知的障害者の純粋さに学ぶ経営姿勢
2003年度作成
事業所名 | 株式会社ファンケルスマイル (株式会社ファンケルの特例子会社) | |||||||||||||||||||||
所在地 | 神奈川県横浜市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | ダイレクトメールの封入・封緘・発送作業・商品の梱包・出荷作業・コピーサービス・名刺印刷・シュレッター作業・社屋内外の清掃作業 他 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 37名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 27名
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1.事業所の概要
株式会社ファンケルスマイル社は、大船駅(JR)から専用バスでわずかに5分のところにある。当日は浅井社長自らがこちらの質問に答えて頂く形で話を進めた。 |

(1)事業所の理念 |

親会社(株)ファンケルの「人に優しく、安心、安全をモットーに社会問題を解決していこう」という基本理念を実践する。 |

(2)社名の由来 |

社名にある「スマイル」は、「人と人の心を結ぶ原点は言葉を超越した笑顔にある」といった考えを表現したもの。笑顔を通して誰もが成人・社会人としてお互いに心の距離を縮小する、といったねらいも合わせ持っている。 |

(3)設立 |

平成11年4月 特例認定 平成11年5月 |

(4)従業員の構成(平成15年7月現在) |

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2.事業の内容とその将来について
現在の事業内容は上記表に上げたものであるが、彼ら知的障害者従業員の潜在能力の可能性にかける方針であり、近い将来の活動・事業領域には、[1]物流・梱包・出荷といったより高度な技能と管理を必要とする職務や[2]地域貢献としてより広い範囲の街をきれいにする活動などがその視野に入っている。後者の活動には貢献と同時に社外地域の人との交流を図り、彼ら社会性を向上することによって自立への促進もねらいに含まれている。さらに[3]他社からの仕事の請負なども検討され、そのためにもより一層の自主的な技能訓練が必要になるとのことである。 |

3.日常運営で従業員に配慮していること
彼らは当初、働くことに自信を欠いており自己否定の状態であった。それに対して「励まし」の態度、優しい保母さん的態度を持って、しかも彼らの目線の位置までこちらのレベルを下げて接することを心掛けることが大切であった。さらに、決して押し付けや支配的態度を示さないこと、そしてあくまでも一人前の人間として尊敬するマインドをもって接すること、これらを心掛け、日常的に配慮がなされている。 |

4.障害者を社員にもつ事業運営のポイント
彼ら知的障害者の行動特性を理解することや、一般的社会通念のベースからは「なぜ」と思う行動を受け止める柔軟な対応・対処が必要になる。考えられる要因として、当事者で無いと分からない心の中の問題、例えば母親に対する憧れ、母親との絆への切望など、その上に季節の変わり目における体調の変化などが加わるのではないかと想像される。従って、彼らのその様な行動に対する受容的理解と彼らに対しこちらの心を開いた態度を示すことが必要になる。 |

5.「働く」ことへの彼らの意識について
共通して「働く」ことへの強い動機と自覚を持っている。また、仕事を通して自分を見つめる眼を持っている。仕事への態度は、黙々と良くやり、驚くことに彼らの持つ潜在的能力は、想像以上に高いものがあることを「カタログのセット作業の事例」で示された。この事例のケースでの管理者の役割は、仕事の大変さを彼らに訴え、目標を示すことだけであった。彼らはその雰囲気を感知・理解し動機づけられ、その仕事に精魂込めて全力で打ち込むことによって、隠れていた彼らの能力が掘り起こされた。これは彼らの能力開発(自己実現・可能性への挑戦)について、会社側・指導者側に大きな暗示を与えたのではないか。 |

6.会社と従業員の家庭との連絡・コミュニケーション手段について
家庭と会社との連絡は、「連絡ノート」を活用している。その他に年間の慰安・親睦会として、浅井社長の自宅が提供され、花見・忘年会・花火大会などが実行されている。障害者雇用についてサポートを受けている就労援助センターへは適宜業績報告を行っている。またこの親睦会の準備・計画を彼ら自らが担当する中で、ある従業員の潜在能力が顕在化した事例も見られた。これは、成長のためには「機会」を与えることが如何に効果的・重要かということを意味していると考えられる。 |

7.社員の採用について
採用は毎年4月に定期的に行われている。もちろん事業規模の成長(予測)によって、採用人数は年毎に異なるが、今後も事業規模は拡大する計画で、それに従い採用は継続されると考えられる。採用可否のポイントは、一人ひとりを一個の人間と見た上で、当人が働く意欲・目的をどの程度強く持っているかが主要な要件になっており、その人材募集・求人はハローワークを通して行われている。 |

