精神障害者福祉工場を設立・タイアップして障害者雇用を拡大
2003年度作成
事業所名 | 日本ウエストン株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岐阜県羽島郡 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 工業用ウエス等のレンタルおよびリサイクルサービスなど | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 30名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 11名
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1.事業所の概要
本事業所は、子会社「ウエストンサービス」および精神障害者福祉工場「せいすい石谷工場」と緊密に連携をとり、工業用ウエス(雑巾)、タオル、手袋等のレンタルおよびリサイクルサービスを中心に、環境に配慮したさまざまな事業を展開している。本社工場は、岐阜市の南西部郊外の工業団地の一角にあり、美しく整備された環境で、のびのびと働いている。 この業種において、2000年に日本で初めてISO14001を取得した。リサイクルの徹底や廃棄物の減量を推進することにより、環境保全、循環型社会の実現に積極的に取り組んでいる。全従業員に対して、環境保全の方針を理解、実践すること、またノーマライゼーションの精神を遵守し、障害者がともに伸び伸びと働き参画できる制度を築くことができるよう徹底しており、関係取引先にも方針の理解と協力を要請している。 |
2.障害者雇用の経緯・背景
1970年に日本ウエストン株式会社が設立される。その後1983年に、子会社「ウエストンサービス」が設立されたが、その当初、近隣の病院より、精神障害者の社会復帰訓練を目的とした雇用の依頼があり、受け入れたのがきっかけである。以来、家族会等を通じて就職希望者が増え、日本ウエストン株式会社においても、身体障害、知的障害、精神障害のある人々の雇用を行う。1991年より、ハローワークを通じて障害者雇用という位置づけで雇用を拡大していった。さらに多くの障害者の雇用を図るため、2000年より社会福祉法人設立の準備に取りかかり、2001年、本事業所を母体として、社会福祉法人清穂会(せいすいかい)を設立し、2002年より特にまだ雇用が進んでいない精神障害者の働ける場として、全国的にも数が限られている精神障害者福祉工場「せいすい石谷工場」および精神障害者地域生活支援センター「ザールせいすい」を設立、運営している。精神障害者福祉工場は岐阜市石谷にあり、現在29名の障害者が豊かな自然環境の中で、ちり一つ落ちていない、設備の整った環境で働いている。 業務内容は、日本ウエストン株式会社がこれまで外部に発注していた作業(工業用ウエス・手袋の洗濯、折りたたみ、袋詰め、裁断、縫製)をメインに行っている。その他、軍手・モップ・ウエス等のリサイクル(製造・販売)、床コーティングの施工・保守清掃なども手がけている。 |
3.障害者の作業内容とISOの取得効果
障害者はすべてリサイクル作業に従事している。メインは、工業用の手袋やウエス(雑巾)、タオルなどのレンタルで、収益の4分の3を占める。回収したウエスなどを選別し、汚れのひどいもの、破損したものをリサイクルする、洗い終わったウエスなどをきちんと揃えて一定枚数ごとにまとめるなど、単純な作業が多いが、不良品を適切に選別するなど、注意力を働かせる必要もある。その他、名前入りのうちわやコースターなどを一つひとつつくるなど、付加価値のある製品の開発にも積極的に取り組み、障害者の雇用の拡大につなげる努力をしている。 |
回収された商品を、商品別・品質基準等に選別し、洗浄工程でどんな激しい頑固な汚れもきれいに洗浄する。廃水処理については、最新設備により、国家基準の廃水基準をクリアーし、社内基準を厳しく守ることで環境対策について特に留意し処理を行っている。 |
最終検査を行い、顧客の注文にあわせ梱包する。ここで商品の品質基準の選別も合わせて行い、顧客のニーズに合わせ仕上げていく。 |
