保育園における知的障害者の職域開発に関する取り組み
2003年度作成
| 事業所名 | 社会福祉法人恵泉会 中居林保育園 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 青森県八戸市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 保育所
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| 従業員数 | 21名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 1名
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 中居林保育園 |
1.雇用に至った経緯、背景
| 八戸第二養護学校から平成13年3月に職場実習の依頼があり、過去に障害者雇用の経験はなかったものの取り立てて避けてきたわけでもなかったため、要請を受けたことをきっかけに雇用を前向きに検討した。当座2週間の予備的実習で様子を見たところ、大きな問題も無いようなので、その後実習を継続することとした。 その間に、職場では慎重論もあったが、話し合いの上職員としての受入れを決め、平成13年6月に正式に職員採用とした。 採用にあたっての条件は次の通り。
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2.雇用時の状況
| 採用判断に当たっては、職員から多少懸念する意見もあったものの、障害者本人が当園の卒園者であり在園当時の職員が現在も半数以上おり、最後は「障害者も健常者も一緒の保育環境こそ社会の姿である」との思いで職員の理解を得て椛沢幸苗園長が決定した。 採用を判断する際には、園児の保護者の反応が心配されたため、雇用時に保護者全員に紹介し、障害者への理解を訴えた。結果として保護者からは心配する程の反応はなく、その後の園の運営に関する時折のアンケートにも障害者雇用についての記述は見あたらず、保護者には理解をいただいているようだ。 就職時の家族の対応は、障害者本人が在園当時から母親が、当園とはコミュニケーションをよく取り合っていたので、就職にあたってもとりたてての気負いもない自然な流れで対応していた。 採用当初は、通勤には家族が同行していたがそれも数回で、現在は15分程の自宅から徒歩で出勤してきている。 また、採用当初、緊張からかたまに不調を訴え、欠勤、早退がみられたが、採用後1年たった頃からほとんど休みや早退はなくなっている。 |
3.採用後の指導状況
| 実習期間中は、障害者職業センターの職域開発援助事業を活用してサポートを受けた。採用年の4月以降は何度か担当者が来園し、本人へは職務について、職員へは障害者指導のポイントについてご指導いただいた。 「経験のない障害者の職場受け入れにあたって、障害者職業センターの担当者のアドバイスは大変役に立った」と受け入れを担当した渡辺先生は、何冊にもなった当時の指導記録のノートをながめながら述懐されていた。 正式な職員として採用してからは、職業センターから一度サポートしてもらった程度で指導できてきた。 採用時には担当させるべき業務内容を決めてはいたが、実際の仕事ぶりをみながら、都度その範囲やレベルを考えて指導をしてきた。 採用後2、3ヶ月後に「本人の気持」と「現状」のレベル合わせを行った。本人は何を望んでいるのか、何ができていて何ができていないのか、あるいは職場としては何をどのように期待しているのか等、キチッと伝えることが本人の今後のためにも必要と考えてのことであった。 職業センターへの状況報告のための日誌記録が、結果としてその後の現場での良き指導資料となっている。記録をとりながら、障害内容、指導レベルの勉強となり、現在でも本人への指導に活用している。 |
4.現在の業務状況
