社員の定着こそ最大の利益~知的障害者の多数雇用事例~
2002年度作成
事業所名 | 株式会社ニック | |||||||||||||||||||||
所在地 | 沖縄県浦添市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 貸おむつ・貸おしぼり・外食事業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 70名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 19名
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1.障害者雇用状況
(1)障害者の出身校及び紹介事業所 |

[1] A養護学校 [2] B養護学校 [3] C学園 [4] 沖縄障害者職業センター |

(2)障害者の出身校及び紹介事業所とのきっかけから採用まで |

[1]A養護学校と[2]B養護学校においては、学校教育活動の一環である就業体験で受け入れ、就業状況より工場長の判断を受け、世話人・工場長・保護者との三者面談にて採用を決定した。現在就労するA、B養護学校出身者は、新規卒業での採用である。 [3]C学園と[4]沖縄障害者職業センター紹介者においては、依頼により就業体験の形をとって受け入れ、就業状況より工場長の判断を受け、世話人・工場長・保護者との三者面談にて採用を決定した。 |

(3)障害者の仕事内容 |

貸おむつ・・・・ 2名配置(選別)。 貸おしぼり・・・15名配置。 選別(6名)カゴ洗い(2名)折り(1名)検品補助(3名)雑用(3名) 外食事業・・・・1名配置(パン袋へのシール貼り)。 * 基本的に障害者個々の適所に配置。個々の適所の決定には、時間をかけ障害者個々にいろんな作業を経験させ、本人の納得と工場長の判断により決定する。 日々の心身の状態により、その日の仕事配置を変えることもある。 |

(4)継続的な障害者雇用のきっかけ |

22年前に障害者を雇用(現在も就業、40代)。当初は助成金等が会社にとって大きなプラスになると考え、障害者の雇用を試みたが、事務手続きの煩わしさや補助金等に頼らず、会社自体が努力した部分での利益のみで会社の自立を考える強い方針により、障害者雇用を止める。 12年前(平成2年)に沖縄障害者職業センターの要請により、障害者を就業体験させその適応の見通しを持ち採用した。平成3年度から、養護学校生徒を就業体験で受け入れ、就業状況により適者を見極め採用した。以後、適応の見通しのある障害者の雇用を継続中。現段階において、補助制度等は当初の会社の方針と変わらず全く利用していない。 |

(5)障害者の給与 |

現在雇用している障害者の生産性は100%~30%と個々によって差があり、その生産性に合わせた能力別の給与制を導入している。現在雇用している障害者の給与は、個々の能力により5万円~12万円の幅がある。 |

(6)離職者 |

平成2年以降採用から現在までに5名の離職者がある。4名は1~2年目に離職しており、1名は10年目に離職。離職の原因として、結婚し家庭を優先しての退職や本人の障害の状態により父母が退職を選択。また、遅刻や欠勤が多く再三の注意にも改善の意欲もなく離職を選択するなどの理由が挙げられる。 |

(7)社員の障害者感 |

完全な人間はいない。個々人なんらかの障害を抱えており、一部分の障害が目立つか目立たないかの違いであり人間として何ら変わるものではない。 障害者と周りから呼ばれる者や健常者も自分自身の完成を目指して日々努力し、成長・発展していかなければならない存在である。 |

2.社員の定着こそ最大の利益
(1)会社の理念 |

会社の経営理念である成長・発展・貢献は、社員一人一人が自立し成長することが会社の発展に繋がり、会社の発展が社会への貢献に繋がることを意味している。社員一人一人が自立し成長することは、株式会社 ニックで働くことによって人間として完成していくことを考えている。この考え方は、障害者や健常者を問わず社員全員に徹底している。それ故、個々の成長に関わる言動によっては、徹底した討論が繰り広げられ、そのような討論には、時間を惜しまないでいる。 |

