13人のカウボーイとともに
2003年度作成
事業所名 | 植村牧場株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 奈良県奈良市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 酪農 牛乳処理販売(乳牛の飼育、搾乳、瓶詰め、自家ブランドによる販売) | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 20名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 13名
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1.採用の経緯
酪農の仕事と言えば、早朝から夜遅くまでの休みの少ない、いわゆる3Kの仕事のひとつである。当牧場も例外ではなく、家族と数人の従業員で賄っていたが、重労働ゆえの人手不足から、一般求人を地元の職業安定所に提出し紹介を待った。数ヵ月後安定所から知的障害者の雇用を勧められたが、私共の認識が低く、知的障害の方とはどれくらいの能力なのか、どれくらいの仕事なら出来るのか、全く無知であったために最初はお断りした。 しかし担当者の熱心な勧めもあり、養護学校卒業の青年を雇用することにした。数年間は試行錯誤の連続で何回も根気よく同じ仕事を教えた。その間、何度も引き取って頂こうと思いましたが、時間をかければ何とかひとつのことは出来ることがわかり採用するに至った。 その後、毎年安定所や養護学校の先生方の勧めもあり、数名の実習を受け入れた後、その中から動物が好きで、体力的にも丈夫な青年を選んで雇用することになった。現在、13名の障害者の方が牛と共に生活し、日夜汗を流して元気に働いてくれている。今では、健常者に劣ることのない作業ぶりで、当牧場にとっては無くてはならない存在の「カウボーイ」となっている。 |

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2.職場への配置・定着
牧場の仕事は、大きく三つに分けられる。 一つは、本来の酪農の仕事で、牛の飼育、搾乳、つまり餌をやったり排泄物の処理や乳搾りをする仕事である。 二つ目は牛乳の処理で、搾られた牛乳を殺菌し瓶詰めにする作業である。牛乳瓶を洗浄したり、製品になった牛乳を箱に入れ冷蔵庫に入れる作業になる。 三つ目は、その製品を各店や家庭に配達する作業で、運転者の横に乗り助手的な役割を果たすことである。 この三つの作業を、順番に数ヶ月かけてすべて体験してもらう。その間は一人がつきっきりで教え一緒に仕事をする。だいたい覚えると、次は黙って横にいて仕事ぶりを見る。その後一度任せてやらせてみる。そしてどの仕事が一番向いているかをみきわめ、一番適当だと思われる作業を中心的にしてもらう。最初はなかなかわかりにくいものだが、繰り返し、繰り返しやってもらっていると、一番適した、本人にとっても好きな仕事が必ず見つかるものである。 そして、その仕事が完璧に出来るようになると必ず誉めてやり、責任感を持たすようにしていく。酪農の仕事は、繰り返しの中で身体で覚えてもらうしかないので、根気がいるかもしれないが、経験から必ず出来るようになると確信している。 彼らが職場に定着するためには、仕事ばかりでもいけないと思う。休憩時間には皆一緒におやつを食べながらいろんなことを話し合うようにしている。そのおやつも、遊び感覚で、じゃんけんをして勝った者から順番に取っていったり、負けた者があとかたづけをしたりと、けっこう楽しみながら休憩をしている。また一ヶ月に一回は音楽療法を取り入れ、楽器をひいたり、歌をうたったり、ゲームをしたりして皆で交流をしている。彼らはとても音楽が好きで、こういうことを取り入れることにより仕事に意欲と楽しみが出てきていると思っている。 |