8.職務配置と職務態度について
仕事は誰にでも公平に機会を与える姿勢で行われる。仲間同士は特別な違和感を持たず、新人でもすぐ友達関係になる環境が出来上がっている。彼らの世界では建前で行動することは無く、常に本音同士のつきあい・交流となっている。ある事例では、仲間の不適切な行動に対して、ストレートに指摘をする姿などを見かけることもある。従って時にはぶつかり合うこともあるが、その場面でも個々人を尊重し、解決は彼ら自身で行わせることを基本としている。これは指導者側の姿勢として、彼らを障害者・弱者として意識しないということに基づいている。そうすることによってむしろ指導者サイドが沢山のこと、本音の世界や生き方について彼らから「気づかされ・教えられる」ことになる。 |

9.学習意欲の実践化とOJTについて
職場では改善活動を行っている。例えば不良品に対する原因と改善対策とその実行を自主的に行っている。指導者側としてのねらいは、課題を設定し彼らに「自分で考えさせる」機会を与えることである。また個々人の希望・意欲に応じて、通信教育や英会話教室の参加などの機会も与えている。すばらしい学習意欲の現実化事例としては、二人の従業員がフォークリフト運転の免許を取得した。当初は漢字を読むことさえ困難を極めていた二人だったが、目標志向と学習への意欲が困難を克服したのである。この事例は本人たちに自信を与えただけでなく、周囲の従業員・仲間にも大きな可能性挑戦への動機づけになりました。また指導者側に対しても、彼らの成長への可能性の認識を新たにした出来事であった。もちろんこの成功事例には、指導員の“影に日向にの愛情あふれる大きな支援”があったことも見逃すことは出来ない。 |

10.作業のグループ運営と班長制度
各作業グループの中に班長を置くことによって、納期や出来栄えに責任を持つこと、納入作業を通して他の部署の人と話を交わす・交流の訓練をすることにつながっている。交流に慣れた彼らは、社内で行われている環境保護活動の一つである廃棄物処理活動の範囲を他の部署まで広げるといった発展を実現させた。 勤務時間は午前9時より午後5時半まで。土日は休日となっているが、仕事の都合によって土曜日出勤のこともあり、その時は以後の平日に代休を取得する決まりになっている。初任給は基準法に定められた最低賃金を遵守するベースで決められており、具体的には月額12万円程度となっている。また賞与も年2回と、業績によっては期末賞与も支給した実績もある。 仕事には時期的な変動があり、その調整のしくみとして、近隣の同じ特例認定会社との仕事の相互委託をする協約があります。幸いなことにスマイルでは他社に委託した実績はあるが、他社の委託を受けたことはない。それだけスマイルの事業が順調に成長していることを意味している。 |

11.従業員の心身健康管理について |
日常の健康管理は、従業員の顔色や表情を見て状態を見極めている。しかし、特に心の中は外からは見えないので、その健康状態を知ることは指導者側にとって大変困難なことであり、そこに管理・指導者側の悩みもある。訊ねても「大丈夫です」の言葉が返ってくるとそれ以上は介入できないため、これからは「会話」の機会を増やして、心の理解に努めようと指導者側は考えている。浅井社長ご自身も出来るだけ「社長面談」の機会を設けたいと考えておられ、その際彼らの目つきから心を読むことを心掛けているとのことである。また平凡なことだが、指導者自ら元気の良い明るい「あいさつ」を率先垂範することによって、明るい職場環境づくりを促進している。そして何よりも従業員相互の明るい挨拶の習慣が心身の健康増進に役立つといった風土が職場内に満ち溢れている。 筆者も現場でこの雰囲気を味わわせてもらった。 |

12.筆者感想 |
職場に入ったとたんに、一斉に「こんにちは!」の声がかかった。こちらが元気付けられる思いでその環境に引き込まれる感じがした。浅井社長はじめ管理・指導員の皆さんの障害者に対する温かい愛情が基本となって事業運営が行われているように感じられた。更に、浅井社長の「彼らの純粋性に基づく本音の世界に学んでいます」という謙虚な姿勢もこの職場を支えている大きな要因と感じた。 もう一つは、彼らの成長の可能性を深く信じている心掛けである。これは困難な事業運営の体験から学んだことでもあった。筆者も浅井社長の人間性に触れているだけで、教えられ学ぶ点が沢山あったのに加えて、職場で活き活きと働く彼らから、生きる元気と勇気をもらった。一般健常者の職場でもこうありたいものだ。本当に『ありがとう!』と言わせて頂きたい。 |

執筆者:もと・おふぃす 代表 加藤 元久 |

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