職場定着推進チームで障害者の雇用を支える
2003年度作成
事業所名 | 株式会社ニッセン福井ロジスティクスセンター | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福井県坂井郡 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 総合カタログによる通信販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 500名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 12名
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1.はじめに
筆者は、25年間の障害者の就職に向けて支援してきたが、大きな組織はできるだけ避けていた。理由は、何度かのトライがうまく行かなかったことにある。組織が大きければ、雇用を支える力も大きく、またその種類も多いことが魅力的である。現在のような低成長の中でも、経営的にも安定しているところが多い。ところが、組織が大きければ、障害を取り巻く人間関係も多様で、幅も広くなる。知的障害者の方や、とりわけ精神障害者の方にとって、人間関係のツマズキは、大きなダメージになりやすい。また、大きな組織の中ではサポーターの異動が多く、理解者が配置転換によって変わってしまい、障害者とのサポート関係が崩れやすいということがある。つまり大きな組織で、もれなく障害者の方の理解を求めることは、容易なことではないことを経験したからである。今回レポートした株式会社ニッセンはその点、業界のトップを行く、カタログ販売の企業である。全従業員3501名の中で、社長にいくら理解があっても、隅々まで障害者に対する理解を求めることは、容易ではないはずである。 また福井県金津町の当工場で、最初に知的障害者の雇用をお願いしたとき、説明の段階で無理だと感じた。理由は、パートの方の構成が多いことによる。パートの方は不定期で雇用契約期間が短期の方が多く、前述の理解が一層得にくいからである。ところがその後こうした心配をすることなく、今日まで順調に障害者雇用を展開してこられた。この辺の課題にいかに株式会社ニッセンさんが取り組んで克服してきたのかを、今回レポートで探ってみたい。 |

2.会社の概要
株式会社ニッセンの福井ロジステックセンターは、本社が京都市である。福井工場は、全国に展開された組織の中の、物流センターの一か所である。場所は、福井県と石川県の境である坂井郡金津町に位置する。周辺は山林と田畑に囲まれたのどかな郊外である。 会社の事業内容は、昭和45年から始まった衣類の通信販売に加え、家具など全般にわたったカタログによる通信販売が有名である。(内訳は着物店を含め約120箇所の営業所・コールセンター9箇所・配送センター2箇所等である) 国道8号線を福井市から石川県方面に車を走らせると、北陸高速道路金津インターに接した明るい建物が見える。94,440、00m2の敷地面積に、スケールの大きい作業棟・事務棟等が眺められるが、これが福井ロジステックセンターである。約500人の従業員が全国に向けて、ニッセンの商品の配送を行っている。物流センター内は、コンピューター管理されていて、日々数万個以上の商品が全国に向けて、配送されるとのことである。福井のセンターは93年に開所されたとのことであるが、立地条件のよい場所を選んで、この地に決定したとのことであった。ここでは、最新の物流管理が展開されている。 |

3.取り組みのポイント
障害者の方は、11名がそれぞれの流れ作業の中に溶け込んでいて、職員も特別視しておらず、作業は流れ作業であってもコンピューター管理されているので、比較的同一の繰り返しの作業を行えるようであった。明るい雰囲気の中で、障害者の方は生き生き働いておられた。障害者雇用の最初の1名は、通勤寮よりの知的障害者であったが、養護学校時代から一般企業は無理だろうとのことで、施設生活が続いた女性であった。そうした方が、流れ作業に乗って、黙々としかも明るく働いている姿は、どこに成功のポイントがあったのだろうか。 当たり前のことであるが、低成長の時代にカタログ通販業界も、各社熾烈な競争を繰り広げている。商品検品や納入に誤りがあれば、会社の信用も致命的にならないとも限らない。大変厳しい、しかも確実性を要求される作業であり、知的障害者の方にとっては苦手な分野ばかりではないかと思われる。そうしたことには、適応できる職場探しや工夫をして対処してきたとの返事であった。しかし知的障害者や精神障害者の雇用は厳しい状況にあり、その辺を、今回特に探ってみた。この工場で展開されている、方法の取り組みが広がっていけば、知的障害者などの雇用が、もっと進んでいくのではないかと思うからである。ここでは、どの方も生き生き働いておられた。 |

4.最初の取り組み
最初の取り組みは、ハローワークの紹介による、知的障害者の通勤寮の利用者であった。障害者に特に限定したわけではなく、依頼があってそれなら、と言うことで単純な仕事を探してみて始まった取り組みであった。大きな物流のセンターであり、空の段ボール箱を壊すだけということでも、一日の作業が続けられた。最初が1名だけなく複数で採用したことや、単純な作業から徐々に、流れ作業の詰め込みやその他の作業に展開していたことが、功を奏したようであった。複数で採用したことにより、障害者の方の孤立感を防げたわけである。また単純な作業を導入したことにより、知的障害者が陥りがちな作業工程の最初のつまずきを防ぐことができたとのことである。 新しい環境で作業内容を確実に飲み込むことは、パーソナリティーにもよるが、知的障害者の方の場合、普通より時間がかかる例が多いのである。ニッセンでは、簡単な作業でも職員をつけ丁寧に教え込まれた。この期間は作業内容を教えるというよりは、職場の集団や雰囲気に溶け込ませるアプローチだったかもしれない。そうしたアプローチが少ないと、失敗する例が時にある訳である。 また、幸い生活面のケアーは通勤寮との連携で、陥りやすい金銭管理や生活全般のトラブルを、防ぐことができたとのことであった。その後、1名が本人の希望により退職したものの、障害者に対する雇用にもなれ、現在では、障害者雇用が順調に進んだわけである。 |

