仕事は、得意を生かし責任感を持って
2003年度作成
事業所名 | 松尾電気株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 広島県賀茂郡 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 自動車部分品・付属品製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 34名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 11名
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1.事業所の概要
事業内容は、自動車のランプ(フロントランプ、テールランプ等)の組み付け製造が主要業務で、生産量は月産12~14万個。マツダ車用が7割、三菱自動車用が3割で、全品スタンレー電気株式会社広島工場に納品されている。 雇用している障害者は、全員重度の知的障害者である。 障害者雇用優良事業所として、昭和63年に広島県雇用開発協会会長、平成4年に広島県知事、平成7年に労働大臣から表彰を受けている。 従業員の「和」と働くことの「感謝」の気持ちを大切にして、地域・社会に貢献するということを基本理念に、障害者雇用に取り組んでいる。 |

2.取り組みの経緯
昭和56年ごろから、町内にある知的障害者授産施設大和農園からの職場実習生の受入れに協力するようになった。 実習を通じて、その人なりに働いてもらえる部署があることを実感し、昭和58年に、知的障害者通勤寮「みどり寮」の開設を契機に、同寮からの通勤生1名の雇用を開始する。 以降、漸次雇用者を増加させていったが、就労を支える生活面の安定については、同通勤寮と密接に連携をとりながら推進した。 平成5年、スタンレー電気株式会社の特例子会社となることにより、障害者雇用の位置づけが安定化された。 平成6年、会社隣接地に障害者用の社員寮「松和寮」(定員12名)が、日本障害者雇用促進協会からの助成金等により完成した。 個室、食堂、娯楽室等全室冷暖房完備の同寮に、それまで通勤寮から通勤していた12名が移転し、新たな生活基盤の下、より安定した職業生活を営むことができるようになった。 こうした中、平成9年には、勤続14年の男子社員が、仕事の真面目さ・正確さに加え、私生活面でも寮長として入寮者のまとめ役をこなすなど、その模範的な働きぶりが認められて、優秀勤労障害者として、労働大臣表彰を受賞した。 現在、11名の知的障害者が安定した職業生活を送っている。 |

3.作業教育
障害者の平均勤続年数が15年と、それなりの作業経験を有しているとはいえ、多品種・少ロットの流れの中で、作業内容がどんどん変わっていくために、新しい作業手順をマスターさせるのに苦労するとのこと。 |

機械・治具等の改良・工夫とともに、部長さんや現場スタッフの方が心掛けておられることは、「根気よく実際にやって、手本を見せ、繰り返しやらせてみる。」に尽きるようである。 手順や流れが変わったときには、本人が理解してできるようになるまで、部長さんや、時には社長さんまでもが手本を示したり、付き添ったりしている。 | ![]() ドリル配置の工夫 |

4.得意分野を見極めての配置
障害を持った人に、真剣に付き添っていると、その人の得手・不得手、得意の分野が自ずから分かってくる。それを見極めて、得意の分野が生かせるように、仕事の割り振りや配置を考えている。 「得意の分野で仕事をしてもらえば、通常の仕事で障害は問題になりません。」との社長さんの弁である。 | ![]() 締付トルク判定センサー付きの 組付け機械 |

5.機械・治具等の工夫
個々の場所で細かい部品の組付けをしながら、職場全体が大きなラインを形成して、仕事が流れている。 それぞれの部署で、的確に仕事ができるように、ドリルは目の高さに吊り下げて、動きの幅を小さくして扱いやすいように配置等を工夫したり、機械にセンサーを取り付けて、加工する位置が正しいかどうかなどのチェックができるようにしてある。 特に、数を確認する必要があるところでは、はめ込んでいけば自動的に一定の数になるような治具が工夫されていて、計数が苦手な人でも確実に作業ができるようにしてある。 現在は、車いす利用者はいないが、通路等充分な広さと平坦さが確保されており、明るくシンプルでゆったりとした職場環境となっている。 |

