みんなの知恵と工夫で優しい職場づくり
2002年度作成
事業所名 | 株式会社府中テンパール | |||||||||||||||||||||
所在地 | 広島県広島市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 漏電遮断機・配線用遮断機・住宅用分電盤・漏電リレーなど安全機器全般の製造 家庭用医療用具・健康機器の製造販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 200名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 20名
![]() |
|

1.取り組みの経緯
昭和52年、公共職業安定所から障害者雇用の話があり、社内で話し合った結果、受入れをすることにした。しかし、これまで障害者雇用の経験が全くなかったので戸惑いもあったが、「障害のある人も、ない人も全てみんな一緒。特別なことはしない。」という方針で雇用をスタートすることにした。同時に、障害者の40歳という年齢を考え、指導者には高齢者のベテランを配置した。 聴覚障害者のため、話は殆ど筆談だったが、真面目で一生懸命仕事に取組み、理解も早く、特に集中力に優れ必然的に生産力のアップにつながってきた。その様子に社員もびっくりして、逆に刺激を受け、会社全体にいい雰囲気が生まれた。 次の年に、「仲間を2人採用してほしい。」と本人から要望があり、喜んで受入れをし、職場に配置した。 採用後、彼女達も、最初の人に負けないくらい熱心に仕事に取組み、しばらくすると、その職場は男性の指導者1人と3人の障害者に任せることができるようになった。 その結果、障害者に対する認識が大きく変わり、以後の障害者の雇用に一段と弾みがつくこととなった。 |

|

2.取り組みの内容及び効果
(1)働く環境作り |

従業員の中には、聴覚・身体・知的の障害など様々な障害を持っている人が働いている。そのため工場内は全てバリアフリーにして車いすの人も自由に移動ができるようにし、配線関係も床から全て天井や側面の壁に移動させ、作業が簡単にスムーズに行えるように工夫している。 その他、工場内の廊下やロビーを隔てる扉も、車いすでも開きやすい引き戸を採用し、間口も広く取っている。 また、安全面にも細かい配慮がされており、トラブルが発生したときのためのパトライトを設置し、トラブル発生時にはボタン一つで周囲に異常を知らせることができ、聴覚障害の人に対しても異常がわかりやすい装置となっている。 みんなの知恵と工夫でいろいろ改善され、人や台車などの動きも大変楽になり安心して仕事に打ち込め、全体的に効率も上がり社員から働きやすいと好評を得ている。 |

|

(2)作業教育 |

障害者が入社した時の作業教育は、人によって指示ややり方が異なり、多くの混乱を引き起こすことを経験した反省点を活かし、指導者を一人に決めている。 また、一つのことを習熟するまではいい加減にしないで、根気強く、徹底した反復訓練をポイントに指導や支援を行っている。 基本的な考え方として、その人にあった職種で働くことができる重要な選択の手段として、一人一人の適正を活かし良いところを伸ばすようにしている。 合わせて、常に目標を持たせ、目標を達成するための工夫をするよう支援をしていけば、自然と仕事に張り合いができ、真剣さも加わり着実に成果が上がってくるようになってきた。 職場によっては障害者だけで仕事を任されており、一人一人が責任を自覚し、自信を持って生き生きと喜んで仕事に取り組む姿が随所に見られ感動を覚えた。 |

(3)福祉推進委員会 |

障害者の雇用が増えるにつれて色々な問題が生じてきたため、各職場の代表で組織する福祉推進委員会を設け、障害者のみなさんとの接し方や指導の仕方などについて定期的に話し合う活動を始めた。委員だけの会ではなく、公共職業安定所や雇用開発協会から講師を招聘して、指導や助言を受け実際の現場に役立てている。 時には、障害者の代表もメンバーの一員として参加してもらい、率直な思いや意見を交換している。 |

(4)手話講習会及びサークル活動 |

聴覚障害者のみなさんとのコミュニケーションを図るために、社員に手話講習会への参加を勧めている。最初は躊躇している様子だったが、参加の回を重ねるごとに手話が上手になるだけではなく、聴覚障害者の状況や就業状況、生活上での不便さなどがいろいろと理解でき、これまでに配慮が足りなかったことをお互いが反省でき、以前よりも手話での会話が通じるようになり、優しさを社内で実践することができてきた。 |