人間としての教育を深めるためには、時間が必要である。会社は、社員の定着こそ会社の大きな利益を生むものであり、会社の目指す人間としての教育の大前提だと考えている。障害者の就職において定着は大きな問題となっているが、ここニックでは現在22年間の勤務を始め12.11年間など障害者の定着率も高い。これは、定着を大前提にする方針を会社が実行している結果である。 | ![]() お互いサポートしながら働く従業員 |

(2)支援体制 |

障害者の定着に対して、父母や出身学校あるいは紹介事業所等との連携や本人との時間をかけた話し合い、そして本人にあった環境づくり等の配慮がある。特に本人との話し合いは、納得するまで徹底され様々な問題をほとんどの障害者が自己決定によって乗り越えていくように支援している。支援に関しては、採用当初は特定の支援者(工場長)が存在するが、できるだけ早く身近で働く仲間同士での支援へと発展させている。 |

これは、障害者の定着支援で大切なナチュラルサポートであり、各持ち場で働く障害者の笑顔から会社全体がそのような雰囲気に包まれているように感じられる。 同じ障害のある者であってもその能力やニーズは、環境により異なるのは当然でありニックでは、会社の環境の中で本人の最大限の能力を引き出すように支援し、個々のニーズにも本人の努力を基に会社側も努力を惜しまない。 | ![]() 職場には笑顔が絶えない |

(3)障害者雇用のメリット |

自己決定によって様々な問題を乗り越え、自分の持ち場で自信を持ち働く者は障害があろうとなかろうと生き生きしており、周りを和ませてくれる。 |

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会社側は、これまで19名の障害者を雇用し最大のメリットとして、周りを和ませてくれることだと答えている。 障害のある者を周りの人々が支援し、支援され成長していく障害者が周りを和ませるこの相乗効果が最大のメリットである。また、デメリットを挙げるとすれば、障害のある者の家族との連携の不都合から生じる問題程度であるとの答えであった。 |

(4)自然な人間関係 |

社員の教育にはかなりの投資を惜しまず、様々な研修の機会を得ているが、障害者の理解等についての研修等は持ったことがない。これは、共に活動する中で感じとるものだとの考えからである。共に活動する社員の楽しみの研修として、月2回の生花教室や毎年恒例の社員旅行がある。このような研修にも会社側は、経済的な援助を惜しまないでいる。恒例の社員旅行は、北海道や中国などにも出かけており、その際に、支援が必要な障害のある者に対して、社員の中から2人の支援者がついて旅行中障害のある社員と昼夜を共にしている。そのような研修のあり方や日々の職場の雰囲気が障害者と健常者の壁を造らない好ましい人間関係を生み出すのだろうと考える。 |

(5)キャリアアップと退職後の課題 |

社員の定着を考えるとき、キャリアアップも大きな要因である。しかし、ニックでは、社員あるいは障害者の定着を考えたキャリアアップはなく、自分の仕事に自信を持って、自分自身を主張しあえるような職場作りでの定着を考えている。 社員の定着こそ最大の利益だと考え、そのような会社の雰囲気作りを徹底したからこそ長期の障害者雇用につながっている。 障害者の長期的な雇用において、障害者自身の高齢化に伴う職種の制限や退職後の出口の問題がある。22年もの長期にわたる雇用経験のあるニックにとっても、身近な問題であり大きな課題にもなっている。 退職後の障害者を考えると、障害者個々の地域社会・福祉との連携が重要になってくる。会社として関係機関との連携のあり方を考えていくことにしている。 |

(6)大きな利益 |

毎年継続して障害者を雇用するニックは、障害者雇用について企業が最初に取り組むことは、障害のある者を職場の中に取り入れてみることであるという。採用を前提としない就業体験の形で、ある一定期間、それも企業側がその適性を見通せる期間、試行的に就業させてみることが必要である。 障害者の中には企業で十分に働ける可能性を持っている者も多く、会社に大きな利益をもたらす者が必ずいる。ニックで働く障害者は、株式会社ニックに大きな利益をもたらしているのである。 |

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執筆者:琉球大学教育学部障害児教育教室 助教授 田中 敦士 |

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