宅老所でヘルパーとして働く知的障害者
2003年度作成
事業所名 | 特定非営利活動法人 さいしょはグー! | |||||||||||||||||||||
所在地 | 宮城県仙台市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 訪問介護とデイサービス | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 8名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 1名
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1.NPO法人・さいしょはグー
仙台市の街中から南に車で15分ほど走ると、100万都市・仙台市を迂回するバイバスにぶつかる。そのバイバスの交差点である六丁目は、毎朝、街中に入る車で混雑する地でもある。そこからほどよい距離のバイバスの隣接地、6階建てのマンションの209号室に特定非営利活動法人・さいしょはグーがある。 さいしょはグーは、通俗的には宅老所と呼ばれる介護サービス機関の一つである。案内パンフには、「その人らしさを支援する……訪問介護とミニデイサービス」と表書きされている。宅老所は、NPO(特定非営利活動法人)の自主的運営によるものが多く、ほとんどが普通の民家などを拠点としている。それらは、社会福祉法人や企業などの運営するデイサービス施設に比すると、建物で見劣りがするが、痴呆の年寄りなどにはなじみやすく、落ちついた生活ができる場所ということで増加傾向にあるという。そして、全国で1,300ヵ所以上になっているという。 さいしょはグーは、平成10年4月開所した宅老所であり、仙台市の委託を受けた居宅介護支援事業所である。こうした宅老所が、100万都市・仙台には30数カ所開設されているという。地域に居住する老人や障害者が住み慣れた地域で家族とともに生活を送ることをめざして、ヘルパー(スタッフ)が在宅を訪問して介護活動をするとともに、209号室に利用者が送迎付きで通所しデイサービスを展開している。利用者は老人だけでなく、障害者も対象者である。障害者には居宅介護支援(ホームヘルプ)として、身体介護、家事援助、移動支援、日常生活支援を提供している。また利用者は、当然のことながら、介護保険を使用し、サービス内容、サービスを受給する時間、介護制度等で限度が人により異なるが、利用者本人には1割を負担してもらい、運営が行われている。 さいしょはグーの拠点には、更衣室、相談室・事務室、静養室、調理室、談話室があり、談話室が通所によるデイサービスを受ける利用者の活動と談話の場として、1日6~8人が家庭的な細やかなサービスを受ける空間となっている。施設での集団的な処遇の場でなく家庭的な場、しかも自宅に近いところで介護を障害者や老人にうけさせたいとする願いに応えて、生まれてきたと言える。さいしょはグーの運営責任者・新井聖子さんは、「施設でもなく、自宅でもない、新しい在宅の暮らしができる場であり、自分らしさを大切にした生活のできる空間がさいしょはグーです」と言っている。 |

2.ヘルパーとしてのMさんの仕事
![]() Mさんは、養護学校高等部3年生のときにヘルパー3級の資格を取得し、最初、トライアル雇用制度を使用しての就労であった。トライアル雇用時、Mさんは体力が弱く、車いすを押すこともできないということもあり、勤務は週4日であった。本採用になった現在では、月~金曜日まで朝9時から17時までの勤務となっている。 Mさんの一日の仕事の流れは、9時に出勤して、着替え、お湯を沸かす、送迎車が到着したところで出迎え、デイ活動での話し相手、ゲーム相手、昼食の手伝いと配膳、そのあと、清掃と後かたづけ、というのが日課である。こうした仕事の流れの中で、ファックス送信など簡単な事務処理や、あまり多くはないが、電話に出ることもある。 |

![]() ディサービスでのMさんのヘルパーとしての仕事は、通常の意味において、必ずしも介護活動とはいえない。それは、むしろ、Mさんが老人たちから「援助」を受けているかの情景が見られるからである。たとえば、折り紙を折ったり小物づくりに励む老人の話し相手がMさんの「介護活動」ではあるが、老人たちを援助・指導するというより、老人たちに援助・指導をうけて「教えてもらう」ことが仕事といってよい。徘徊したり、常同的動きを示す痴呆老人なども含まれるが、老人たちにとってはMさんは孫のようなものであり、Mさんは老人たちから「可愛がられる」という「仕事」をしているのである。Mさんは、6~8人ほどの通所の老人たちのアイドルのようで、老人たちも口や手を出してMさんの手助けをしているのである。しかしながら、このようにいっても、Mさんが、ヘルパーとして、きちんと仕事をしていないということではない。高齢者介護の基本は、高齢者を受容・尊重しながらコミュニケーションを絶やさないことと言ってもよいが、この基本は、Mさんはきちんと心得ている。 |

