バリアフリーの職場を活用した障害者の能力開発訓練の実践
2002年度作成
事業所名 | 政府出資法人 熊本ソフトウェア株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 熊本県上益城郡 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 熊本ソフトウェアは4つの事業部を有しており、ソフトウェア開発や人材育成のほか、身体障害者の情報処理技術者養成など幅広い活動を行っている。 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 40名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 4名
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1.施設のバリアフリー整備
熊本ソフトウェアは2棟の社屋を保有しており、いずれもほぼ完全なバリアフリー化を実現している。1棟は本社屋(情報関連人材育成センター)で、平成2年の建設時には不備な箇所もあったが、平成7年、身体障害者ソフトウェア開発訓練センター「イメージ工房くまもと」の開設を期に、大幅なバリアフリー化を実施した。もう1棟は平成9年、隣接地に開設された別館(産業情報マルチメディア・ネットワークセンター「アンザイレン」)で、こちらは当初から「身体障害者とのノーマライゼーションの実践の場」と位置づけられ、全面的なバリアフリー建築となっている。 具体的なバリアフリー設計やそのための工夫としては次のようなものが挙げられる。なお、これらは本社屋と別館ともに共通している。 | ![]() 本社屋エントランス (エントランスはゆるやかなスロープになっている) |

(1)障害者専用駐車場の設置 |

車いす利用の障害者の昇降をしやすくするために、車間を広めに取った専用駐車スペースを設けている。また、これらの専用駐車スペースは建物入り口にもっとも近い位置に設けられており、車からの移動距離の短縮を図っている。 | ![]() 別館駐車場 (施設に近く、スペースも広めになっている) |

(2)床面のフラット化、段差の解消 |

エントランスから施設入り口にかけて、あるいは施設内の段差などについてはすべて緩やかなスロープが設けられており、車いすの通行に支障がないようになっている。同一フロアではほとんど段差はなく、フラットになっている。 |

(3)広い廊下と壁面の手すり設置 |

車いすの通行にあたっては通路の幅が問題となるが、熊本ソフトウェアにおいては正社員のほかに20名の訓練生も受け入れており、車いす同士が廊下ですれ違うケースも頻繁である。そのため、廊下、ロビー、室内の通路などは幅広く確保されている。また通路の壁面には手すりが設置されている。 | ![]() 別館廊下 (スペースが広く、壁には手すりが設置されている) |

(4)スライドドアと低い位置の取っ手 |

出入りする部屋のドアはスライド式になっており、かつ、入り口の幅が広いために、車いすでの出入りがしやすくなっている。 また、スライドドアには既存の取っ手とは別に、車いす用の取っ手が新たに取り付けられている。その取っ手は足下に付いており、車いすの足部によって軽く押すことでドアを開けることができる。上肢にも障害を持つ場合に効果的であるし、ドアの開閉の際に無理な体勢になることを防ぐ効果もある。 | ![]() スライドドア (通常の取っ手の下方に小さな取っ手が付けられている) |

(5)トイレのバリアフリー化 |

ドアは広めのスライドドアで、押しボタンによる開閉ができる。ドアから個室までの通路も広めになっており、車いすでの利用がしやすい。もちろん、便器の脇には手すりが設置されており、車いすから便器への移動に支障がないようにしてある。また、洗面台は下方をすっきりとした空きスペースにして、車いすで深く洗面台に近づくことができる。 なお、本社屋の専用トイレの場合、便器自体は従来の物だが、木製の板が取り付けられている。これは、利用する際に板を降ろすもとにより車いすから便器へと移動する際の腰掛けとなるのである。 トイレは本社屋に4カ所、別館に2カ所設置されている。 |

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(6)シャワー室の設備 |

下肢障害のある場合、失禁などを起こすケースもある。そのため、社屋内にシャワー室が設けられており、洗浄・着替えなどができるように配慮されている。 |

2.業務環境のバリアフリー設備
オフィス内についても、主に車いすでの業務がしやすい環境が整備されている。主なものとしては以下のようなものが挙げられる。 |

(1)動かないデスクとデスク下の空間 |

健常者がデスクを使用する場合、例えばデスクにもっと近づきたいなら自分自身がイスと一緒に動けば済む。だが、車いすでデスクを使用する場合には、デスクに手をかけて自分を引き寄せたりするため、デスクが簡単に動いてしまうと困る。そのため、動きにくいデスクを使用している。 車いすの場合、デスク下に引き出しなどがあると深くデスクに近づくことができない。そのため、デスクは天板のみとなっている。 なお、デスクが動きにくいこと、デスク下に空間を作ることなどは、オフィス内のデスクだけでなく、例えば食堂のテーブルなども同様となっている。 | ![]() 訓練センター (通路が広い。デスク下も広く車いすのじゃまにならない) |

