バリアフリー・マインドの職場づくり
2002年度作成
| 事業所名 | 株式会社京写 九州工場 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 熊本県玉名市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | ・プリント基板の設計・製造。フィルム作成、製版から印刷、プレス、検査、梱包までの一貫生産システムを整備している。 ・京写は片面および両面プリント基板を主に生産しているが、九州工場ではそのうち片面プリント基板を、本社工場では両面基盤を製造している。 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 126名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 6名
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1.京写における障害者雇用の特徴
| 株式会社京写・九州工場には126名の従業員が勤務しており、うち6名が障害者である。近年、新たな障害者雇用は発生していないが、それは一般の採用についても同様であり、昨今の経済状況から考えればやむを得ぬところであろう。 しかし、現在勤務している6名の障害者においては、15～30年といずれも勤続年数が長い。また、管理職を筆頭に、資材発注・受け入れ管理、プレス作業、基盤の検査、設計など、営業職を除けば現有するほとんどの部署に障害者が配置されている。このような状況を見れば、雇用の安定を図るために、あるいは、各業務現場の環境を整えるために、企業としてさまざまな障害者雇用対策を実施しているのだろうと推測するのは当然であろう。 |  社屋外観 （エントランスはゆるやかなスロープになっている） |
| しかし、今回ヒアリングを実施してみると、意外に「特別な障害者雇用対策」が少ないことに驚かされる。 京写九州工場では、特に障害者に向けた就業規則の特例も助成金などの制度は設けられていない。また作業環境において、特殊な什器備品の購入や改造なども行われていない。もちろん、車いすを利用する者が障害者の半数ほどあることもあって、工場はすべて一層構造で階段はなく、施設の継ぎ目はすべてフラットかスロープとなっているし、車いす専用トイレも設置されている。なお、ワンフロア構造やスロープなどは原料や製品の搬出入にとっても有効なものとなっている。 では、京写九州工場では特別な対策が少ないのにも関わらず、なぜ障害者の雇用長期化が実現しているのだろうか。それは、端的に言えば「障害者と健常者を区別しない、平等に扱う」という企業マインドによるものだと考えられる。言い換えれば「公正な能力主義」だとも言えるだろう。障害の有無によらず、業務能力によって人事査定が実施されており、健常者と「区別」されることによるストレスが非常に少ない職場であるように推察された。 |
2.施設のバリアフリー性
| では、障害者にとっての労働環境整備について見てみる。 先にふれたように、京写九州工場では片面プリント基板の製造について一貫した生産ラインを構築している。 これらの工程がワンフロア（複数の施設を連結する部分はあるが）内において連続するラインを形成しており、その移動路やつなぎ目はすべてフラットな面か、あるいは小規模なスロープで連結されている。そのため、これらの全工程は車いすでもすべて回ることができるし、その他の場所への移動も特に問題はないようである。 京写九州工場は平成9年に増築されたが、増築部分については設計段階からフラット化や車いす専用トイレなどが組み込まれている。 |
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3.業務の環境のバリアフリー性
| 先に述べたように、京写九州工場では障害者だからといって、特に作業設備を改造したりはしていない。 下肢障害によって車いすを使用している従業員が3名あり、それぞれ管理、設計、検査を担当している。管理、設計の事務系については使用するデスクは通常の事務デスクで、他の従業員と同じものであり、検査についてはやや前傾姿勢になるため盤面の高さが低くなるが、これも他の従業員と何ら変わりはない。 |  工場内 （障害者も健常者もデスクのレベルは同じである） |
4.業務システム上の特徴と障害者雇用
| このように特別の工夫を行わなくても支障がないということは、京写九州工場の業務システム自体が、障害者をそれほど排他しないものだとも言うことができる。 まず、一貫した生産ラインを有しているが、各従業員の担当は明確に分化されていること。つまり、業務内容が限定されており、業務中の移動エリアも限られているために、多少の障害があっても業務に支障がないということのようである。 次に、一貫した生産ラインを有していることもあって、京写九州工場では業務内容の変更が発生しにくく、それによる人事配置の見直しもきわめて少ない。製造する品種などが変更されても、ラインそのものが大幅に変更されることはないので、配置変更もほとんどなく、業務環境変化に伴う障害者のトラブルが発生しにくいのであろうと思われる。 |
5.課題点
| 以上のように、京写九州工場ではその業務内容的な特徴もあって、障害者雇用における課題は少ないように見える。但し、細かな課題点はさまざまな場面にある。例えば次のようなものであり、「できるものから改善していきたい」と総務担当者は考えている。 |
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 食堂への通路（段差は解消してあるが、やや狭い） |
6.バリアフリー・マインドによるサポート
| 京写九州工場には車いす車両の専用駐車スペースはない。しかし、社屋に沿って配置された駐車スペースの一画、並んだ駐車スペースの端にあり、社員用出入り口にもっとも近い場所には、いつも同じ車が止まっている。車いすを利用している従業員の車である。端のスペースなので乗降しやすいし、出入り口までの移動距離も数メートルと短い。 誰が決めたのでもなく、「いつのまにか自然にそうなっていた」という。そのスペースに「障害者車両専用」という文字はないが、従業員みんながそう理解している。ルールではなく、モラルやマインドで作られた専用駐車スペースだと言える。雨が降れば、女性従業員が傘を差してあげ、車まで送る。健常者であれば小走りで済む距離だが、車いすではずぶ濡れになる。差し出される傘の意味は大きい。かつて誰かが始めたのだろうが、今はそれが引き継がれ、当たり前になっている。 作業現場における不都合も、仲間との連携やコミュニケーションが補う。車いすからでは手を伸ばせないところには、近くの同僚が手を伸ばす。ごく自然に積み重ねられる小さな役割分担である。長年、同じ現場で働いているからできるコミュニケーションなのだろう。これもまた、ルールで作られるものではない。 このようなバリアフリー・マインドは一朝一夕に出来上がるものではないだろう。業務を通して、あるいはレジャーなどを通して、従業員間のコミュニケーションが培われる必要がある。京写九州工場では、夏のビーチバレー大会やテニス、バスケット、ソフトボールなどのクラブ活動など、スポーツを中心にした活動を行っており、障害者も応援や競技に参加している。また、部署ごとに業務改善に関する勉強会を実施しており、業務を通したコミュニケーションが図られている。 |
7.まとめ
| 京写九州工場は基本的な施設のバリアフリー化のみを整備し、そのほかには障害者雇用に関する特別の工夫やシステムづくりを行っているわけではない。しかし、健常者と障害者を区別しないという企業文化が仕事の現場から自然に構築されており、それがルールやシステムでは補完できない細かな隙間をサポートしていると思われる。ハード面の改善や助成金などの制度を作ることばかりが思いつくが、本来はこのような自然体のバリアフリー環境が望ましいのではないのだろうか。 但し、総務担当者は「悩み」もあるという。 例えば、ロビーにある掲示板の位置。車いすから見ると、やや高く、本来であれば少し低い位置に修正すべきかとも考えられるが、「これまでそれで問題がなかったものを急に変更するのは、かえって障害者を区別しているようで悩んでしまう」というのである。 自然発生的に培われてきた企業文化は、ともすると前例主義となり、新たな取り組みを拒否する恐れが生じる。これまで培ったバリアフリー・マインドを生かしながら、いかに新たなチェック機能を育てていくか。京写九州工場の新たな取り組みに期待される。 |
| 執筆者：有限会社エアーズ 森 克彰 |
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