知的障害者の職場定着雇用拡大を図る取組み｜障害者雇用事例リファレンスサービス

知的障害者の職場定着雇用拡大を図る取組み

2002年度作成

事業所名

株式会社中里メッキ

所在地

静岡県富士宮市

事業内容

自動車・電機・各種機械部品等の電機メッキ、カチオン塗装

従業員数

59名

うち障害者数

12名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	12
精神障害	0

目次

取組の背景
取組み事例
全体としての評価

（搬入搬出の各社各種材料ケースが工場入口に高く積まれている）

1.取組の背景

メッキ業種は、特に前処理作業に多くの反復労力を必要とするため、人手不足時代を経てこの企業でも障害者の職場開発がすすめられ、現在では、前処理工程にとどまらず、各工程に知的障害者が配置され重要な労働力として評価されている。
しかしながら、近年の「少量多品種」、「精度・納期要求の厳格化」、「単価切下」、「受注競争激化」等など産業界全体の要求が厳しくなる中で、労働生産性を高め知的障害者の雇用維持・拡大を続けることは、企業にとって少なくない研究、努力を要する課題となっている。
一方で、「知的障害者」という言葉で一括してくくれない多様な特性を持っている障害者を、「効率」優先の企業が、雇用継続していくことは簡単なことではない。
この事業所がすすめている取組を、「職場定着」を中心に、個別の具体的事項ごとに取り上げて参考の事例とする。

2.取組み事例

（1）自閉症を持つ重度障害者への配慮

A君は、ちょっとしたことでパニック状態となり、奇声、暴力に及ぶなど特に配慮が必要とされていることへの配慮。

作業配置	工場内では、事務所（職業生活相談員）に最も近い場所で作業をさせている。異常事態にもすぐ対応出来、本人も落ち着いて作業が出来るようになっている。
目的意識	作業チームの女子リーダー（Bさん）に暴力を振るうケースがあったが、「A君はBさんを守る人になりなさい」と励まし、周囲の激励援　助もあり好結果を生んでいる。

これらの配慮は、就労支援の専門家からも「適切な対処」と評価されている。

（2）「業務遂行援助者」の選任と活用

知的障害者が多数働いていることから、「業務遂行援助者」を配置することとした。
選任にあたっては、役職等にとらわれず、執務態度、日ごろの障害者へのかかわり方などに注目して若いU君を抜擢した。
U君は、働きながら定時制高校を卒業した経歴と、温厚な人柄、公平なものの見方、障害者への理解と配慮を備えた有能な現場労働者である。
何事にも熱心に取組むU君の的確な作業段取り、指導助言が継続的に行われて各部署の作業効率も向上している。

（3）作業設備の改善

メッキの前作業行程では、材料部品のフック懸架作業がある。
材料の形状・大きさは多種多様で、材料によりフックの変更が必要となり、自動化できない労働集約的な作業である。
従来、［1］移動用の型枠に各種フックを並べ、［2］それに材料部品を懸架して、［3］ストック場所まで移動、［4］工程の順序により再び自動ラインに運搬してメッキ作業をしていた。
これを自社で回転式「ハンガーストッカー」を開発し、［1］［3］［4］作業を省略。材料の懸架とスイッチ操作のみでメッキラインに移動させるようになった。
複数の作業工程を単純化し移動もなくなったことで、反復継続作業の習熟により重度障害者の安定的な職域として雇用の拡大が可能となった。

材料は多種多様で、フックの形もそれぞれに合わせて異なる

（4）マイクロバスによる通勤手段の確保

公共交通機関の便も悪い富士山麓の工業団地は、運転免許のない障害者には就業の機会が閉ざされているに等しい事業所立地条件であった。
通勤バスの配置により、広域からの障害者雇用も可能となった。
特に知的障害者の定時の集合は、自立支援のトレーニングにもなり、また通勤車内で同僚と交流することで相互の理解につながり、働く職場環境の向上にも役立っている。

（5）家族との継続的な連絡の維持

「コツコツ努力する」といった性格や日常の生活習慣は、成育課程の環境から形作られているところが多いように感じられる。能力の問題ではなく、こうした特性が、雇用する側には極めて重要である。
作業、生活上の些細な出来事も、原因の解明・克服には家族の協力なしには解決できないことが多い。従って個々人の状態の理解、就業の継続には家族との連携が不可欠である。
事業所では、「連絡帳」或は「定期的面談」で、家族に職場の様子を伝えるとともに家庭での様子も聞いて互いに理解をすすめている。突発的な事態には、即時連絡を取り合う体制を作って問題の解決を図り、安定した就業の継続を図っている。

（6）職場従業員の理解の推移

障害者を特別扱いするのではなく，同僚が職場の上司、先輩として作業を指示、指導し、時間外の交流も含めて対等に交際していくには、「障害をありのままに受入れ、理解する」、その「理解」が極めて重要である。
この点で、職業生活相談員を配置し、日常的に障害者雇用の機運を醸成していることが障害者理解の雰囲気作りに好結果をもたらしている。
また、障害者の健康、体調に常に気を配っていることも、問題発生の未然防止にもつながり、職場定着に大きく貢献している。

（7）幹部職員の熱意と実践

この会社の社長は、工業団地の理事長を勤め、機会あるごとに他企業に対して「障害者雇用」の必要性を説いている。
障害者と真剣につき合っていくことで、業績の向上にもつながると確信している。
職業生活相談員のIさんは、事務所の激務をこなしつつ、障害者雇用継続，定着のためのあらゆる事態に対応するため、勉強し、実践し、現場をリードしている。
他に、業務遂行援助者のUさん、各現場の責任者等を含めて事業所全体が知恵を出し合い、重度を含めて12名という少なくない数の知的障害者を抱えて職場定着への努力を行っている。

障害者とともに、社長も現場で先頭に立って働いている

3.全体としての評価

この事業所のさまざまな取組は、決して特別際立った取組をしているわけではない。
日常の職場運営の中で、目立たないが随所に細かな気配りがあり、このことが最大の特徴といえるかもしれない。
要は、障害者への理解、雇用への信念・熱意・情熱、このことが全ての源泉であり、その職場実態に合わせた多くの改善の努力と工夫を生み、良好な結果を招いていると考えられる。
社長をはじめ、職業生活相談員など幹部職員の障害者雇用へのスタンスが「決め手」、という事業所である。

執筆者：静岡県障害者雇用促進協会　雇用推進技術顧問　中島　義夫

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