3.Mさんの雇用と人事管理
さいしょはグーの運営責任者・新井聖子さんがMさんの雇用を依頼されたのは、知人を通してのことであった。採用のための面接のとき、Mさんがはっきりと「働きます」という言葉を発したのを受けて、新井さんは、Mさんの働く意欲を強く感じ、雇用を決心したと述べている。 しかしながら、Mさんは、今日でも体力面に弱さをもつのに加えて、障害者のイベントに参加した翌日など寝過ごして遅刻して出勤し、働くということの意味を理解していないのではないかと考えさせられることもあるという。またMさんの通勤は、自宅からJR駅まで徒歩で行き、電車に乗り、バスを乗り継ぐかたちをとっているが、母親が毎日JR駅まで同伴していたり、地震があったときなど母親にすがりついて離れられなかったなどの話があり、Mさんの自立意識ないし親離れの未熟さが感じられないわけではない。さらに偏食が激しく、食が細く時間がかかったり、昼食準備の当番で調理をさせると自分の好物だけを料理してしまうなどもある。加えて、職場でのMさんの業務遂行においても課題がある。Mさんは、老人の話し相手となってはいても、その内容は自己中心的で聞き役に徹したり話を引き出すことは難しく、老人一人ひとりの個性に対応したケアを工夫するなどはさらに困難なのが実態である。 そのため、運営責任者の新井さんがMさんの指導にあたっているが、宮城県障害者雇用促進協会より受給している「重度障害者介助等(業務遂行援助者の配置)助成金」をもとに、運営責任者の新井さんが業務遂行援助者となっている。新井さんは、Mさんが上述したような課題をかかえながらも、Mさんの進歩ぶりに驚き、「Mさんは確実に育ってきています」と強調し、Mさんが今後も成長し介護補助業務を遂行していけるものと確信している。笑顔をたやさないMさんは、新井さんという業務遂行援助者の下、ヘルパーとして成長していくのは間違いないであろう。 |

4.知的障害者のヘルパー養成講座
「知的障害者対象にヘルパー養成講座、宮城県、今秋から」。これは2003年7月23日の河北新報の記事の見出しである。同記事によると、知的障害者の自立支援策として、宮城県は、知的障害者を対象にして3級のホームヘルパーの養成研修を開催し、介護施設などでの就労を促進するという。そして、既に高等養護学校在校生を中心に、15名ほどの応募があるとも書かれている。こうした記事が新聞に載るにいたったのは、Mさんの事例が宮城県当局に伝えられたことが寄与しているのであろう。 介護分野は、今後における知的障害者の職場として有望視されながらも、全国的な広がりはこれからであるといってよい。高齢化と少子化の進行とともに、将来的には、ホームヘルパーなどの人材不足も指摘されている。 Mさんの事例は、知的障害者が介護福祉の分野で適切なサポートが提供されるなら働くことができることを示していると言える。実際、Mさんのヘルパー3級資格の取得経過の問い合わせなども新井さんのところにきていることから、介護福祉の分野は関係者が強い関心を寄せている知的障害者の新しい職域といえる。Mさんの事例は、社会福祉法人の運営する授産施設等で福祉的就労に従事していた知的障害者を同一法人の経営する福祉施設で雇用に移行するなどのときの参考例となり、それだけでなく、ノーマライゼーションの具体化としての地域福祉の推進の中で、今後、大きな成長が期待される地域密着型ミニ介護サービス分野での知的障害者雇用の好事例と言えよう。 |

執筆者:宮城教育大学教授(障害児教室) 清水 貞夫 |

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