| 当初は年少組エリアの1階（年長者エリアは2階）の清掃を中心とした用務を仕事としていた。 正式採用後3ヶ月くらいになると、決められた清掃の仕事は他の職員の指示が無くてもできるようになり、決められた時間内に終えられるようになった。 最近では、当初の2倍から3倍の業務範囲、業務内容をこなせるまでになってきている。現在の具体的な仕事は「掃く・拭く・モップかけ・シンク周りの清掃・保育補助」を担当業務としている。 保育補助業務については、保育の流れや1日のリズムが理解できるようになり、また本人の体力の向上が進み、職員の助言なしで自分の健康管理ができるようになってきた採用後1年ころから担当させている。 保育という仕事は園児を抱きかかえたり乳児をラックごと持ち上げたりと体力や腕力を使うため、本人の体力が耐えられるか心配であったが、今では何の心配もしていない。 保育補助の仕事では、多忙な職員が目の届かないちょっとしたことに目を向けて職員に伝えたり、園児の危ない場面で園児を直接叱ったりできようになってきている。その園児とのやりとりも、当初は園児への声がけがきついこともあったが、場面に応じた「加減」を使えるようになってきている。 最近の本人と園児たちの関係は、園児たちが時に本人の膝の上に乗るほどにすっかりうち解けてなついてきている。 本人の性格か、思うようにならない場面では多少頑固さが出たり、慣れた仕事は多少自分に都合よく変えてしまう面もみられるが、自主性・自立心が身に付いたことともみることができる。 規定で年休も付与しているが、現在、年休の取得もせず頑張っている。 本人自身は、今後年長者対象の業務をしたいという希望もあるようだが、年少組業務もまだまだ範囲が広く、また、乳児の世話等の経験が本人のこれからの人生で活用応用できると考え、これからも年少組業務を充実させた業務を指導していく予定である。 |
5.雇用してみて
| 職員自身も、身近に障害者がいることで、今までは気付かなかったことをいろいろ学ばせてもらっているという意見が多くあり、障害者雇用により多少の業務は増えていると思うが、その手間暇をマイナス思考ではなくプラス思考でとらえている。 職員同士でフォローし合い、日常の中で課題を見つけつつ、本人の様子を見ながら「仕事の範囲・指導レベル」を考えているようにしている。 受け入れ担当の渡辺先生は、「指導のための日誌記録をとりつつ、その日誌記録を振り返りながら、関係職員共々独自に本人の職場適応をすすめてきました。今では、職員たちにとってはいい指導マニュアルになっています。読み返してみれば、自分たちにとっても学ぶことがいろいろありましたね」と表情も明るく語っておられた。 雇用した結果、職場として本当に困ったという事は特に思い出されることはなく、逆に、日々の指導の中で、当初の本人の表情が徐々に働く人としての普通の表情へと変化してきたことに障害者を受け入れた満足感を覚えるとおっしゃる渡辺先生のお気持ちには、障害者雇用の真の姿を垣間見る思いである。 雇用に伴う職場改善、業務手順変更や職員の業務分担変更等は、保育という業務からの園児の怪我の発生が一番の気がかりであり、採用後は本人の指導のため交代で職員を担当者としていたが、考えてみれば、通常の職員採用であっても慣れるまでは同様の体制をとることが当然のことである、との園長先生の言葉には障害者雇用を特別視しない経営者としての志の高さを感じさせるものがあった。 |
6.訪問を終えて
| 椛沢園長は「障害者雇用の条件、環境がうまくかみ合ったケースなのかも知れないが、特別の苦労はなかった。普通に対応してきたつもりである・・・」とおっしゃるものの、職員の方々や保護者の方々への理解を得る努力、園長自身も未経験な事への決断等、いろいろご苦労があったことと推察される。その苦労を言葉にすることもなく、明るく、バイタリティ溢れる態度でご説明ご案内いただいた。 知的障害者を特別視するのではなく、やればやれる、やってみれば本人も回りも気づかなかった職域開発につながる、という好事例としての手応えを感じさせるものであり、本人ばかりではなく、障害者全般にとって望ましい、将来に希望を感じさせる職場との印象を強くした。 経済的効率が求められる一般企業とは違う保育園という職場が本人にとって良かったかも知れないが、今後の障害者雇用に当たっては、雇用側の大変さを克服することを前提にした雇用開発ばかりではなく、「障害者雇用を特別なこととしない社会の仕組みづくり、意識改革への取り組み」が必要ではないだろうか、という点で園長先生と意見が一致した今回の訪問であった。 |
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| 執筆者：（株）ナカ企画（人材開発センター） 中崎 良次 |
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