年度作成
事業所名 | 株式会社サンキムラヤ | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山梨県甲府市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 各種パン・和洋菓子・調理パン・弁当・惣菜類の製造販売・直営店・ガソリンスタンドの経営 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 316名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 16名
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1.特に改まったものではなく
今迄社員の採用は、作業に必要な職業能力があれば健常者・障害者の区別なく採用する方針で進んできた。従って、障害者の採用枠を設けたり採用のために職務開発や機械設備・環境の整備等特別に対策を講じたことはない。現に、身体障害者5人(1人は中途障害者)のうち4人は何れも一般募集で応募した者の中からの採用であるし、知的障害者11人のうち最近採用した3人についても、養護学校の依頼により例年実施している職場実習生の受け入れの際に、たまたま採用計画があったための採用である。また、特に知的障害者の教育やフォローについても、三角課長を中心に現場の管理者と連携しながら対応している。 現場管理者から問題事項の連絡を受けた時は、必ず現場に行きその内容を確認した上で、現場管理者と場合によっては親をも含めて対応を考え解決に向け実行している。 とかく特別扱いされがちな障害者雇用が、事業主の理解を前提に特に改まったものではなく、「極く自然に会社の中に定着している」という印象を受けた。 | ![]() (株)サンキムラヤ 総務課長三角日出夫氏 |

2.身体障害者の現状
現在働いている障害者16人の中、身体障害者5人については、聴覚障害者の筆談による意思伝達の不慣れさのために混乱が生じた程度で、採用から現在まで管理上とりたてて問題になることはないとのことで、話題は知的障害者の雇用管理が中心となった。 |
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3.知的障害者の現状
雇用されている知的障害者のIQは、40から70まで個人差はあるものの、IQ40の者も仕事に慣れさせ徐々に付加していくことにより、今は標準的作業以上の仕事を十分クリアしているし、全従業員を対象に行っている5段階の人事評価で中程度の評価をされている知的障害者もいる。また、会社設立以来15年勤続者が8人又5年、4年、3年の勤続者が各1人と勤務年数も長い。更に、家族を離れて独立して生活している者が2人いる。 この実績は、どのような雇用管理から築かれたのか、会社の取組みについて具体的な事柄の幾つかを紹介することとする。 |

4.本人を理解し育てる
最近の採用実績は、前述のとおり職場実習生を対象としているが、職場実習は同じ養護学校の3年生2人を別々に、2週間を2回計4週間実施している。実施中は、仕事の巧拙よりむしろ学校からの情報を基に本人の特徴を掴むことを主に考えている。身近な例として、作業服を着る、ボタンを掛ける、名札を付けるなど着替えの様子から動きの早さ、指先の動き、正確さや慣れの程度を捉えるように心掛けている。 採用時の面接では、本人の家庭での様子に加え親の考え方を十分に聴き、その上で会社の要望を話し会社と親の協力関係が強く結ばれるよう努めている。これから本人が通り抜けていくであろう厳しい体験を、過保護に陥らず自立させるために、じっくりと見守る覚悟を特にお願いしている。 採用後の職場配置の際は、学校の情報、実習の成果、親との対話等で得た本人の特徴の中からできるだけ「良い情報」を担当課長に伝えている。「良い情報」、「心配になる情報」どちらを主に伝えるかによって、ミスがあったときに「たまたまなのか」、「やっぱりなのか」の評価に分かれ、その後の成長に影響するようである。また、従業員が先入観をもって受入れることのないよう、障害者であることを担当課長以外には基本的に公表せず、自然に職場に溶け込むように配慮している。職場の同僚は、仕事中は厳しいが仕事を離れれば、代筆をする、身繕いを手伝う、一緒に弁当を食べる、話しをするなど基本的に優しく自然に理解して良い人間関係を作っていると受けとめる。 三角課長の場合、工場内の作業にも一通りの実務経験と知識を持っているので、その体験を生かし職場実習期間中と職場配置後の1週間位は一貫して障害者の仕事の指導に当たっている。この方法は、本人の特徴を考え合わせながら焦らずにしかも自分の体験を通じて難しいところ、手先や体の使い方など現場の熟練者だと見落としてしまう様な事が教えられることと、本人の緊張感を和らげ安心して仕事を覚えたり環境になじむことが出来る利点があると思われる。 親と会社との信頼関係、本人の特性を生かす職場配置、一貫した作業指導等で仕事を覚え環境になじませる。苦心の程が伝わってきた。 |

5.いろいろなフォロー
個々がそれぞれの性格を持っているし、時には予想もしなかった行動を取ることがあるので、出社から退社まで出来るだけのフォローを心掛けている。 毎日の職場生活の中で周期的に行動と精神状態が変化する者。例えば給料が振込制に変わり受領印は不要なのに給料日には必ず押印に事務所に来る者など様々であるが、概して会話は断片的で一貫性に乏しいので会話を通じてその行動や精神的な変化を理解することは困難である。しかし、その行動を見過ごしたり会話を聞き流すのではなく、行動を受け止めて何を求めているのか、何を訴えたいのか、個人の特徴を念頭において、その奥底に潜んでいる心情を察するための努力を重ねながらのフォローを心掛けている。 朝6時に出勤して始業時の工場内の点検、仕事の合間を縫って2~3回作業現場へ行き確認、夕方には取り止めのない会話に来る者の相手等々かなりハードな毎日の三角課長であるが、一人一人の行動を見つめきめ細かなフォローの大切さを実践している様子が窺えた。 (註)知的障害者の勤務時間は次の3シフト 8:00~17:00、9:00~18:00 18:00~ 3:00の夜勤(勤務者2人) |

6.親のように
事務所での話の後、作業現場を見学した。毎日同じ作業の繰り返しと想像していたが、仕事そのものは単純ではあるけれど、製品の種類や数量によって違うラインでの作業、ラインスピードの違い、手順の違い等、日や時間によって異なる作業環境の中で明るく生き生きと働く姿を見て、ここまで育ててきた苦心さに思いを馳せながら心強さを感じた。 採用した障害者がすべて定着しているわけではないが、定着率を高め自立に向かって育てるためには、個人と正面から向かい合い、焦らずに個人の全体像を親と同じような気持ちで理解することの大切さと、その難しさを話しながら、一人一人が成長していく姿を楽しみにしている、そんな熱き心が伝わってきた。 |

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執筆者:有賀社労士事務所 社会保険労務士 有賀 武雄 |

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