知的障害者も職場改善のアイデアを提案
2002年度作成
| 事業所名 | 株式会社リンクス | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 岐阜県関市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 印刷 特にキャンペーン時の商品ディスプレー用の棚や看板 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 79名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 5名
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1.実施に至った経緯、背景
| 知的障害のある人については、10年前に中濃養護学校より話があり、まずは一人雇用してみようということで、障害者雇用に理解のある担当者が話をすすめた。最初採用した人がよかったので、その後徐々に雇用を増やしていった。養護学校および知的障害者施設とのつながりが大きく、職場だけでなく生活面でのサポートがあり、雇用が成功していると思われる。 身体障害のある人については、もともと雇用していた人が中途で下肢の障害を負ったもので、コンピュータを使ってインクの色を調合する業務の責任者として重要な役割を担っている。自己管理できる方であり、特に環境整備や待遇上の配慮がなくても支障なく勤務している。 |
2.取り組みの内容及び効果
（1）仕事の内容 |
| 印刷機の操作、印刷物の型抜き、運搬、梱包など、一連の過程のさまざまな部署に従事している。印刷物といっても立て看板などの厚く大きなものなので、量が多ければかさばり、重く、扱うのにかなりの労力がいると思われる。 |
（2）この事業所の取り組みの特徴 |
| 他のスタッフとうまく協同することにより、さまざまな仕事を可能にしていることが挙げられる。その結果、単純作業に没頭することは少なく、工程のさまざまな部分に関わり、協同で仕事をしているという意識が生まれ、やりがいを生みだしていると思われる。 障害をもつ人を配慮して、職場全体で特別に指示したり対応したり、また啓蒙を行うということはしていない。個々の場面で、指導したり支援するということはもちろんあるが、スタッフは全員普通に接しており、人間関係がこじれたといった問題は特にない。ただ、知的障害のある人は全般的におとなしく、積極的にみんなと会話したり交流するというわけではないようである。 |
（3）勤務状況 |
| 勤務状況は良好である。時々遅刻する人はあるが、基本的には休まず、まじめに出勤している。また、定着率も大変よく、やめた人はいない。能力面で問題のある人も特にいない。あの人は知的障害があるといわれなければわかならないほど、まわりのスタッフに伍してやっている。 |
（4）アイデアの募集 |
| 職場改善のアイデアを回収箱を置いて募集しており、ひと月に一回会議で取り上げている。知的障害のある人も意見を書いて入れてくれる。「型抜き後の不要な部分をきちんと集めるようにするとスペースが有効に使え、回収業者も楽にもっていける」と提案した人もいる。このように、自分の業務に対する関心度が高く、それが周囲の理解や協力体制を作りやすくしているということが言える。 |
3.雇用上の課題、配慮していること等
（1）家族や関係機関との連携 |
| まず、家族や、養護学校の教師、知的障害者施設の職員との連携が欠かせないと言うことがいえる。家族の協力も重要だが、専門的なスタッフが時折尋ね、生活面での指導や緊急時の対応をしてくれることがありがたい。 |
（2）てんかん発作がある事例について |
| 通勤途中や勤務中に発作を起こすことがあり、以前は頻繁にあったが最近は服薬がきちんとしているせいか少なくなった。一時的な意識障害があり安静にいればよくなるが、大事をとってその日は休みにする。近くの知的障害者施設の出身であり、現在は職場の近くの団地内にあるグループホームで生活している。施設のスタッフが生活面でサポートしているので、発作があったときは連絡して引き取ってもらう。大きな発作があった時は慌てるが、一見困難はあるようでも、周囲の理解と健康管理で就労を可能にしているケースである。 |
（3）生活面の配慮 |
| バイクでの通勤途中でちょっとした事故を起こした事例もある。また、かぜをひいたり、仕事中に体調を悪くしたりということもある。生活指導や健康管理、仕事のスケジュールや行事などの連絡や、施設のスタッフ・家族との情報交換のために、連絡帳をつくりやりとりしている。 生活面や人間関係面で、多少指導的になることもある。呼んでも返事がない、声が小さいなど、注意することもある。昼食はみんなで取るなど、孤立しないように働きかけている。また、作業する場所を掃除することや、制服、靴などをきちんとして動きやすい服装を心がけるなど。やはり安全が第一なので、危険がない状態で働けるように、スタッフ全員で気をつけ、必要があれば注意している。 |
（4）社内体制 |
| 知的障害をもつ人へのサポートは、全員で心がけているといえるが、特に、面倒見のよい年輩のスタッフがおり、定年を迎えて再就職した人であるが、実質的な担当者となっているようである。 |
（5）採用について |
| 養護学校の高等部にいるときに体験学習にくるなど、予め仕事の内容を知ってもらい、こちらも仕事ができそうか見極め、納得した上で採用を決めている。 |
4.コメント
| 知的障害者養護学校の卒業生の受け入れを積極的に行っている事業所の事例である。工程ごとに、ゆったりとした作業室（スペース）があり、印刷機はかなり大がかりのもので、安全への配慮を重視するという言葉が重みを持って感じられた。 この事業所の特長としては、知的障害の特性を理解した上で、適性配置を心がけ、周囲の協同作業をとおして、安全管理や労働意欲向上を図ることにあると思われる。てんかん発作など身体症状への理解や対応というレベルから、コミュニケーション能力のハンディキャップや人間関係の脆弱さを補う、ということまで、特に意識することなく実現している。その要因としては、周囲のスタッフが知的障害者を自然に、無理なく受け入れ、必要な指導や注意はするが、基本的な信頼関係を結んでいることがまず挙げられる。おそらく知的障害者の能力が割と高いこともあるだろうが、周囲の暖かくゆとりのある、過度に干渉的にならない配慮が想定される。また、知的障害者施設や養護学校の専門スタッフの協力も重要な要因である。これらの社会資源が近くにあり、迅速な対応が可能であることも、雇用者に安心感をもたらし、困難な障害がある人の雇用を促進する大きな要因になると思われる。 |
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| 執筆者：中部学院大学短期大学部 稲垣 貴彦 |
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