5.障害者雇用が進んで
前述したように、カタログ通販業界も、熾烈な競争の中にあり、確実なサービスが絶対的に要求される。そうした中で、障害者の雇用を継続させることは、さまざまな困難を伴うはずである。そうした点を次に探ってみたい。 通勤寮の利用者がうまく定着したこともあり、養護学校卒や在宅の方がハローワークを通したり、直接申し込んでこられるようになってきた。一方、会社のトップの方針として、社会貢献を前向きに考えてきたということで、障害者の雇用が進んでいった。以前より障害者の雇用を支えるチームを作りたいと考えてきたが、昨年から「職場定着推進チーム」を作り、1ヶ月に1回集まりを持つようになった。これは職場の各部署から11名の担当者が(最初は9名だった)集まり、時々の就労の課題について考えるということである。 構成は所属長が3名と、各職場の管理職7名であり、スーパーバイザーとして障害者雇用の窓口でもあるトータルサポートチームの荒谷照夫氏が就いているとのことであった。こうした体制で、障害者の就労の悩みや、躓きを見つけて、話し合いの中で解決し、多数雇用を実現してきたわけである。前述の障害者の明るい雰囲気も、ここに理由があるのであろう。このほか、障害者生活指導員の講習会も毎回受講され、障害者雇用に理解をもったスタッフも10名配置されているということであった。こうした障害に対する知識を持ったスタッフの配置と、職場定着推進チームのスタッフとで、障害者が安心して悩みを相談したりする雰囲気が作られてきたのであろう。組織の大きな企業でも、ここまで組織作りをして理解を進めた職場は少ないのではないか。こうした事例を参考に、多くの職場でこうしたチーム作りとスタッフ配置を考慮してほしいものである。 こうした成功事例から、現在では養護学校の職場実習なども、安心して引き受けられるようになってきたとのことであった。手話なども講習会の希望があるが、現在のところ該当者がいないということや、継続して講師を探すことが難しいと述べておられた。ぜひ取り組んでほしいことである。さらに現場でも受け入れの希望はあるとのことであるが、適当な方がいれば、ぜひ雇用を継続していただきたいものである。最近はジョブコーチ制度により、継続して現場で指導が受けられるので大変助かるとの感想であった。障害者の雇用は、紹介から定着まで大変時間がかかることがあり、さらに一つ一つの過程でいくつもの課題にぶつかることがある。障害者と職場を結びつけることも大切だが、その後の継続定着させることに、さらに困難を伴うわけであるが、ニッセンではジョブコーチ制度が、その切り札となっているようである。 |

6.今後の課題、展望等
ニッセンの障害者の雇用に取り組む説明は、特に障害者雇用を強調することなく、トータルサポートチームの荒谷さんは謙虚に説明された。しかし今回のレポートで現場を回ってみると、実に丁寧に障害者のサポートが行われていた。これだけ大きな組織で、組織的なサポート体制が確立された企業も少ないのではないかと感じられるほどであった。ニッセンのトップの哲学や方針が、当該事業所の責任者にも行き届いている証拠でもあろう。じかに障害者と接している現場の方にご意見を聞いてみたが「彼らと接して仕事をしていると、私たちもエネルギーをもらえるんですよ」「自信がついた彼らを見ていると、私たちも明るくなるんですよ」と述べておられるのが印象的であった。障害者本人も「仕事がうれしい」「仕事をこれからもがんばりたい」と感想を述べておられた。 また雇用を取り巻く制度の中でジョブコーチ制度が終わっても、現場にジョブコーチが来てもらえるのが大変助かりますとか、協会からのアドバイスが助かりますとかのうれしいお褒めもあった。通勤寮や作業所からの福祉関係者も、生活面等ケアをしてくれているようで、助かりますとの現場の方の意見であった。各機関との連携もうまく行っているようである。ためしに通勤寮のスタッフにも聞いてみたが、ニッセンについては、安心して雇用をお願いできるとのことであった。 企業側の要望としては、精神障害者なども雇用しており、雇用率の中にカウントしていただけるとたすかるとのことであった。雇用をお願いする側からの要望を述べれば、慎重なあまり窓口を小さくしないように、お願いしたいところである。衣類など生活用品の通販は季節的なもので雇用の幅が違い、大変だとは思うが、就労希望者の窓口は広げていただけるとありがたい。また公共交通機関の便も悪い地域なので、障害者にとっては少々ネックになっている。送迎のバス等を充実させていただけると大変ありがたいところである。広大な敷地の中には、働く保護者のために企業内保育所が整備されており、母親にとっては大変ありがたい職場である。レポーターも見学させていただいたが、大変充実した保育園でありながら、無認可のために補助金がほとんどないということであった。この辺も少子化に対応した国の応援を求めたいところである。この保育所にも障害者雇用がされており、一層の国の支援を望むところである。保育園の園長さんも、会社の理念をよく理解された、大変障害者雇用を理解された明るい方であった。なにより今回のレポートは、ニッセンの代表取締役片山利雄氏の人間哲学と、経営理念を垣間見た取材であった。 |

執筆者:社会福祉法人至誠福祉会理事長 高尾 誠 |

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