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6.責任を持った仕事を
それぞれのパーツがきちんと組み合わさって一つの製品が完成する。一部署の不良は、全体の不具合に直結するわけで、障害は言い訳にならない。 付き添ったり、機器の改良、工程の見直しなどで応援はするが、いつもは正確にできるのに、ちょっとした気の緩みでミスが生じたときなどは、厳しく注意もされる。 特に、知的な障害を持った方は、生活の乱れが仕事にも影響することが多々あり、生活の安定に配慮しつつも、いいかげんな気持ちや怠惰な生活態度などで仕事上の迷惑をかけたときは、たとえ、仕事が忙しい時期であっても、また、期待している人であっても、配置転換や、一定期間の謹慎を命じることもある。 これも、日頃から培われた信頼関係があってこその愛の鞭でもある。 よくがんばったときには、誉めて自信を持たせることも重要なことであるが、ときには、厳しいようでも、公正にこうした対処をされることが、全体として、責任感のある職業人としての意識を高め、雇用の継続にもつながっているようである。 |

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7.余暇と生活の安定
仕事には厳しさを求められる一方、休憩時間には工場長さんなども気軽に声をかけておられ、年に何回かは、焼肉パーティーや宝探し大会などの、社員全員参加の社内レクを開催されるなど、社内融和に努めておられる。 月一回、全員で食事をしながら、進行役は当番制で、全員が何にか一言ずつ発言するというような行事も実施しておられる。 |

仕事に対する感想や、困っていること、嬉しかったこと、会社への要望など、障害者も自由に好きなことを言っているが、会社内のコミュニケーションに大いに役立っている。 また、障害を持った従業員の多くは、社員寮で生活しているので、食事や健康管理等の日常的なことはもちろん、自治会活動の助言や、長期休暇中の旅行の計画に至るまで、職場定着推進チームの枠を越えて、会長・社長さんを含め、社員全体で相談に乗り応援している。 それに併せて、町内にある障害者就業・生活支援センターや通勤寮とも連携して、的確な支援に努めておられる。 乗馬歴27年で、国体出場経験もある松尾社長の発案で、平成7年から乗馬セラピーにも取り組んでいる。サラブレッド1頭、ポニー3頭の飼育には、社員寮の人たちが多く関わっている。動物の世話をすることにより、仲間との協調性や、豊かな気持ちの醸成に役立っており、来訪される人たちとの触れ合いなどで、多くのメリットが生じているようである。 | ![]() 社員寮外観 |

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8.今後の課題
社長さんの温かく豊かな人間性に加えて、雇用開発協会が開催する職業生活相談員の認定講習を自らも受講されるなど、熱心な指導の下に、障害を持たれた方々の安定した雇用の継続が図られてはいるが、50歳代の人も何人かおられ、高齢化が課題となりつつある。 雇用状況が厳しい中でも、実習生を積極的に受け入れるなどの取り組みはされているが、一定の経験を積んだ人との交替は、なかなか難しいものがあるようである。社員寮等、生活面も含めた取り組みをされているだけに、職を離れた後の生活にも気を遣っておられる。現に1名は、社員寮の空き室に住まわせ、馬の世話や、会社内の清掃、片付けなど緩やかな就労の場を提供して、定年後の当面の日中活動と生活の場を、会社として確保されている。 いずれにせよ、会社だけでの取り組みには厳しいものがあるので、支援センターや福祉施設、関係機関との連携と協力が求められている。 |

9.まとめ
支援センターや通勤寮との関わりはかなり以前からあり、障害を持つ人も持たない人も、同じ職場の一員との意識が醸成されている。 特に、平成5年の特例子会社化、平成6年の障害者用社員寮の設置などは、障害者雇用に積極的に取り組まれた結果とはいえ、その先見性に大いに敬意を表したい。 現在は安定して働き、充分な戦力になっている人も、過去には、時として長期間無断で休んだりするようなこともあり、辛抱強く育ててきたという経緯もある。そうした彼らが、てきぱきと、一職業人として仕事に取り組んでいる姿には、感慨深いものがある。 高齢化などの課題克服にも、関係機関と連携を図りながら、今後ますますの社運隆盛を願っている。 |

執筆者:みどりの町障害者就業・生活支援センター 所長 時實 茂 |

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