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3.作業工程の改善
酪農業において、乳牛の排泄物処理は大きな悩みの種である。特に住宅地の中で営業する私たちのような所ではなおさらのことである。これまでは、毎日朝夕2回スコップで集め、一輪車に積み敷地内の空き地に野積みにしていたため悪臭が立ちこめ近隣からの苦情もあるが、どうしようもなかった。晴れた日はともかく、雨の日はぬかるみのプール状態となり、一輪車で運ぶ作業は健常者にとっても大変であり、まして障害者にとっては、危険すらともなう作業だった。そこで、無用の長物的存在の牛糞の肥料化、作業の簡易・安全化を図るため、いろんな方々の意見を聞き研究を重ねた結果、牛糞処理設備の導入に至った。 この施設は、雨露を防ぐビニールハウスと、レールの上を走行し自動で牛糞を順次前方へ送る攪拌・運搬装置とからなり、天日と通風により約一週間で自然乾燥させる設備である。一輪車に積み込んだ牛糞を所定の場所に置けば、この装置が攪拌しながら前方に送り、約一週間で自然乾燥する。これまでと違い、雨の時もすべることもなく作業もずっと簡単になり、安全面でも格段の向上となった。また乾燥後はほとんど無臭の油粕状となり、最近の社会の流れ(化学肥料から有機肥料へ)とも合致し、商品価値の高い良質の有機肥料となった。乾燥後の牛糞を軽トラックに積込むのも彼らの作業の一つである。積込み作業中にこの装置が身体にあたる危険性もあり、知的障害者にとっても安全であるように、所定の位置にくればベルが鳴り停止し、その位置から逆方向へ戻る構造とした。これによって作業に専念し効率の向上を図った。また近隣の農家との交流が深まり、障害者への理解が今まで以上に深まり大変よかったと思っている。 |

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4.雇用管理上の留意点など
酪農や農業という一次産業では、早朝より夜遅くまでと拘束時間は長くなるので、昼間に4時間余りは昼寝や自由時間を与えている。また住み込みであるため交替で休みを取り、自宅へ帰ってもらうようにしている。お盆やお正月にも交替で数日休みを取るよう心がけている。 賃金は能力に応じて支払っているが、特に作業能力が低い場合は労働基準局に最低賃金適用除外申請を出している。また、大変良く頑張ったり言われたことをきっちり出来るようになれば、その都度、ご褒美を出して励みにしている。 本人が、牛の世話がいやでなくて、皆と一緒に仕事をしようという意欲のある場合、また、家族が、どんな仕事であっても働かせようと思っておられる間は当牧場で働いていただこうと思っている。特に定年等は決めていないが、肉体労働であるため身体が健康であることが何よりも大切なこととなる。 また、住み込みであるため、食事のバランスには十分気をつけて規則正しい生活をするよう心がけている。一ヶ月に一度は、近くの医者に健康診断をしてもらっている。歯医者にも定期的にみてもらい、歯みがきをきっちりするよう指導している。また、薬は全て牧場の方で管理し、必要に応じた分だけその都度渡すようにしている。 週に一度は、皆で部屋を含めた各場所の大掃除をしている。布団を干したりロッカーを片付けたりと自分の身の回りの整理・整頓が出来るようたえず指導している。各部屋にはインターホンをつけ、いつでも我々と話が出来る状態にしており、また仕事中は、指導員がいつもそばについて指導するよう心がけている。 |

5.おわりに
障害者を雇用するにあたっては、本人はもちろんのこと、家族の協力なしではやってはいけない。障害があるなしにかかわらずやはり仕事というのは厳しいものだということを絶えず認識させなくてはならない。厳しいかもしれないが、当牧場では少々の風邪や身体がしんどい位では休ませないようにしている。自分のしなくていけない仕事はどんな事があってもやってしまってから休むという習慣を教え込んでいる。ただ、いつも身体の状態だけは気をつけて見ておりその時々の対応に当たっている。最近では皆とても丈夫になり、風邪ひとつひかなくなった。毎日一緒に寝食を共にしていると、本当に具合の悪い時とそうでない時はすぐにわかるものである。 彼らを雇用して20年、本当にいろいろなことがあった。また多くの方々から、彼らの老後はどうするのかと、よく聞かれる。そのたびに、私は、明日のことも考えていないのにそんな先のことなんか考えたこともない、ただ今日一日、彼らと共に無事に過ごせたらいいのだと答えてきた。でも最近では、そうも言っておれない状態になってきた。というのも彼らの老化が予想外に早く進んでいるからである。今まで身体で覚えていたことがどんどん出来なくなり、言っていることすら理解できにくくなってきている。障害がなくても老後の問題は日本の社会全体の課題であるということは言うまでもないが、特に知的障害者にとってはより深刻な問題だとひしひしと感じている今日この頃である。 これまで20年間、雇用の場を提供してきた。これからも、我が牧場のカウボウーイ達が働ける限り、働きたいと望む限り、これを続けていきたいと思っている。しかし彼らが歳をとり働けないようになり再び福祉の場に帰った時、安心して生活できる社会システムが一日も早く確立されることを望んでやまない。 |

執筆者:代表者 黒瀬 礼子 |

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