適材適所~一人ひとりを生かす~
2003年度作成
事業所名 | 株式会社クラロン | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福島県福島市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | スポーツウエア制服製造販売会社 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 180名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 40名
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1.事業所設立の経緯とその概要
(1)会社設立の経緯と障害者雇用の推移 |

クラロンは創始者の田中善六氏(平成14年3月逝去)により昭和31年2月に学校体育着の専門メーカーとして設立された会社である。その後、昭和34年からは「みんなが望む健康、みんなに優しいスポーツウエア」を創業の理念に掲げ、東北を地盤とする地場産業に発展し今日に至っている。現社長は先代夫人の田中須美子氏である。 クラロンにおける障害者雇用の経緯は、創始者である初代社長が養護学校の先生から頼まれたのがきっかけで、昭和45年に初めて障害者を採用したのに始まる。その後、障害者の雇用は徐々に増加し、表1に示したように平成15年7月現在、全従業員180人のうち40人(22.2%)の障害者が技能者として働いている。過去11年間に22名(年平均2名)の障害者が採用され、年平均42名の障害者が在職している。 表1 障害者雇用の推移と在職障害者
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(2)事業の概要 |

クラロンはスポーツウエアの製造販売会社で、トレーニングウエアのほか、水着や柔道着、剣道着、警察官の制服等も作っている。取引先は青森県を除く東北5県や栃木、茨城、新潟県と広く、幼稚園・小・中・高校合わせて約1,300校に上る。年間に生産する学校運動着は約90万着で、福島市内の児童生徒用の体操着のほとんどがクラロン産である。スポーツウエアは教師や児童生徒の希望に沿って学校ごとにデザインを変える必要があり、数の多少に関係なく学校ごとにオーダーメードで応じている。顧客一人ひとりに合わせて、「注文に応じたデザインと短期納期」をモットーにしている。 ウエアの製造は主に製図、裁断、縫製、仕上げといった工程を経て出来上がる。作業は完全な分業制で、まずは製図と裁断から始まる。1枚から数十人分のシャツが出来る大きな反物を広げ、60~80枚を重ねる。その布にチョークで印を付け、型紙に合わせて布を裁っていく。デザインごとに用意された型紙は400種類以上に及ぶ。次に切った布をミシンで縫い合わせていく。作業はTシャツやポロシャツなどの半袖を縫う班、トレーニングパンツを縫う班など、8~9人から成る「縫製班」ごとに流れ作業で進める。社員の半数以上が縫製を担当し、工場には絶え間なくミシンの音が響いている。最後に、縫い上がったシャツを表に返して糸くずを取ったり、パンツに紐を通したりして完成する。 障害者も全員がそれぞれの「班」に所属し、班長(子育てを終えたベテラン社員)の指導のもとで流れ作業に組み込まれており、一見してどの社員が障害者なのか判別できないくらいスムーズに作業が進行していた。これは個々の障害者の能力や適性に合わせて、まさに「適材適所」で作業班が構成されているためと思われる。 当たり前の事であるが、「靴(仕事)に足(障害者)を合わせる」のではなく、「足(障害者)に靴(仕事)を合わせる」ことが鉄則といえる。 |

2.障害者雇用の実態
周知のように「障害者の雇用の促進に関する法律」では「障害者雇用率制度」が設けられており、常用労働者数56名以上の民間企業ではその常用労働者数の1.8%以上の障害者(身体障害者及び知的障害者)を雇用しなければならないことになっている。いわゆる法定雇用率が定められているが、平成13年6月現在、我が国の身体障害者及び知的障害者の実際の雇用率は1.49%に留まっており、依然として法定雇用率が達成されていない。しかも大企業になるほど雇用率は低く、ちなみに常用労働者数1,000人以上の大規模企業では実に73.4%が未だに法定雇用率を達成していない。このような状況の中で、クラロンにおける障害者雇用の実態には注目すべきものがある。 同社の場合、表1に示したように平成14年7月現在40名の障害者が就労している。その内訳は、身体障害者が2名、知的障害者が38名(うち重度障害者が11名)となっている。ちなみに法定雇用率の算出は重度障害者の場合は1人を2人に相当するものとしてカウントされる。したがって、この方式で算出するとクラロンでは総数51人(11×2+29)が雇用されていることになり、全従業員180名の同社の法定雇用率は28.3%となる。これは、実に全国平均(1.49%)の約19倍(法定雇用率の約16倍)に相当し、驚異的な雇用率を誇っている。しかも注目すべき点は、重度障害者が11名(障害者全体の27.5%)も雇用されていることである。 |

