保護より働く機会を～障害は才能発揮の妨げにはならない～
2002年度作成
| 事業所名 | 有限会社リベルタス興産 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 山口県宇部市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 印刷業務およびデジタル業務が主体である。事務用印刷物や、企画・デザイン印刷物はもとより、記念誌や会報といった刊行物や、ラベルシールなどの印刷も手がけている。かつては印刷業務が中心であったが、社会情勢をふまえた経営戦略として、新たにデジタル業務を加えた。 社員は次の三つのセクションで構成されている。（1）パソコン入力による制作作業を行うデジタルチーム、（2）製版・印刷・仕上作業を行う製作チーム、（3）営業・管理グループ。 このうち、（1）デジタルチームと（2）製作チームに、17名全ての障害者が配属されている。 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 28名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 17名
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1.事業所の概要
（1）「ここで働きたい」と社員に思ってもらえる会社に |
| 有田信二郎社長は語る。「ここで働きたい！と社員に思ってもらえるような会社であること。これがいちばん大切と考えています。そのためには、その持てる力を最大限発揮してもらえるよう、会社側からの支援が必要です。力の発揮は、結果的に企業の収益につながります」 リベルタス興産は、宇部興産の特例子会社として平成3年に設立され、営業を開始した重度障害者多数雇用事業所である。会社一丸となり、障害者の立場に立った創意工夫を社内で推進するという積極的な社風に支えられ、これまで数多くの重度障害者が、その持てる力を発揮し、念願の社会参加を実現してきた。 山口県内の特例子会社は、平成14年11月現在、このリベルタス興産一社のみである。今後、県内の障害者の一般就労を推進させるうえで、当社の取り組みには極めて大きな意義があると言えよう。 |
 リベルタス興産の社屋全景 |
（2）企業理念 |
| 社名の「リベルタス」はラテン語であり、障害に縛られぬ「自立」を意味する言葉である。また、固定観念に縛られぬ発想と実践に力を入れようとする社風を、この言葉に託している。「保護より働く機会を～障害は才能を発揮する妨げにはならない～」という基本的観点に立ち、企業活動を通じて社会全体への心豊かな資産を提供することが、設立以来の一貫した企業理念である。 |
2.就労環境の整備
（1）人的支援としての配慮 |
| ［1］ 専任手話通訳者の配置および手話勉強会（任意参加） 「みなさん、こんにちは。今日は指文字で、自分の家族を紹介してみましょう」 |
| 手話と口話による挨拶で、手話勉強会がなごやかに始まった。毎週水曜日の昼休み30分間、聴覚障害の社員さんが交代で先生役となる。専任手話通訳者も適時に必要な指導を加える。自由意思による参加ではあるが、今日も社員のほぼ全員が顔をそろえた。 聴覚障害者にとって、最もリラックスできるコミュニケーション手段は手話であるといわれており、聴覚障害者5名が働く当社では、この学習会は重要な位置づけにある。テキストを用いつつ、単語→指文字→日常会話などと段階を追う学習の積み重ねにより、ゆくゆくは業務用会話も可能となるよう学習計画も組まれている。聴覚障害者が必要情報から隔絶される状況が生じぬよう始められたこの学習会は、聴覚障害者の職場定着・安定を促進する実践として大いに注目できよう。 |  毎週1回の手話勉強会 |
| ［2］ 社内ケア会議（2週間に1回） 障害者の職務遂行を円滑にするためのアイデアなどが、この会議で提案される。たとえば、食堂入口の引き戸には衝撃吸収用スポンジが貼ってある。これは、閉じたときの衝撃音によって、身体障害の社員が強い緊張状態に陥ったことがあり、これを避けるためのアイデアとのことだ。ケア会議で提案された意見が、早速実行に移されたのである。 ［3］ 障害者職業生活相談員資格認定者8名 資格認定者8名が、障害者からの相談に対応する体制をとっている。 |
（2）設備面の整備 |
社屋全体がバリアフリーの構造で建築されている。たとえば下記の内容を中心とした環境整備が、障害者の円滑な就労生活を今日も支えている。