(2)通路スペースの確保 |

デスクとデスクの間には広いスペースがあり、車いすでの移動や行動が取りやすく配慮されている。 |

(3)OAフロア |

車いすだけのためではないが、パソコンのコードなどは床下配線とし、極力じゃまにならないように配慮してある。 |

3.障害とコンピュータ・インターフェース
コンピュータに入力する装置及びシステムを「インターフェース」と呼ぶ。通常使われているマウスやキーボードなどもインターフェースの1種である。しかし、身体に障害がある場合には通常のインターフェースでは入力作業ができないケースもあり、声だけで入力できる音声入力システムや指や舌の小さな力で入力できるジョイスティック・システムなどが開発されている。 熊本ソフトウェアの場合、車いす利用者が常時15~20名ほどあり、上肢の重度障害を伴う者も少なくない。そのため、当初は多様なインターフェースを購入し、さまざまな障害に備えていたが、実際には全員、通常のマウスに落ち着くのだという。両手指が自由にならないケースでも、腕でマウスを移動させ、エンターキーを打てれば使いこなせる。 高価なインターフェースは便利でも、簡単に購入できるわけではない。1カ所にそのようなインターフェースがあっても、自宅やその他の場所すべてのパソコンで使えない限り「慣れる」のは難しい。マウスのような汎用性の高いツールに慣れて、使いこなすことが重要だということのようである。 |

4.身体障害者への助成と健康管理
例えば、自家用車の改造費などへの補助は行っていない。その他、待遇などの面についても特別の補助は行っていない。 但し、健康管理については定期的に実施されている。社員は全員、毎年1回の健康診断を行っており、身体障害者の場合は人によって異なる(車いす利用者は毎月)。健康診断の受診については有給休暇を利用している。 |

5.課題点
課題としては以下のようなものが挙げられた。雇用そのものに関する事柄よりも在宅就労へのサポートなどが挙げられている点が、身体障害者雇用の課題の広さ、深さを物語っている。 |

(1)体調不良などによる在宅者の技術陳腐化の防止 |

身体障害者においては体調不良などによって在宅を余儀なくされるケースも生じる。しかし、ソフトウェア業界にあっては技術革新や新たなソフトウェアの開発が日常的に行われており、しばらく現場を離れると習得した技術が陳腐化・劣化してしまう可能性がある。 そこで、体調が改善した場合に支障なく職場復帰できるために、あるいは、在宅就労という形態でも能力を活かすために、技術情報や活用ノウハウの伝達などのサポート策が望まれている。 |

(2)在宅就労希望者への支援策 |

身体に障害を持っている場合、就労意欲があり、適した技術を有していても、企業訪問や営業活動がしづらいために就労の機会が少ない。 そこで必要になるのは、就労に関する情報の収集と提供であり、就労に必要な技術面の指導・サポートである。熊本ソフトウェアにおいては、身体障害者ソフトウェア開発訓練センターの受託運営やNPO組織イーアンザイレンへの支援などを通して、環境改善に取り組んでいるが、まだ課題は多い。業界や一般生活者の認知と理解の促進も含めた支援環境のさらなる整備が望まれる。 |

6.まとめ
熊本ソフトウェアはシステム開発や情報処理関連事業のほか、身体障害者の職業訓練を行っている。社員として、訓練生として、多くの身体障害者が施設を利用している。またバリアフリー化においては熊本ソフトウェアの場合は非常に高い完成度の環境整備が実現されている。 特に高く評価されると思われるのは、机上の建築プランだけでなく、身体障害者とのふれあいによって培われた経験が生かされている点である。例えば、スライドドアの足下に付けられた取っ手やシャワー室などに、経験から生まれた「生きた知恵と工夫」を見ることができる。このようなバリアフリー化に生きた努力と最先端の技術を導入し、実務に即した訓練を行っているからこそ、遠隔地からの訓練生の希望者も集まるという現状を生んでいるのだろう。 このようにハード整備の前提として、経営者グループや従業員全体にバリアフリーマインドがしっかりと根付いていることが重要である。マインドがなければ優れたハードも生まれないであろうし、ハードだけでは補完できない部分をサポートするのもマインドあってのことであろう。優れているがゆえにハード整備のみが注目されがちなケースであるが、そのマインドの在り方やハードとのバランスも高く評価されると考える。 しかし、コンピュータの普及が身体障害者の自立や社会とのコミュニケーションの在り方に新たな局面を開いたとはいえ、ソフトウェア関連業務においてはきわめて過酷な就業条件を強いられることも現実である。長時間、同じ姿勢をとり、モニターを凝視しつづけるために、肉体的・精神的な疲労は大きく、健常者であっても負担は重い。業界として新しい業務のスタイルやそれをサポートするハード・ソフトの開発が必要だといえる。 熊本ソフトウェアの活動がさらに広がり、あるいは同様の取り組みが各所に誕生することによって、行政や地域社会のさらなる対応力向上が期待されるものである。 |

執筆者:有限会社エアーズ 森 克彰 |

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