(5)QCサークル活動 |

全員が8サークルに分かれてそれぞれの課題に挑戦し、一年間の結果を報告する会を行っている。もちろん生産性の向上や整理整頓・点検の実施・数の間違いや忘れ物をなくすようにするなどそれぞれのテーマに向けて取り組んでいるが、ローズサークル(部品加工ライン)では、「手話の練習をしてコミュニケ-ションをはかろう」をテーマに定期的に勉強会を持ち、間違いながらも和やかなムードで会を進め、より障害者との意思疎通が図れるようになった。その一環として、社内の消防訓練にも手話を使った訓練を実施している。 |

(6)定期会合と昼食会 |

特に、障害者の場合は職場での不安や悩みを多くもっており、それをいかに取り除き、フォローできるかが障害者雇用の鍵でもある。そこで全員の障害者がお互いの悩みや課題を話し合う交流会を定期的に開催しており、気軽に何でも話せる楽しい会だと好評を得ている。 また、社長や部長などとの昼食会も行い、それぞれの思いや願いを話す機会にもなり、喜ばれている。 |

(7)保護者懇談会と連絡帳について |

入社時には保護者と徹底的に話し合い、一人一人の状況を十分に把握して勤務が続くようにお互いが協力していくことを確認しあうことから始め、トラブルなどがあればすぐに話し合うようにしている。 日々の勤務の様子や問題点については、連絡帳を活用し意見交換をしながら解決や支援に役立てている。 |

(8)レクリエーション |

明るい優しい職場づくりとして、多くのイベントに取り組んでいる。社内のソフトボール大会・ボウリング大会・夏のナイター観戦などをはじめ、社内旅行や忘年会・バーベキューパーティなどを実施し、たくさんの方が参加して親睦を深め、大変好評である。 |

(9)地域の学園や施設との交流 |

地域にはいくつかの学園や授産所・作業所があり、お互いの施設見学を実施し理解を深め合っている。 また、実習を進んで引き受けたり、逆に会社の簡単な部品組み立てを依頼したりして協力関係をより推し進めて、障害者の職業訓練の手助けをし、そこで上達して人を雇用するなど、良好な関係や連携ができて大変喜ばれている。 |

3.今後の課題
(1)厳しい経済情勢に対応するために |

厳しい経済不況の中で、これからの企業は生産性や品質の向上及び管理が特に重要となってくる。それらに対応するための指導や、本人自身の努力もより厳しいものが要求されるようになってくるが、会社は勿論、家庭でもそのことを理解し、これまで以上の協力や連携を考えていかなくてはならない。 また、長く勤務できる条件の一つに受注が継続してあることが必要であり、助成金や補助金の制度だけでなく、官公庁が優先的に障害者雇用の事業所に発注をかけるなどして雇用の場を広げていくことも大切ではないか。 |

(2)退職後の生活について |

障害者(特に知的障害者)の生産力は30歳を過ぎると徐々に衰え、40~50歳で退職する人も少なくなく、定年まで働くことはかなり難しい。そこで、退職後の生活をいかに支えていくかを考えていくことが、企業を含め行政の施策上重要な課題である。 |

4.執筆者
広島市内にあるため、雇用支援センターでも職場見学や職場実習を実施させていただいており、数回にわたり訪問する機会を得ている。 訪問するたびに静かな落ち着いた環境に心が和む感じがする。玄関ホールから事務室がガラス張りで、来客の様子がすぐ分かり「いらっしゃいませ。」の明るい声で迎えてもらえる。工場に入るといつものことながら特に来客者を意識することなく、全員が黙々と働いている。よく案内される人から「どの従業員が障害者の人かわかりますか?」と聞かれるが、ほとんど見極めがつかない。それほど働く様子や態度、そして周りの雰囲気が自然体になっていて、「障害のある人も、ない人も全てみんな一緒。特別なことはしない。」という会社の方針が、従業員の中に浸透していることが強くうかがえる。 11月に訪問した時は、ちょうど午後1時前だった。誰もいない静かな様子にびっくりして社長さんにお尋ねすると、「毎日この時間は、午後からの作業についてミーティングを行っている。」というお話であった。 よりよい製品を生産するためには、品質管理が徹底して行われることが大切であり毎日のミーティングの意義は、確実に自分の仕事を遂行するためにお互いの分担・数量・点検などを全員で確認し、正確さを期す必要があるからだ。 一人で任された職場、数人のチームの職場、それぞれでこれまでの細やかな指導を活かし、分かった、できた、任せてもらえたという喜びと自信を持って働く姿に、いつも感心させられる。障害者の雇用を真剣に考え、一人ひとりに目を向け、その人の持っている能力を最大限に伸ばしていく取り組みに、働く人に夢と希望を与えてくれる事業所として強く推薦したい。 |

|

執筆者:広島地域障害者雇用支援センター所長 笹村 尚志 |

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。