その人に可能な作業訓練と円滑な日常生活が職業生活を継続させる
2002年度作成
| 事業所名 | 田中青果加工株式会社 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 三重県上野市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | バナナ熟成加工を中心とした加工業と、それらをスーパー等へ卸す卸売業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 73名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 8名
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1.採用について
| 事業所としての障害者雇用の取り組みは、最初に知的障害者の特徴や留意点を把握し、障害者理解をする為に勉強会を開催し、障害者本人たちの声を少しでも反映させようと努力している。 採用に際しては欠勤しない事、仕事をサボらない等、職務における継続性を重視している。また雇用上の問題として、事業所が対応できるのは勤務時間内のみであり、それ以外の通勤や休日・勤務時間外は事業所が直接に関わる事は現実問題として困難であることから、最低限、事業所まで自力で通勤できる事を前提条件としており、入社当初は授産施設等の職員や家族の通勤指導を必要としたが、現在は8名全員がバス、電車、徒歩などで自力通勤をしている。 |
2.職場配置と労働条件
| 作業工程については、 ［1］バナナを箱から出すパート、 ［2］バナナを規定の本数にカットするパート、 ［3］バナナを袋に詰めるパート、 ［4］封をし、シールを貼るパート、 ［5］バナナを箱に戻すパート、 ［6］空箱にマットを敷き準備するパート、 ［7］商品をパレットに積むパート に分けられ、障害を持つ従業員はその内［1］［3］［6］［7］に従事している。 作業は一人1工程であるが、ステップアップした人は、2ないしは3のパートを入れ替わりながらこなすことが可能となっている障害者もおり、この各工程の習熟度によって賃金が決定され、最低賃金除外申請が3名（うち2名は今年中に最低賃金へ移行）、最低賃金3名、能力給（時給850円等）2名となっている。 |
3.指導体制と定着に向けての試み
| 各工程にはライン責任者がおり、技術指導はその責任者の下で行われている。どの作業も一定のスピードが要求されるものであり、習熟度を高めるにはかなりの訓練時間を要するものであるが、重度障害者2名には介助等助成金制度を活用して、介助者を配置して、決め細やかな指導を行なっている。指導の重点は叱ることよりも誉める事に重点を置き、出来るだけ声をかけてコミュニケーションを図ることに心掛けている。 採用後の感想をH課長にお聞きしたところ、『手帳の判定と職務能力にはさほど関連性がないように思います。』ということであった。軽度の判定であっても問題を起こす人はいるし、重度の人であっても職務は忠実にこなしている人もいる。採用後の状況をよくみていると、影響しているのはこれまでの生活環境が重要な要素となっているように思われる、とのことであった。家庭において自立に向けた意識的な関わりが出来ているかどうか、これが職業生活を支えるという事として考えられる。以前は従業員同士喧嘩をして、家族の方に来ていただいたこともあるが、家族や施設の方と話し合いをすることにより改善され、現在のところ問題はなくなった。職業安定所の方や出身施設の方が年に1度程度激励に来ることも刺激となり定着の一助となっている。 また、就業面では体力面を配慮し退社時間を早めるなどの配慮を行なっている。（表1）他の従業員との関係も、主に同年代の従業員との交流が中心であり、時間外や休日の過ごし方については関与できないが、職業生活相談員（H課長）を中心とした職場定着推進チームの指導により、時間外・休日等における社内行事や社員旅行にも積極的に参加をしており、定着の一因となっている。 今後必要なこととして、現在も続けているが、バックアップ施設との連携を今まで以上に密にする必要があり、特に、現在グループホームから通勤している者について、グループホーム職員や出身の施設との連携をより密にする必要性を考えており、連絡会の開催等も検討していきたい。また、家族との関係については何か事案が発生した場合に連絡をとるだけではなく、普段から定期的に連絡を取る方法も考慮していきたいとのことである。 表1：1日の流れ（ただし、体力的に困難な従業員については16:00で退社となる）  |
4.『実習生の受入』について
| 実習について、これまでも何度か実習生を受け入れており、受入については積極的にされているようで、訪問した時にも2名の実習生がおり、実習生は障害を持った従業員の横で同じように作業に従事しており、非常に安心感を得ることの出来る環境での実習であることを実感させられた。 H課長は、これまで採用した障害をもった人達が実績を作ってくれているので、実習生については今後も受け入れていくといっておられた。 これまでも養護学校からの実習生や、知的障害者更生・授産施設・作業所からの実習生を受け入れてきたそうであるが、障害者職業センターの職域開発援助事業を利用した実習は特に利用しやすいと話されていた。実習生にジョブコーチがついてくれるので、事業所側の負担が軽減される事が大きな要素となっているようである。今年中にあと2名、職域開発援助事業を利用して実習を受け入れるとのことであった。ただ、これまでに知的障害を持った方しか受入をしていない経緯があり、「視覚障害を持った方からの依頼が一度ありましたが設備面の不十分さからお断りをしました」、とも話されていた。 障害者雇用に積極的な事業所であっても、受入が可能な障害種別がある、という事がうかがえる。 |
5人の従業員とのやりとり（K．Hさん）
| Kさんは雇用されて2年目で、現在はバナナの袋詰作業をしている。以前に勤めていた事業所では、他の従業員から嫌がらせを受けた事と、グループホーム内のメンバーとの折り合いが良くなかった事が重なり退職したとのことで、この事業所は以前入所していた施設の職員から紹介をしてもらい、視力があまり良くないので、作業する商品が適当な大きさであり、扱い易いという点から、自分に出来そうなので就職を決めたとのことでした。 今の仕事について、『最初はしんどかったが今は楽しい、来るのが楽しみになっている。』とのことで、食べる事が好きなKさんにとって、食べ物に囲まれたこの事業所は魅力的な事業所となっている。 『仕事を覚えるのに、勤務当初の3日間は施設職員が付き添い助けてくれ、同時に会社の人の付きっきりの親切な指導で仕事が出来るようになった。現在は一つの作業しか出来ないが、次の作業を覚えることもしていきたい。』と意欲的に話していた。 『この間、自分の小遣いで志摩スペイン村にグループホームの友人と行ってきた』と嬉しそうに話をされ、『お金を得ることで欲しい物や旅行などに行く事が出来るようになり大変嬉しい。現在の賃金は、就職時から徐々に上がっており、現在は10万円程度の給与を貰っている』と話をされ、一定水準の給与が本人のやる気を維持させ、職場の定着継続に繋がっていることが伺われる。 職場での人間関係についても、『特に困った事はなく、もし困った事があればH課長やライン責任者に相談をします。』と明確に答え、もしH課長やライン責任者がいなかった場合には、出身の施設やグループホームの世話人に相談をすることにしていると、問題発生時の受付窓口がはっきりとし、障害を持った従業員の方もそれをしっかりと把握しているところに問題が起こりにくい、起きてもすぐに対処できる体制作りを事業所が目指している様子がうかがわれる。 Kさん自身、普段からグループホームの友人や世話人さん等とよく話をしており、様々な事をためこまないようにされており、休みの日には施設に顔を出す事で、施設側ともよく情報交換がされているのではないかと思われる。日常生活を円滑にする事が出来ていれば、職場で何らかの問題が発生しても乗り越える事が出来る。以前のグループホームでは友人や世話人さんとの相性がよくなく、退職・退所という結果になったようであるが、今回はそのようなこともなく、楽しい職業生活を送っている。 |
| 執筆者：佛教大学大学院 博士後期課程 社会学研究科 播磨中央福祉専門学院 専任教務担当教員 尾崎 剛志 |
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