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3.才能を発揮する社員さん
（1）パソコン機器 |
| バリアフリーの玄関を入ると、左手に制作室・製版室がある。ここはデジタルチーム12名（内、障害者10名。重度障害者9名、中度障害者1名）の活躍の場だ。パソコン機器類などがゆったりした配列で並び、上肢・下肢障害や聴覚障害の社員さんが、その画面に向かい、真剣なまなざしで入力・編集作業などのデータ処理に取り組んでいる。 デスクの下に目をやると、床の上にパソコン用マウスとキーボードが置かれ、上肢障害のあるTさん（37歳）が、そのマウスを足裏で操作しつつ、入力・編集作業を滞りなく進めている。当社はこの障害者対応マウスを最近2台購入した。特定の部位に障害があっても、他の部位で操作できる器具があれば、障害者の就労の道が開けるという事実がここにある。 Tさんの向こうでは、上肢・下肢障害（1級）のあるOさん（36歳）が働いている。家庭では良き夫、良き父であるOさんは、緊張すると思うように話せなくなり、20歳台の頃は会社訪問をしても門前払いが続いたという。しかし、当社に入社して10年余りのご本人の努力と、当社からの支援により、現在はシステムエンジニアとしてコンピューター管理システムを一手に引き受け、またデータ処理などの仕事もこなしている。今や当社にとって無くてはならぬ人材の一人である。Oさんは、平成14年10月に熊本市で開催された第26回全国障害者技能競技大会のデータベース部門で、見事3位の栄誉に輝いた。 「これまで就労が困難と言われてきた重度の身体障害者にとって、パソコンはその就労可能性を高める“武器”です」と、社員の姿を眺めながら、有田社長は力強く語る。入力段階では障害に応じた工夫が必要であったとしても、その入力内容が正確かつ独創的であるなら、そのシステムには高品質としての評価が社会から与えられる。パソコンは、身体障害者の職域を大きく広げる役割を果たしつつあると言えよう。 |
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（2）高品質の製品を地域に出す |
| 制作室から、引き戸を開け、印刷室・仕上加工室に入る。ここは製作チーム12名（内、障害者7名。重度障害者5名、中軽度障害者2名）の活躍の場だ。 機械の稼働音とインクの香りにつつまれた印刷室では、聴覚障害の社員さんが作業を進めている。油断は印刷ミスにつながるため、目盛りやスイッチなどを見つめる目は真剣だ。美しく色刷りされた紙が印刷機から次々と誕生する。上司とのスムースな意思疎通は、手話勉強会での成果の賜だ。 仕上加工室に入る。ここでは、断裁、製本、穴明け、帯かけなどの作業により、印刷された紙を製品に仕上げている。断裁機などは事故防止構造となっているが、一瞬の油断から不測の事態が生じぬよう、社員さんたちの表情からは緊張感が伝わってくる。 こうして高品質の製品が完成し、地域社会に送り出されていく。 |
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4.利潤を追求する企業として／地域社会に貢献する企業として
| 企業は常に利潤を追い求めなくてはならない。そのため、社員に対しては、それに見合うだけの力量を発揮する人材であることが求められる。有田社長は、社員に望むこととして、［1］自立した社会人であること（挨拶、健康管理、金銭管理、報告・相談・連絡などが的確にできること、責任感・積極性・協調性があること）、［2］自己の個性を正しく知ること、［3］働く意欲があること、［4］会社に価値を提供できること、の4点をあげる。障害のある社員が、会社でその力を発揮するためには、会社側からの支援に加え、本人の努力もそこに必要とされる。「あらゆる企業は今、生き残りをかけた経営に取り組んでいます。どのような価値を当社に提供できる人材であるかが、全ての社員に問われるのです」と有田社長は語る。 さらに、社長の目は、地域にある知的障害者施設にも注がれている。施設を利用している知的障害者を、当社に雇用する案が検討されつつあるのだ。「知的障害者に適した作業内容が、社内にあるはずです。どこかにつくり出せるはずです。障害者には保護ではなくて、働く機会が必要なのではないでしょうか」 障害者雇用の可能性を追い求め、リベルタス興産の取り組みは今日も続く。 |
| 執筆者：山口大学教育学部 松田 信夫 |
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