「X線検査」と「茶碗と箸」
2003年度作成
| 事業所名 | 有限会社鈴屋リネンサプライ | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 山梨県韮崎市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | ホテル・旅館等の寝具類総合リース及び一般クリーニング業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 42名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 20名
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1.はじめに
| 会社を訪れたのは、梅雨晴れの強い日差しの日だった。事務所の様子は、何年か前に訪問した折とあまり変わってはいなかったが、誰もいないうえ、何となく慌ただしい気配に一寸戸惑っていたところ、外から戻ってきた鈴木忠正社長の「いやー、すみません。今日は健康診断の日でしてね。いろいろと手配をしていたもので…」鈴木社長のエネルギッシュさも相変わらずだった。 健康診断は、全社員を対象に血圧・視力・聴力・心電図・エコー検査・X線検査・尿・便等の検査で、障害者の健康診断経費は全額会社が負担している。重度の知的障害者の中には、検査者の指示する言葉が理解できない者、そのために検査を嫌がる者もいるので、必ず会社の者が付き添っている。また、採尿・便は現場の責任者が指導しているが、特に困るのは左右が理解できない者のX線検査で、付き添うこともできず、X線技師と話し合って検査の前に、「茶碗を持つ手、箸を持つ手」を確認して、左右の替わりに「茶碗を持つ手、箸を持つ手」で向きを指示してもらうように協力をお願いしているとのこと。 「茶碗と箸」は、障害者と永く深いかかわりの中で個々人を十分理解している鈴木社長ならではの発想と強く印象に残った。 |
2.会社沿革
| 鈴木社長がこの業界に入ったのは、学校卒業後直ちに東京のクリーニング店に就職したときから始まる。仕事を覚え昭和34年に故郷でドライクリーニング店を開いたのが若干19歳のとき、翌年35年にクリーニングの免許を取り本格的に営業活動を行い、開店2年目にして従業員5人を雇用するまでに成長した。リネン部門へ進出したのは、昭和47年で民宿や学校寮の委託クリーニングがきっかけで、その後の八ヶ岳南麓の開発が進むと共に業務も拡大し、昭和60年に有限会社を設立した。 平成2年工場拡張のため移転を検討したが、地域の理解を得られずやむなく現在地での操業に踏み切った。平成4年に将来の景気の落ち込みを予測して、営業の重点をホームクリーニングへ転換を図るため2億5千万を投資して施設を整備し、現在に至っている。 利益率の高いホームクリーニングの売上高は現在1/3であるが、半々までにアップすることを目標としている。 |
3.障害者雇用のきっかけ
| 障害者の雇用は、得意先回りで出会った聴覚障害者の息子さんを、昭和36年に初めて雇用したのがきっかけである。真面目で仕事にも熱心に取り組み15年間勤務したが、残念なことに病気のため退職した。2人目は昭和59年で、同じように知的障害者の施設へクリーニングの回収に行ったとき、仕事を探していた当時20歳になる女子の知的障害者で、最初不安であった行動力も思ったより良く、現在は健常者と同じ仕事ができるレベルまで成長した。その後、リネン部門の拡大に併せ人手不足・採用困難の雇用環境の中で障害者の雇用が増加した。 |
4.高年齢者の人生経験を生かす
| 現在雇用している障害者20人のうち、リネン部門に17人、ホームクリーニング部門に3人を配置している。リネン部門は仕事の流れのなかで作業ができるように配置を考えているが、ホームクリーニング部門は能力と技術が必要になるため誰でも配置するわけにはいかない。 仕事は、業務遂行援助者（6人配置）が中心となって指導しているが、障害者個々を理解することが大切で、個人の特性を話し合い意見交換をしながら指導に当たっている。障害者もそれぞれ個性があって、意見を曲げなかったり反発することもあるが、幸い職場の高年齢者が今までの人生経験を生かしての指導もあって好い雰囲気づくりがなされている。 育て定着させるためには、指導者の力量に加えて職場の仲間のフォローが必要条件と考えている。 |
5.障害者の作業能力
| リネン部門で作業に慣れるのに最低1年、力が発揮できるまでには個人差はあるが、その後2～3年はかかってしまうので、職場を固定した方が作業効率は良いが、今は5年で配置換えをしている。勿論、配置換えによるロスはあるが、リネン部門では一定数の人員を配置しないと仕事が流れないので、その日に応じた融通性のある配置をするためには、2つの仕事を覚えさせることが必要であることと、仕事の慣れによるマイナス面を防ぐことを考えている。 障害者の中には健常者と同じ仕事量をクリアしている者も3人いるが、作業量の平均は、健常者1/5程度なので何とか1/2までに伸ばせないものかと悩み模索している。これは、作業効率のアップによって、一人でも多くの最低賃金を確保したい社長の願いでもある。 |
6.職業生活相談員の選任
| 現在、自宅通勤13人（送迎バス利用）、グループホームからの通勤者3人、寮生活者4人と三様で、それぞれの家庭・グループホームと連携を図りながら、障害者職業生活相談員（11人選任）が中心となり生活指導等をしている。家庭やホームとの連絡内容は、風邪、熱、腹痛など健康上のことが多く、家庭には家庭生活の中で普段と変わったことがあるときには必ず連絡するようお願いしている。また、寮では寮長で常務でもある社長夫人と入寮している4人の健常者の援助も受けながら、朝食（障害者）・夕食（当番制）作り、洗濯・掃除、食材の買い出し、休日のショッピングなどを通じて家庭生活の勉強と楽しさを体験させている。 |
7.おわりに
| 現在勤務している20人のうち、勤続年数10年以上の者が半数を超える定着の良さを示しているが、これには相当の苦労があってのことと想像される。 現在の障害者雇用のすばらしい実績は、社長の経営計画の中で障害者の雇用維持が大きなウエイトを占めていることと、その考えが社員一人一人に伝わり、障害者の雇用が特別なことではなく自然のこととして受け入れられ、全社的取り組みによるものと感じられた。 |
8.その他
| ・昭和63年障害者雇用優良事業所 山梨県知事表彰 ・平成 7年障害者雇用優良事業所 労働大臣表彰 |
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| 執筆者：有賀社労士事務所 社会保険労務士 有賀 武雄 |
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