聴覚障害者の雇用に関する取り組み
2003年度作成
事業所名 | 光陽印刷株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 秋田県秋田市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 印刷製本業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 24名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 3名
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1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
昭和48年に創業を開始、事務用印刷から、パンフレット等商業印刷、記念誌・雑誌等出版印刷、報告書等簡易製本印刷へと業務を拡張し、昨今の印刷情報機器の目覚ましい進展によって業界全体の受注が年々減少する中にあって、その実績を着実に伸ばし、本県の印刷業界での地位を着実なものにしている。 障害者の雇用については、以前に同業他社で働いていた重度の聴覚障害者を2名採用し、これまで他の従業員とコミュニケーションに特に問題がないことから、新たに新規学卒者を雇用に結びつけた。 |

2.取り組みの経緯・背景
聴覚障害者を中途採用し、作業実績は健常者と遜色なく、他の従業員とのコミュニケーションも特に問題がないことから、雇用従業員の若返りを図ることが必要な時期でもあり、新たに障害者と雇用することとした。ハローワークと秋田聾校に適任者の推薦を依頼していたところ、聾学校から当該障害者の紹介があり、ハローワーク主催の面接会で面談することになった。 面接の際に、ハローワーク及び聾学校の了解を得て、在学中に約1カ月の職場実習を行うことにして、業務への適応性と職場への順応性を見極めることにした。また、職場実習中の働く心構えと生活指導については、聾学校の進路指導主事等からも応援をしてもらうことにした。 |

3.取り組みの課題
(1)改善前の機械と職場の状況 |

当該障害者を配置しようとしていたDTP室でのオフセット印刷の作業工程は、大きく分けて、以下のとおりであった。
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(2)作業上での問題点 |

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4.改善の内容
(1)経過及び進め方 |

文字入力と組版、版下製作の主力編集機(リョービイマジクス社)は、専用ソフトで読み込み編集を行うもので、習熟するまでは、新卒者の場合は3~5年の教育期間が必要である。 職場実習中と就職当初の作業状況を見ながら、色々試行錯誤を重ねた結果、当面は印刷するものの中で小物類(ハガキ、名刺、賞状)の担当にして、オフセット印刷の工程を、DTP室内で行えるようにした。(小物類については製本はほとんどない。) それに伴って、当該者のために各工程で何らかの形で関わってきた人員と、それらの時間的なロスを最小限に抑えられると考えた。 |

(2)改善の状況 |

[1] 聾学校在学中に行った編集機による版下作製実習は、マッキントッシュを使用してきたため、マッキントッシュとともに、リソグラフSR7400の印刷機を導入した。 | ![]() マッキントッシュとリソグラフの配置 |

[2] 導入と同時に、当該障害者がマッキントッシュに向かった後背位にリソグラフ印刷機を配置した。マッキントッシュにより組版したデータを、後背位に配置したリソグラフ印刷機に送信、印刷用の版にデータが印字され、移動しないままで印刷に取りかかれるようにした。また、騒音対策として、リソグラフ印刷機を防音カバーで覆い、騒音を遮断した。 | ![]() リソグラフSR7400 を背後に配置 |

[3] 上記[2]のように、リソグラフ印刷機は当該障害者の後背位に配置した。印刷機の作動や停止、トラブルの発生等についてはパソコン画面に表示されるものの、より作業に慎重を期すためと、周囲の上司・同僚が即座にトラブル等を感知し応援が行えるよう、パトランプを設置し、作動及び停止、トラブル等が光の色によって識別できるよう改造を行った。 | ![]() 防音カバーとパトランプ |

5.取り組みの効果
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6.専門家の視点による評価
在学中に使用していたマッキントッシュの導入と作業効率を良くするための印刷機を導入し後背位に配置したこと、当該障害者を小物類(ハガキ、名刺、賞状)の印刷部門に配属したことは、職場実習を経て会社側が試行錯誤を重ねた結果出した結論であり、障害特性を見極めた適材適所の選択である。 また、他の従業員に対する騒音等の気配りと、他の従業員からの応援体制の確立など、障害者が働く環境の配慮が職場の随所に見られる。 特に、会社側としても当該障害者が絵画部門の国画会展覧会等で数多く入選していることから、絵の才能を活かしてポスターのデザインコンペに健常社員と競い合わせながら出展させるなど、これからのマッキントッシュの技術の習得を見ながら小物類からポスター、リーフレットなどの分野へ幅を広げるなどの構想ももっており、当該障害者に対する期待は大きい。本人も「初心」、「感謝の気持ち」を忘れないで頑張るといっており、雇用継続には特に問題はない。 上記以外に特筆したいことは、在学中の職場実習に入る前に、聾学校の指導主事などで組織している進路指導部が、雇用情勢が厳しい中で、何とか卒業後に雇用に結びつけるため、危機感をもって実習前の指導を行っていることである。 特に、「仕事の内容にこだわらず、どんなことにでも真剣に取り組む姿勢を示すこと」、「正確に、丁寧に作ることに心がけること」、「挨拶や返事をきちんと行い、聞かれたことに対して必ず自分の気持ちや考えを伝えること」、「仕事についての指示がわからないときは、必ず納得するまで聞くこと」、「このようにやってみましたが、いかがでしょうか」など、徹底した指導の上で職場実習に臨ませている。 また、職場実習に入ると、会社から帰宅後は担任教諭に必ず電話連絡をさせて声の調子を聞くとともに、仕事の内容から一日の様子を把握する。実習日誌を必ず記入させ、会社の日曜日以外の休日である第二と第四土曜日は登校させて、本人からの実習の様子を聞き、また日誌をもとに問題があれば指導を繰り返して行い、職場実習の現場へ出向いて本人の様子と会社側の指導状況の把握を行っている。 |

一方、会社側では、職場実習が進むにつれて、本人の「もっと頑張らなければ」といった素直な気持ちを受けとめ、卒業後は何とか雇用に結びつけて即戦力として頑張ってもらうために、当該障害者が所属している部門でのミーティングを頻繁に行うとともに、従業員同士が工夫をし身振り手振りで指示伝達を行い、時には筆談を交えてのきめ細かな指示の徹底を行うなど、職場実習の後半には「何とか覚えてもらおう」と従業員の態度に真剣さが徐々に増していった。 このように、聴覚障害者が働きやすいハード面の改善とともに、聾学校の進路指導部の「何とかしなければ」といった献身的なバックアップ体制の確立と、会社側の従業員を巻き込んだ受け入れ体制の整備が雇用に結びつけた大きな要因である。 | ![]() ミーティングの様子 |

執筆者:雇用管理サポート事業協力専門家 手話通訳者 仲村 多雅枝 |

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