聴覚障害者雇用にあたっての社内検討とマンツーマンでの徹底指導
2002年度作成
| 事業所名 | 住友精密工業株式会社 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 兵庫県尼崎市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 輸送用機器製造業 （主要生産品目 航空機装備品他） | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 1,249名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 15名
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1.取り組みの経緯
| 平成8年1月に聾学校から、採用内定取り消しになった生徒の採用の意向打診があり、これがこの企業の聴覚障害者との出会いであった。 それまでの障害者雇用は、主に在職者の中途障害者と、障害者雇用率達成のために中高年齢者障害者の雇用などで、「長期戦略がない」「前向きに進めて行かなければ」と考えていた時期であった。 聴覚障害者の採用にあたり、どの程度の作業が可能なのか、まず実習を受入れることにした。更に、聾学校への見学と、聴覚障害者の雇用経験豊富な企業を見学し、受入れに対する問題点・留意事項など、更に聴覚障害者の特性などの基礎知識を習得した。 特に、この聾学校は2年間機械作業や溶接などの実習があり、物つくりの楽しみと危険性などを充分体験していたので、少しは安心した。 最初の採用者の人柄の良さと、働きぶりなどが評判になり、全社で充分戦力になると評価されだし、次の聴覚障害者の採用につながっていった。 更に、彼らの頑張りを見て、まわりの健常者も刺激を受け職場の活性化につながり、お互いにサポートし合う優しさや、心遣いがこれまで以上に色濃く生まれてくるメリットが出てきた。 |
2.取り組みの内容効果
（1）受け入れにあたっての検討 |
| この企業の作業は高度の精度を要求される航空機装備品の少数生産加工が主で、従って流れ作業の量産工程はほとんどなく、大半の作業がスキルアップした熟練者による“人間でないとできない工程”が多い。 当初障害者雇用について、その職務開発、職場配置などを検討した際、聴覚障害者の特性を活用できる職務として、新たに職務開発・職域拡大などを行うのではなく、現存する職務をそのまま新規障害者の職場として充当し、敢えて難易度の高い、職人芸が要求される精密作業を担当させて、物つくりの価値観を体験させることにより、社会参加をしている使命感や生き甲斐を体得させ、ひいては労働意欲の向上につながるものと総務人事部主導で雇用計画が推進された。 社内の職務を把握している担当が個々の部署へ聴覚障害者雇用についてのプレゼンテーションを行い、強力な指導のもと計画は推し進められた。現場の意見は、まず安全の問題や教育訓練を考慮して、難易度の低い作業を主張したが、熟練した職人の養成を主眼とした雇用であることを強調して理解と合意を得た。  （P-3C 機用プロペラ） |  （CRJ前脚カナダ70人乗りジェット機）  （US-1A 主脚） |
（2）配置・教育訓練 |
| 基本的に一部署単独配置で、マンツーマンによる指導を原則としている。作業内容のみならず社会適応などの指導助言が可能な担当者が指導に当たっている。作業指示や訓練は100％の伝達が必要なことから徹底的に筆談を原則とし、手話を否定するものではないが作業指示にはほとんど使用していない。簡易な伝達などは口話などで十分意志の疎通はできており、日常職場でのコミュニケーションは不自由を感じていない。また、安全面の措置として聴覚障害者には危険を知らせるバイブレーターを所持させているが、現在まで使用されたことはない。 マンツーマンによる指導により、職場での安全衛生の問題、職場適応、それに心配された聴覚障害者特有の情報障害に起因する職場の人間関係なども順次クリアされ、障害者の分散配置に伴う本人の孤立化の傾向もなく、いまでは本人の労働意欲の高揚や所属意識の向上に十分な成果が確認できている。 | |
| ■部署 航空宇宙機器生産部 [作業内容] 熱交換器として使用する波板等の放電加工機の操作作業 本人の言葉（聴覚障害）勤続6年 私は聴覚障害者のいない会社に入社して友達ができるか心配でしたが、まず総務人事部の方、次に職場の人達、そして陸上部の人たちが友達として助けてくれました。職場は忙しいがとても働きやすい。これからも努力して頑張りたい。 |  |
| ■部署 航空宇宙機器生産部 [作業内容] ひねりの入った3次元的なプロペラの精度を要する最終研磨に従事 本人の言葉（聴覚障害）勤続5年 体力もいる作業でしんどい時もあるが仕上げロボット等を使えるし、やりがいがある。 |  |
| ■部署 航空宇宙機器生産部 [作業内容] ミクロン（1/1000ミリ）単位の精度の高い研磨作業で集中力・根気が不可欠な作業 本人の言葉（聴覚障害）勤続5年 この会社に入って良かったことは聴覚障害者に理解があることです。最初は細かい仕事が苦手であったが努力して克服できた。これからも積極的になんでもできるように頑張ります。 |  |
| ■部署 熱交換器生産部 [作業内容] アルミ溶接作業 本人の言葉（聴覚障害）勤続4年 上司や先輩にいろいろ教わり仕事はやりがいがあり、毎日が充実している。はじめコミュニケーション問題で困ったが、今は皆がわかってくれ、筆談やゆっくりと話してくれるので困らない。これからは仕事もいろいろできるよう頑張りたい。 |  |
| ■部署 航空宇宙機器生産部 [作業内容] 主に航空機用の電子部品を格納させるボックスの組み立て 本人の言葉（聴覚障害）勤続2年 流れ作業でなくいろいろな仕事ができることが良かったです。手話ができる人とは手話でコミュニケーションしますが、大勢の人がいるところでは口話になり、わかりにくいことがあり、いやな気持ちになることがあります。職場に聴覚障害者の先輩がいるので周りの人々が理解してくれています。健聴者と同じレベルの仕事ができることが目標です。 |  |
| ■部署 熱交換器生産部 作業内容 各種産業用の熱交換器の組立て作業 本人の言葉（聴覚障害）勤続2年 作業環境が良く皆さん親切です。 仕事の内容もだんだんわかってきて楽しく働いています。 |  |
3.今後の課題・展望、考察
| この企業の障害者雇用の基本理念は障害者を一人前の企業の構成員として育てることにあり、従って社員はすべて平等を基本に考えているが、障害者の今後のステップアップ等の問題は、本人の能力や今後の努力によるもので、この点は一般健常者社員と同様でなんら変わるものではない。 障害者雇用の理念は現在すべての職場で理解を得ているわけではなく、今後各職場の理解と合意を得て、更なる新しい職域の開発につながることが期待できる。 聴覚障害者雇用の取り組みのきっかけは、偶然ではあったが生産工程の職務が聴覚障害者の特性にマッチし、個人の特性を活かした職場配置と徹底したマンツーマンの指導が成果を上げている。加えて職務を知り尽くした総務人事部担当者主導による職場開発の結果によるもので、『社会に心をひらき環境・地域との調和・共存に努めます』と企業理念に謳われているとおり、地域社会でのノーマライゼーションの実現をサポートする基本的理念のポリシーは雇用の現場に随所に表れている。 なお、平成15年4月に聴覚障害者1名の採用が内定している。 |
| 執筆者：伊藤 泰助 |
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