知的障害者が支えるリネンサプライ業
2002年度作成
| 事業所名 | 西九リネン株式会社 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 佐賀県鳥栖市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | リネンサプライ業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 127名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 28名
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1.事業所の沿革
| 昭和54年1月鳥栖市安楽寺に西九州リネン株式会社を創業。以降本社・工場の移転、社名変更、別会社の新設や知的障害者授産施設の設置等を経て現在に至る。 障害者の雇用は、創業時に公共職業安定所（ハローワーク）から知的障害者の雇用要請にもとづき採用して以来、毎年採用を続け、平成14年10月現在28名の障害者を雇用している。 |
2.取り組みの経緯、背景
| 障害者の雇用は、創業時の昭和54年4月から、養護学校を卒業した知的障害者の雇用から始まった。以来、養護学校や知的障害者施設等からの雇用要請を受け、職場実習や職場適応訓練等を経て、知的障害者の雇用が積極的に行われている。 このような障害者雇用が行われた背景には、1978年からの第二次オイルショックによるリネン部門の外部委託が加速したことによる業務量の増大とそれに伴う人手不足等もその背景にあるものと考えられるが、それ以上に知的障害者の障害特性を経営者の立場で理解し、時間をかけて育てていけば、雇用のメリットがあると判断したことが障害者多数雇用事業所へと発展していった契機と考えられる。 このように、西九リネン株式会社は、長期化する構造的不況の中で一段と厳しさを増している障害者雇用の現状にあって、障害者雇用の明快な視点と方向性を持ち、積極的に雇用展開を進めている事業所ということができる。以下、そのような視点から、同事業所の障害者雇用の現況と課題及び今後の展望等について紹介していきたい。 |
3.知的障害者雇用の取り組み
（1）社員教育 |
| まじめに出勤するが言葉遣いや挨拶、食事のマナー等基本的な社会生活態度が身についていないことが多い知的障害者（通称仲良しさん）を毎週集めて、挨拶のしかたや言葉遣い等について、班長も交えて教育を行った。 |  |
（2）作業能力による適正配置 |
| 障害者といっても1人ひとり作業能力はもとより、生活態度、仕事を習得していくスピードも違う。 事前の知能指数や作業能力等の情報にとらわれず、実際の作業現場の中でどのような仕事が向いているのか、課題や問題点について月2回の班長・副班長会議で検討し、作業場の配置替えや作業台、安全装置の開発等職場環境の改善・工夫を重ねた。 |  |
（3） 作業効率の確保 |
| 一概には言えないがその多くが仕事の80％までは教え込むことができても後の20％が課題となる。 作業工程の中で、適切な判断や、応用していくということ、例えばクリーニング工程の中で、しみ、破れなどをどう判断するのかが時間をかけて教え込んでも理解が難しい。 このため、健常者と仕事を組み、障害者で不足する部分を補う体制を作る等の取り組みを進めている。 |  |
4.雇用の効果
 リネンサプライの仕事は、シーツ、浴衣、タオル等の「揃え」「選別」「クリーニング機器への入れ方」「裏表の判断」「数を数える」「やぶれ・しみを見分ける」等作業の工程が多く難易度も違う。このため、障害者の個々人がどの作業工程が合うのかを検討し、適正配置を実践していった結果、障害者同士で仕事を競って覚え、次のステップへ進みたいという態度が見られるようになり、切磋琢磨して仕事に励んでいる。西九リネンは他にもクリーニング部や知的障害者の授産施設等も設置しており、リネンのシーツ部では適応できなかった障害者が関連事業部門のクリーニング部のユニホーム部門ではきちんと役割を果たすことができたなどの事例もあり、事業所・関連企業・福祉施設まで広げた範囲で適材適所を考えて行く体制ができている。 このように雇用環境の整備を進める中で、障害者自身も夏場は特に暑い中で、きつい仕事をコツコツと頑張る。時間はかかるが一度覚えたら間違わない。出勤態度は極めて真面目等の長所も発揮されて、この事業所には欠かせない重要な雇用人材となっている。 |
5.生活面での支援
| 障害者雇用の効率化と安定化を図るためには、職場内環境の整備はもとより生活環境を重視することが必要である。特に知的障害者の場合、生活支援の視点は欠かせない。 西九リネンでは、福祉ホームやグループホームを設置、世話人や相談職員を配置し日常的な生活支援を行うとともに知的障害者の生活の場を確保している。 また、県下の障害者雇用事業所に呼びかけて毎年実施されている「障害者の職域運動会」の開催や障害者スポーツ大会の参加、年3回の食事会等仕事が休みのときなどの余暇支援活動にも力を入れている。しかし、休日の余暇活動等の社会参加については、企業が支援していくことには限界があるため、地域福祉活動の1課題として捉え、ボランティア活動等地域の協力を得ながら支援していくことが必要である。 |
6.今後の課題・展望
| 当事業所は、障害者の雇用を進めるだけではなく、生活の場となる福祉ホームやグループホームの整備や余暇指導、さらには職業訓練・雇用前訓練の場としての知的障害者授産施設の設置等、障害者の雇用を中心に置きながらも知的障害者の職業と生活をトータルに構築していくことが障害者雇用の安定化に不可欠であることを明快に示している典型的な事業所ということができる。 障害者の雇用期間が長期化してくると、作業能力の低下や高齢化の問題が生じてくる。作業能力の問題については、作業工程の適正配置にて対応しているが、配置換えのみでは対応に限界があるため、今年度から職務能力に応じた賃金体系に変更され、その結果、最低賃金を割り込む障害者も数名生じてきている。 高齢化の問題は、近い将来生じてくる大きな課題である。西九リネンでは、グループホーム、福祉ホーム、通勤寮等にて生活している障害者が16名おり、仕事を退職した後生活していく場所や生活支援をどう進めるかは支援費制度等を活用しながら市町村と連携して対応していくことが必要である。また、雇用されている知的障害者の大半は障害基礎年金を受給しており、年金や賃金の預金管理については、必要な者に対して、事業所が銀行の貸し金庫を利用して管理しているが、障害者の個人財産を事業所が管理することは望ましくないため、社会福祉協議会の地域福祉権利擁護事業や成年後見制度等の活用が必要と考えられる。 西九リネン株式会社においては、障害者の雇用は企業発展の重要な柱になっている。その戦略は、作業能力の適正配置の開発と、障害者と健常者を組み合わせた作業効率の確保及び生活環境の整備にある。このような障害者の障害特性を踏まえての障害者雇用の実践は他の職域においても参考になる部分が大きいと思われる。 |
| 執筆者：西九州大学 健康福祉学部 助教授 田代 勝良 |
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