3.障害者雇用への取り組みと今後の課題
(1)障害者雇用に対する基本的姿勢 |

同社では、先述のようにそれぞれの作業班に障害者を配置し、班長がリーダーになって親身に仕事のことから日常生活面についても細かな指導がなされている。つまり、障害者を邪魔者にして「締め出す」のではなく、社員みんなで温かく「包み込む」(インクリュージョン)という社内教育が徹底している。これには何よりも先代社長の功績が大きいといえる。先代社長の障害者に対する深い理解と愛情は、「一人たりとも疎かにしない」という哲学(社訓)となって、現社長(田中須美子氏)にもしっかりと受け継がれている。この精神は『会社案内』にもその一端が明記されている。 皆さんの心温まる支援を得て、障害のある人々が、生きる喜び、働く楽しさを身に付け、未来に希望と夢をもって働く姿には感動いたします。これらの働く障害者から学んだ美しい心は、私共の人生をも変えて、人が人を育て、一人を疎かにしない教育の大切さを教えられ、今や企業内にしっかりと根を下ろしていることが何よりも有り難いことです。 草花が太陽に向けて花を咲かすように、私達も人の温かさに触れたとき、固く閉じていた心がやさしくなごみます。ちょっとした思いやりが人の心を感動させ、小さないたわりが、人と人とを結び付ける絆となってゆくことでしょう。こんな心掛けで一枚一枚に健康であるよう祈りを込め、思いやりと真心をもって、スポーツウエア作りに励んでいきたいと念願しております。(田中須美子) (『会社案内』より引用) |

(2)障害者雇用及び職場定着へ向けての努力事項 |

障害者の雇用及びその定着を図るために、クラロンでは下記のような努力と配慮が会社を挙げてなされている。こうした取り組みが功を奏し、障害者の職場定着が可能となり、驚異的な障害者雇用率を維持している。 [1] 養護学校等との交流促進及び実習生の受け入れ 地域の盲・聾・養護学校との交流を積極的に行い、就職を希望する生徒(障害者)の把握に努めると共に、希望者には現場実習の便を図っている。また先代の社長は市内の職能開発協議会長や心身障害者雇用促進協会長を務めるなど、障害者雇用に対しては全力で対処してきた。先述の『会社案内』にも見られるように、先代社長の遺志や役職は現社長にも受け継がれて雇用の拡大を図っている。 [2] 作業工程の単純化と作業活動の小集団化 障害者が孤立することなく作業に取り組めるように作業ごとに「班」を編成し、班長のもと「適材適所」に障害者が配置され、健常者と障害者の人間関係や連携がスムーズにいくような配慮がなされている。 [3] 能率主義・生産主義からの脱却 生産第一の能率主義を見直し、じっくりと「待つ」姿勢で、障害者個々人の適性の発見に努めている。障害者の雇用に当たってはまさに「あわてず、あせらず、あきらめず」の精神で取り組んでいる。そうした社内の雰囲気が雇用の定着と持続を可能にしている。 [4] 家庭(家族)との連携協力 日頃から家庭との連絡を密にし、生活面の指導も含めて、家庭と会社が連携協力して継続的で一貫した支援がなされている。 [5] 安全衛生・健康管理 毎月1回産業医による工場内全域の衛生検査を実施し、問題点がある場合はその都度改善を図っている。その際、社内の健康管理についてもチェックを受けている。 [6] 職場環境の整備と余暇活動 福利厚生面にも力を入れ、社内旅行、忘年会、花見会、暑気払い、いも煮会、ボーリング大会等を企画し、障害者も健常者と一緒に楽しく働ける環境作りに努力している。 |

(3)当面する課題 |

クラロンでは障害者の日常生活面の指導が当面の課題になっている。障害者を雇用する場合、仕事以外にも、通勤の自立、あいさつ、身なり、清潔等の基本的生活習慣を始め、金銭の管理や使い方(サラ金に手を出した者もいる)、男女関係、対人関係等といったエチケットやマナーに関する指導も必要になる。こうした指導には家庭との連携が不可欠であるが、一部の保護者の無理解や非協力といった問題も残っている。また、仕事が単純な肉体労働(単純作業)が中心になるために、体力の維持と健康管理が課題となっている。今後は高齢障害者の健康管理とQOLが課題となるであろう。 |

4.まとめ
クラロンが多くの障害者を雇用し高い雇用率を維持している背景には、創業以来障害者雇用に積極的に取り組んでいることに加えて、会社が一丸となって障害者雇用を定着させるための努力がなされてきたことにある。同社では障害者と健常者を分け隔てることなく、ごく当たり前に一人の社員として処遇(対応)している。また、生活面も含めて会社と家庭が連携して働き易い職場環境作りや職場定着へ向けての努力がなされている。障害者の雇用を促進しその定着を図っていくためには、本人の努力もさることながら、それを支える周囲の人々や保護者(家庭)の連携協力が不可欠である。 慢性的な構造不況の中で会社の経営は一段と厳しい時代を迎えており、その影響をもろに受けるのが障害者である。障害者の雇用を促進していくためには、公的な支援はもちろんのこと、何よりも企業の意識改革を図ることが先決である。残念ながら現状は大企業になるほど障害者雇用に対しては消極的である。要は企業の規模ではなくモラルや姿勢の問題である。「方向」が決まれば「方法」はいろいろと出てくるものである。雇用率未達成企業の一層の奮起を期待したい。 |

執筆者:福島大学教育学部教授 松崎 博文 |

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