知的障害者・聴覚障害者等が普通に働いている職場を目指し、特別な配慮が目につかない自然体の企業
2003年度作成
事業所名 | 株式会社三昌製作所 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 京都府京都市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 電子精密用金属部品・個別半導体部品の金型製作・プレス打抜き 加工・レジスト印刷加工及びこれらに伴う付帯事業 (業種 電子部品製造業) | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 62名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
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1.事業所の概要
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2.取り組みの経緯、背景
(1)障害者雇用の経緯 |

先代社長が、経済団体の会合に出席の際「障害者の雇用を積極的に・・・」との説明を聞き、「障害者の雇用も・・・」との漠然とした認識が芽生えていた。 最初は向日丘養護学校から1名採用し、翌年さらに1名採用したのが契機となった。 |

(2)知的障害者の受け入れ |

その後、求人難の時代に職安に求人票を出したところ、担当官から「プレス加工」は希望者がない、また地域的にも交通手段が不便で求職者が少なく紹介しにくい」など聞かされ、要員の確保が困難なことを認識した。 その頃、京都障害者職業相談室から養護学校卒業生の採用について勧めがあり、「仕事が出来る人であれば」との考えで、事前に職場実習を実施し、その結果について、学校と職業相談室を交えて話し合い、生徒の仕事ぶりや勤務態度についてお互いが確認の上採用に踏み切った。 |

(3)聴覚障害者の受け入れ |

平成12年頃、半導体の受注の急増により現場の人手不足が窮迫した時期にやはり「相談室」から聴覚障害者を紹介され、仕事も出来るので採用した。しばらくして、その仲間2人(共に聴覚障害者)を連れて来て当社で働かせてほしいとの申し入れがあった。集団での採用には危惧もあったが、プレス業務等の経験や仕事についての理解もあるので採用に踏み切った。その後、聾学校卒業生などを引き続いて採用している。 参考・・・当社の仕事は、電子部品のプレス加工、その検査、洗浄等の手作業が多く、普通程度の手先や指先の器用さとやる気があれば十分に就業してもらえると判断した。また、取り扱う製品が細かく多種・多様であり、製品によって作業工程なども分割・統合が容易な面があることから、それぞれの障害者に適合できる作業を見つけ出すことが比較的容易であると判断している。 |

(4)身体障害者(上肢・下肢機能障害)の継続雇用 |

以上のように、当社が多数の障害者を雇用することとなった経緯は、特に障害者を積極的に雇用しようとする会社の方針を樹て、障害者の職場適応に特別の配慮を積み重ねての結果ではない。会社としては、求人難時代を認識し、応募者に障害があるかないかに係わらず「与えられた(求人職務)仕事を理解し、その仕事がやれるかどうか」を採否の判断としており、最初の障害者の職場への適応がうまくいったことが、障害者の友人や養護学校などからの当社に対する信頼が生まれ、いつの間にか障害者の多数雇用事業所となっていたと言うのが実感か。 |

3.障害者雇用の取り組みの内容
(1) 普通の対応とは 職場を見学して「障害のある人が、違和感なしに職場の中で健常者と普通に働いている」と言った感想の職場。社長や総務部長との面談中にもしばしば繰り返される言葉は「私共は障害者として特別な配慮はしていません。普通に対応しているだけですよ」の言葉。こちらからの問に、戸惑いを感じておられる様子。 現在、障害者が配置されている仕事は、定型的手作業でどちらかと言えば数をこなさなければならない単純な反復作業。職場の中で仕事をしながら周囲の従業員とのコミュニケ-ションに気を配り、対話が必要な仕事ではなく、コツコツと根気よく取り組んでもらうには「聴覚障害者」や「知的障害者」の特性に適応した仕事であるとも言える。しかし、反面、単純な反復作業の継続は、飽きを生み、やる気をなくすることにつながることを考えると職場への適応は容易ではない。この社では、社長や総務部長が職場を巡回する際に、障害者に対し、何げなく、気楽に、声をかけ励ましておられることが障害者の励みとなっているのではないかと思われる。 (2) 指示・コミュニケーション上の配慮 職場に「聴覚障害者」や「知的障害者」が多いことは、会社の方針や職場での指示の伝達、職場でのコミュニケ-ションに特別な配慮や取組みが必要である。 現在、行われていることとしては、 |

