障害を持つ従業員とともに働く～生活面を含めた育成と家庭・生活の場との連携～
2003年度作成
| 事業所名 | 豊昌アパレル株式会社 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 三重県上野市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 繊維加工業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 27名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 8名
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1.当初は職場ではなく育成の場
| 当事業所が障害を持つ方を雇用するようになったきっかけは、平成に入って間もなく当時の会長が元々教師で、そのつてで紹介された一人を採用したことであった。その後、障害者福祉施設や養護学校等から実習などの受け入れ依頼が来るようになり、最大十数名の障害を持つ方々を雇用するまでになった。しかしながら経済情勢の変動等による取り扱い製品の転換が激しく、これに伴う作業内容の変換や、その他さまざまな事情により、現在の障害者雇用は8名となっている。 1日の勤務の流れとしては朝9時に出社し、12時から50分の昼休みをはさんで、17時までの勤務となっている。昼からも10分間の休憩はありますが、1日の総時間数としては7時間の勤務となる。 これまでに様々なことを経験してきている。知的障害者のうち何人かが、他の従業員にトイレに立つことを伝えることができずに、勤務中に失禁をしてしまったり、朝出社して来ないのを迎えに行ったり、裁断前の布を切り刻んでしまったりと、色々なことがあった。 こうしたことに対して現場の従業員はもちろん、全社員が一丸となって根気よく対応をしてきた。これに応えるかのように彼等は3箇月から4箇月もすると、入社当初から比較をすると格段に伸びていくということが見られた。なんと言っても、彼等たち全員の目つきが変わってくる。今では学校関係者など色々な方が見学にこられるそうだが、健常者の従業員のほうが障害者と間違われることもあるぐらいになっている。 また、職員旅行などには必ず一緒に行き、全員で過ごしている。職員が様々な局面で彼等に必要なアドバイスなどをして、円滑に旅行をすることが出来ていた。 当初は服装にあまり気を使っていなかった彼等も、次第に服装に気を使うようになり、化粧などもするように変化してきた。その他にも昔は、会長が休みに彼等を連れて奈良や京都などによく出かけていた。これらのことから、仕事以外での楽しみが雇用の継続につながったことが考えられる。 |
2.家族との関係は大切
| 会社設立当初から、家族との連絡などは頻繁に行っている。当初は職場だけではなく、雇用する彼等の家庭環境を知っておいたほうが良いだろうということで、副社長と専務とで家庭訪問を実施した。もちろん来て欲しくないという家庭には訪問していないが、家庭を訪問することでその人を何となく理解でき、彼等の個性や特徴を理解する上で、非常に良いことであったと考えている。 その他に個人別の懇談を年に1回実施し、本人の状況や困っていることなどを聴き取るようにしている。これは普段から話しやすい環境を作っているつもりなのだが、ゆっくりと時間をとることで、少しでも多く話をしてもらおうと考えて実施している。 これはもちろん全従業員を対象として実施しているものの一つで、彼等を特別扱いしているわけではないが、職場定着という意味ではどの従業員にも有効なものだと考えている。また、彼等の家族を呼んで現状を報告し、彼等が抱えている課題で、家庭で解決できるものについては、家庭で努力するようにお願いをしている。 |
3.従業員の障害に対する理解
| 創業以来、雇用する従業員には常に『自分自身や自分の家族のことを考えなさい。明日もし、自分が、自分の家族が障害を持つ身になったら』ということや、『人にはそれぞれ能力の差や育った環境の違いがある』『違っていて当然』ということを話している。 新規で雇用する場合には、障害を持つ彼等に対する理解を持つことが出来る人を採用するようにしている。それらを徹底することによって『障害者とともにする会社』という企業マインドの向上を図っている。 勤務では彼等2人につき、1人の作業指導者がついている。もちろんずっとつきっきりで指導しているわけではないが、機械の取り扱いや、新しい商品の説明（作業工程の説明）、仕事の流れなどをそれぞれに対してその都度指導をしている。 知的障害者の特徴の一つではあるが、指導したことを理解し、習得するまでに長い時間がかかったり、思うように技能が伸びないことが多いが、根気よく続けることで次第に、ミシン掛けも、部分部分では縫えるようになっている。 |
4.一つの商品を仕上げることが出来る
| 知的障害者の従事している作業は主にミシン掛けで、キャラクター商品等を縫製している。縫い終わると裏返しなので、表に返して仕上げをするのですが、その表返しだけをする人たちもいる。一人で完全な商品を作り上げることは難しいが、全員が集まれば一つの商品を作り上げることが可能なまでになっており、又そのことが彼等のやる気、達成感を持たせることにも繋がっている。 |
5.雇用を継続するために
| 雇用を継続するために、障害者職業生活相談員を配置している。主な業務としては家族や福祉施設、養護学校との連絡・調整、家族に対する指導などをしている。 一人で電車を使って通勤している方に対しては、本人に見えないところで見守っている。また他の従業員との調和を保つために、日常生活上の礼儀やルール等を指導したり、休み時間の過ごし方等を指導しています。 これらの努力も実らず退職する方もいるが、生活面での人間関係の悪化等により本人自身のやる気が低下した、病気が悪化した、他傷行為が治まらないなどのやむを得ない事由となっている。 従事作業については最初何度か実際に行ってみて、出来そうかどうかを見る。その後、合わない様であれば別の作業につけてみるという模索をしている。ただ、現在では障害の程度が比較的軽度の方が縫製、重度の方が生地を返す作業といったパターンができかけており、一度、作業が出来るようになれば、あまり移動させることは良くないと考え、固定をするようにしている。 一つの作業をある程度出来るようになるのに、長い時間がかかるが、それが出来るようになった時に本人の自信につながり、より生き生きと仕事が出来るようになるので、長い目で見ることが必要と考えている。 |
6.連携の必要性
| これまでに知的障害者福祉施設から何人かの方を雇用したが、生活の場と働く場とで連携が必要であるということを考えている。生活の場でのストレスが、職場でのストレスとなり、最悪の場合には退職につながることがあるからである。 家庭から通勤している場合と施設やグループホームから通勤している場合では、対応が異なるのですが、彼等の生活の場で彼等を支える家族や施設職員などと緊密に連絡をとり、状況を常に把握していれば、突然に退職するといったことを防げると考えている。 養護学校や障害者福祉施設との連携は、現在のところあまりないが、家族との連携は常に取っており、会社に出向いてもらうこともあれば、電話で話をすることもある。何か本人に変わったことがあれば確認や連絡をするようにしている。また家庭においては可能な限り家事に従事するようにお願いしているが、それによって筋力を使い、体力を増強することにつながると考えるからである。 |
7.まとめにかえて
| 障害を持っていても、持っていなくても一人の人間であることには変わりがなく、可能なことは家庭であっても、社会（企業）であっても実施するべきと思われる。 たとえ時間がかかっても、その人が一つのことを成し遂げた時（出来るようになった時）にみせる生き生きとした表情は何物にも変え難いものがある。 人の可能性を信じてこれからも障害者雇用を継続し、可能な限り拡大をしていきたいと考えている。 |
| 執筆者：仏教大学大学院 博士後期課程 社会学研究科 社会学・社会福祉学専攻 大原学園 大原医療秘書福祉専門学校 梅田校 介護福祉学科 専任教員 尾崎 剛志 |
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