従業員の7割が障害者、でも利益を生み出せる
2002年度作成
事業所名 | 株式会社ダックス四国 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 高知県南国市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 簡易食品の透明のフタの成型加工業、使い捨て弁当容器のフタの製造及び割り箸の完封印刷加工。 OPS材のリサイクルによるペレットの再生加工。 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 26名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 17名
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1.会社設立の背景、経緯
障害者のシの字も知らなかった且田社長が障害者雇用に取り組むようになったきっかけは学生時代までさかのぼる。約30年程前、知的障害者の総合的なコロニーを作るため、大学1年のときから高知県土佐市に出向き施設建設にたずさわったことである。 そして、大学卒業と同時に、その施設に職員として就職し、「知的障害者の職業的自立」を目標に、教育活動と就職指導に従事してきたが、就職を受け入れてくれる企業は零細企業が多く、安定雇用・安定収入には程遠く、景気の好不況により退職を余儀なくされたり、職場の人間関係の問題から職を離れる者も多かったようである。そうした現状を見続ける中で、「どんなに教育や指導して能力を伸ばしても、それを受け入れ、卒業後・卒園後に生涯を通じての生活が保障される職業生活の確立がなければ何の意味も持たないということから、自ら障害者の働く場をつくろうとの考えに至った。」とのことである。 | ![]() 製造品のサンプル |

こうした考えのもとに、福山市にある(株)エフピコより製造に関する協力支援を得、平成7年4月に(株)ダックス四国を設立した。そして、平成12年1月には現在の新工場が完成し、現在、社員は26名、そのうち知的障害者が16名、聴覚障害者が1名、健常者が9名であり、弁当や惣菜、刺身などの容器に使われる透明なプラスチックのフタを造っている。 |

2.企業理念及び障害者雇用についての認識
障害者の雇用については、障害者のあるがままを受け入れ、仕事をするときに何が必要なのかを考えることが重要である。数の数えられない者にいくら数を教えても無益である。足らないところは、我々の育て方で埋めるのか、技術で埋めるのか、お金で埋めるのか、何かで補填できればそれでいいわけである。障害者に対して、親も社会も認識の仕方、評価の仕方、アプローチの仕方を変えていくことが必要である。 |

(1)企業理念 |

ダックス四国は、「障害者の安定的な職場の確保、社会への参加を基本に障害者と互いに助け合って働いていける企業」を企業理念に、健常者と障害者が共通の場で共に働き、お互いに力を結集することで、より強力なマンパワーを確立し企業として成り立つことを証明しようとしている。 |

(2)障害者雇用についての認識 |

「どんな障害を持った者でも、条件さえ整えば働くことは可能である」という認識のもとに、障害者も「深い理解と、少しの工夫・援助があれば健常者との助け合いの中で、健全な職業人として暮らしていける」し、企業としても「安定した雇用と収入のもとで、生涯にわたり安心して暮らしていけるように、その使命において努力せねばならない」と考えている。 |

3.障害者雇用の取組状況
(1)施設・設備などハード面の工夫 |

工場内には大型の成型機が4台並び、1台の機械を障害者と健常者の3~4名が担当している。工場内の設備には至る所に光センサーが設置されており、安全面への配慮がなされている。また、毎日の朝礼と終礼のときに安全教育を徹底しており、ソフト面からも作業の安全には細心の注意が払われており、創業以来事故らしい事故は出ていない。 生産面では、過去の苦い経験の反省の上に立って、フタの枚数を検品するために、ベルトコンベアの間に0.1グラムの差を判別できるオートチェッカー(数量確認機)を取り付け、金属探知器も導入している。 室内の空調についても、製品にほこりや塵を飛ばさないように、特別な工夫をほどこした空調設備を導入しており、労働環境に十分配慮したものとなっている。 |