身体障害者は3名おり、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由の障害がある人がそれぞれ1人ずつである。健常者と同じ待遇を受けており、職場でもリーダー的存在である。現場には健常者も若干名いるが、健常者と障害者を区別せず、一緒に同じ仕事をしている。 ISO14001を取得した目的には、企業体質を改善し、障害者を含めた全社員が、環境教育を通じてのびのびと参画していけるようにすることもあった。まず、「掃除」ということの徹底からやってきた。全社員、受け持ち場所を細かく決め、月曜日は通常より30分早く出勤し、掃除をしてから仕事を始める。また月1回、会社の中はもとより、周囲の道路まで掃除をしている。こうした実践をとおして、障害がある社員も、自分の心を磨き、謙虚になり、いろんなことに気づき、配慮できる人になり、いつしか人に模範を示すことができる魅力的な存在となっている。 |
環境教育勉強会を定期的に開催している。 日本ウエストン・ウエストンサービス・社会福祉法人清穂会のメンバーがそろい一般教育・特定教育・管理者教育を行っている。 |
4.雇用上の配慮
能力的には、最低賃金を支払うのに値しない人もいる。そういった人を多少無理しても雇用するのが障害者雇用のありかたではないだろうか。障害があっても普通に働ける人は、健常者と同じと見なすべきである。 単純作業とはいえ、責任を持った仕事ができるよう、きめ細かな指導をしている。特に、知的障害者は、繰り返し説明して理解させる必要があることが多く、相当の根気がいるが、言えば分かってくれる。ゆっくりでも、きちんと言われた仕事ができることを目指している。 精神障害者は、波があり、調子が悪くなると能率が落ち、休みがちになる人もいる。生活支援センターのスタッフ(精神保健福祉士)が定期的に訪れ、調子が悪い人の生活相談等を行っている。家族などの人間関係の悪化が原因であることもあり、家族の協力も不可欠である。 年に一回、家族、関連会社の関係者などを集めて感謝祭を行う。また、年1回、福祉工場と合同でフェスティバル(運動会)を行い、家族とのつながりを緊密に保つように努めている。福祉工場でも、家族会が定期的に開かれ、親が集まり、相談や情報交換を行い、交流、研修を行っている。家族に、施設での方針や活動を報告し、家庭でも協力してほしいと要請している。 |
5.福祉工場とのタイアップと地域のネットワーク
福祉工場を立ち上げた目的には、段階を踏んで、職場に適応する力を身につける機会を提供することもある。まず社会性を身につけること、信頼される人になることを基本にしている。また、自分が事業主だったら何がしたいかなど夢を語りあって、実現させていくという取り組みをしている。このようにして、どこにでも通用するような魅力的な人材を育てることを目標としており、現在4,5人はすぐにでも正式就労できる人がおり、リーダー的な役割を担っている。 地域のネットワークづくりにも積極的に関与している。日本ウエストンでは、事業主の私的な集まりをとおして、障害者雇用の意義を広め、付加価値のある独自の商品の販売ルートを拡大している。また、地域の障害者雇用事業所のネットワークづくりを促進しており、定期的に会合を開き、加盟してくれる事業所を徐々に増やしている。また、海外の事業所との交流をとおして職員の研修などの機会を広げるなどの実践をしている。 福祉工場とタイアップして、さまざまな付加価値のある商品を開発し、障害者の雇用を拡大していく。福祉工場では、一人ひとりの創意工夫を活かし、独自の事業をつくっていくことを目指している。人がやりたがらない、あまりいい商売にならないことを、進んで商機に結びつけていく。単純作業や手間ひまのかかるもので、大量につくれないものを提供することを考えている。 |
6.調査者のコメント
従業員は、社会適応訓練の者も含めると、全体の半分が障害者である。福祉工場も含めると、40名の雇用を実現している。また、病院から受け入れた社会適応訓練の数はのべ80名にもなるという。このように熱心に障害者雇用に取り組んでこられた会長をはじめ関係者の熱意や努力、そして豊富な経験から障害者の意欲を引き出し商機に結びつけてきた経営手腕は、高く評価すべきであると思う。 この事業所では、福祉工場との有機的な連携ができており、その中で、雇用そのものだけでなく障害者・その家族の生活支援から、地域のネットワークづくりまで、福祉のトータルな実践がなされている、という所に着目したい。特に、事業所の関係者を巻き込んで研修会などの会合を開き、全国の事業所・施設とも連携をとり、事業開拓にむけての情報交換を行っていることは、まだ萌芽的な段階かもしれないが、障害者雇用のあり方を変えていく大きな流れにつながる実践であるといえる。これを一つのモデルケースとして、幅広い雇用促進が他の地域や分野でも活かされることを願うものである。 |
執筆者:中部学院大学短期大学部 稲垣 貴彦 |
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