[1] お知らせ(社内通知) 階段踊り場に壁新聞的なイラスト入りの楽しく読む(見る)ことができる「お知らせ」が工夫して作られている。 | ![]() 階段 踊り場の「社内案内」 |

[2] 昼 礼 週2回 昼の時間に社の方針、伝達事項、注意事項など安全衛生や環境改善等に関することを全員(知的障害者を含めて)対象に行っている。この昼礼には手話のできる従業員が手話通訳をしている。以前は朝礼(出勤時)であったが短時間労働者(障害者も在籍)等出席できなかったため。 | ![]() 昼礼風景 手話つきの昼礼実施風景 |

[3] ホワイトボードの活用 聴覚障害者の仕事場(職場)には全員「ホワイトボ-ド」を設置している。現在では使われていることは少なくなりつつあるが、周囲の従業員との連絡や上司からの指示などに使われている。 | ![]() プレス現場 「聴覚障害者」の作業風景 |

[4] 洗浄現場の「溶剤取扱規定」の掲示 聴覚障害者や知的障害者が働いてる洗浄職場には、作業上注意しなければならない「溶剤取扱規定」を大きく書き出し目につき易いところに掲示している。全員に注意喚起するため。このような措置は、障害者に対する配慮でもあるが、従業員全員への職場のコミュニケ-ションを高めることに、また、安全衛生や環境改善への取組みにも大きな効果を生んでいる。 |

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洗浄現場「知的障害者」の作業風景とバックに「溶剤取扱規定」の掲示 |

(3) やれる仕事に配置、やる気を引き出す 「仕事がやれるかどうか」を見極めて採用すると同時に、仕事の評価は厳格に、その成果は客観的に公正に評価し、処遇しているため、賃金の個人差は大きい。ある知的障害者は、採用時の予定の職務をやりこなせないため、職場の中から幾つかの職務を経験させたがどの仕事も難しく「次の仕事が駄目なら採用は諦めてほしい」と京都障害者職業相談室の担当者とも相談した上で、彼女向きの仕事を見つけ出し、最後の仕事としてやらせたところ、何とかその仕事は適応できるとの見込みが立ち、採用を決定し、現在は何とか定着している。 障害者への指導は、仕事の厳しさを日常的に教え、同時に、やり甲斐が持てるように仕事の指示・指導や注意をするよう現場の上司を指導している。自信を持たせ、やる気を引き出す「仕事の厳しさ」を理解させることを方針としている。 知的障害者からも積極的に提案制度への応募もあり、ある知的障害者は「溶剤取扱主任者試験」に合格し、洗浄作業責任者に昇進した。また、「取扱規定」を職場に掲示するなど従業員向きに積極的に注意喚起を行っている。 社長の言葉「仕事への姿勢は、甘えることは許さず、障害者にも厳しく接する方針です」。 | ![]() 検査現場 「知的障害者」の作業風景 |

(4) 定着 多数採用した障害者がその後ほぼ定着し、離職者も少なく、それぞれの離職者の離職理由等もはっきりし、本人の将来への展望を持った退職となっている。 聴覚障害者の1人は、定年退職。精神障害者は、当社在職中に自らの進路を見いだし資格を取得するために専門学校に進学したいと退職したが、概して定着率はよいと判断できる。 (5) 配慮に対する考え方 社長や総務部長は、障害者雇用に特別の配慮はしていないと表現されるが、前述のとおり、それぞれにきめ細かく配慮が行き届いているとも言える。 股関節障害の女性は、職場内の行動には殆ど障害が影響することはないが、手術後、トイレに不便を感じていることが判り、急遽、トイレを改造するなど障害者が働くのに支障があれば、それを除去するきめ細かな配慮も実施されている。 障害者への配慮は、社長から見れば「障害者に対する特別の配慮ではなく、当社で働く人達すべてに対する人事管理上の配慮」であって、そのことが障害者に対する必要な配慮と言えるのかもしれない。 |

4.今後の課題・展望等
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執筆者:労務管理サービス牧岡事務所 社会保険労務士 牧岡 健治 |

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