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(2)ソフト面の工夫 |

[1] 雇用管理 <募集・採用> 現在は欠員がでたときに募集・採用を行うという方法を取っている。採用に当たっては、公共職業安定所・障害者職業センターと打ち合わせた上で、本人と親、担任の先生を交えた面接を行う。正式採用に当たって、国の就職支援制度を活用しており、中でも3ヵ月間のトライアル雇用制度は有効な手段であると思っている。なお、トライアル雇用の中では、本人の意欲、勤務態度を重視している。 <賃 金> 賃金は基本給に会社の業績や勤務態度等を考慮したプラスαを付けて支給しており、少ない人で月に13万5千円となっている。昇給はベースアップとして年1回平等に行っている。障害者の場合、20歳になったら障害基礎年金として月6~8万円、多い人で10万円ぐらいもらえるので、給料と合わせると年間200~300万円近くの収入が確保でき、十分1人で生活できるようになる。 <昇格・昇進> 年齢プラス経験から何人かの面倒をみられるようになると、まず主任補佐に昇進し、手当も千円付くようになる。現在、障害者で主任補佐になっている者が3人いる。 <労働時間> 労働時間は朝8時半から17時半まで、原則週40時間であり、週休2日制で、2交代制をとっている。また、遠くから来ているなど本人の事情に応じて短時間勤務も認めている。その場合も給料は週40時間勤務の場合と同じである。 [2] 職場配置・定着 ![]() また、従業員構成にも工夫が払われている。従業員は障害者と健常者を含め20代前半が大部分で、管理職も20代、社長は60代前半で、その間の年齢の従業員は出来るだけ入れず、父母役の60代の夫婦、その他に製品を運搬する運転手2名がいるだけである。そうすることによって社長の考え方・指示がストレートに従業員に伝わるようにしている。 定着率はよく、これまでの離職者は身体障害者の女性が1名(結婚による退職)だけである。こうした定着率がよい背景には、母親役として親身に障害者の面倒をみている60代の女性の存在も大きい。 [3] 教育・訓練 仕事自体は単純、繰り返し作業であるため、現場で実際に作業を行いながら身体に覚え込ませていくといったやり方を取っている。その意味で、教育とか訓練とか言うことではないが、まず「トライアル雇用」等の中で仕事を覚えさせ、その後もOJTにより仕事に慣れさせるという形での教育・訓練は行っている。その他には、本社工場に見学に行くといったことも行っている。 [4] 福利厚生・健康管理 健康管理としては、年1回の法定の健康診断を実施しており、それと日々の体重管理、そして病気の状況に応じて定期的に病院に行く必要がある者については有給での通院を認めている。 福利厚生としては、全国で60万社が入っている福利厚生クラブに会社負担で全員が入っており、年1回の国内の社員旅行と、2年に1回の海外旅行を行っている。それと、年4回の親(保護者)を含めた懇親会を行っている。 [5] 保護者・養護学校との連携 会社では知的障害者に対する親の理解を高めることを特に重視しており、年に4回ほど会社主催あるいは保護者主催で父母会を開き、会社と保護者の間の意見交換を行っている。 養護学校とは、社長が直接県内の養護学校に行って障害者の職業的自立や会社で働くということなどについて講演をしたり、養護学校や施設の生徒を職場実習として受け入れるなど連携を密に図っている。 [6] 助成金や各種支援制度の活用 活用できる助成制度等はほとんど活用しており、この会社の立ち上げに際しても、「重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金」として2億円助成してもらった。 ただ、規模が比較的大きく、助成制度を使い慣れているところはまだよいが、規模が小さく、助成制度も使い慣れていないところでは助成制度等の使い方が解らないところも多く、制度の詳しい内容についてのPRや処理のしやすいものにしていく必要があるのではないかといった話も出ていた。 [7] その他 その他では、会社でマイクロバス1台を用意し、家が遠い子について朝晩の送り迎えを行っている。また、14時から22時までの遅番の子については、成型加工の課長や主任が家まで送り迎えを行っている。 |

4.特例子会社設立の取組の効果
障害者の中でもマイナーな存在として扱われてきた知的障害者について、当社の設立により、高知県に知的障害者が働く一つの拠点ができたということ自体大きな成果と言える。また、従業員のうち障害者が7割を占める中でも利益が出るという現実が他の企業に与える効果というものも考えられる。実際、スーパーマーケット「サニーマート」が特例子会社として「エコライフ土佐」を設立し、リサイクル工場の操業を始めているし、愛媛県でも紙おしぼりや紙ナプキンなどを製造する「大黒工業」の特例子会社として「大黒友愛紙工」が設立された。こうした取り組みがさらに広がっていくことにより、障害者の就業の場が広がっていくことが期待される。 また、当社で働いている障害者については、雇用の安定と安定した収入が実現されることにより、会社設立の目的であった障害者の職業的な自立を図るという点ではかなり前進したと思われる。また、これまで親との懇談を繰り返し行ってきたことにより、「障害者だからまぁいいわ」という親の気持ちも徐々に変わってきており、自分達が亡くなった後の子ども達のサポートシステムを考えるようになってきたという点も大きな効果と言える。 |

5.今後の課題・展望等
四国内でも、特例子会社を設立し、障害者の雇用に積極的に取り組もうとしている企業も出てきたが、多くの企業ではまだまだ法定雇用率も守られていないのが現実である。障害者が職業的に自立して働ける場所がもっと広がって欲しいが、当社が一生懸命に障害者を雇ってもせいぜい20名程度であり、今後、100名規模で雇用できる事業所ができるように期待している。それがどのようにしたら出来るかが次の課題である。 もう一つは、障害者の住む場所の確保である。障害者・児を持つ親の一番の心配は「自分達が年をとって亡くなったあと、子ども達はどうなるのか。」ということである。親御さんには、「私も親も先に死ぬんですよ。親御さんが2~3人集まれば家が買えるでしょう。本人達の給料で自分達の世話をしてくれる人を雇えばいい。自分が死んだ後のサポートシステムをつくろう」という話をしており、だんだんわかってくれるようになっている。 それと障害者の高齢化という問題がある。障害者の場合、自社のようなハードな職場では、働けるとしても45歳ぐらいが限界だろうと思われる。今後、45歳ぐらいから60歳ぐらいまで働ける中間的で、軽度な労働の職種と職場をつくっていく必要がある。そのためには、企業だけでなく、行政のバックアップが必要となる。 障害者対策は、食べることから、住む所、働く所とトータルに考えていく必要がある。企業はそのうち働く場を提供し、障害者が自立して生きていくための収入を稼ぐ所にすぎない。人間の一生の中で、時期の違いはあるが、誰でも何時かは必ず障害者になる。その発想で障害者問題を考え、暮らさなければいけない。そうすると自ずと何をしなければいけないのか、何が必要かという答えが出てくるのではないだろうか。 |

執筆者:くろしお地域研究所 調査研究部長 浜口 忠信 |

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