銀行事務集中部での雇用創出
2003年度作成
事業所名 | 株式会社十八銀行 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 長崎県長崎市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 金融業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 1,832名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 30名
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![]() 十八銀行全景 |
1.事業所の概要
(株)十八銀行は明治10年に創立された「第十八国立銀行」が母体となっており、明治30年に(株)十八銀行として発足した。現在は長崎県内を中心に109ヶ店の店舗網を持ち、加えて9つの子会社を有する地場の大手金融機関である。 厳しい経済情勢のなか、14年度より期間2年間の中期経営計画「十八銀行 21世紀の戦略~第1ステージ~」をスタートさせ、営業力の強化と収益力・経営効率の向上に取り組んでいる。その結果を、次のように分析している。 預金は平成14年4月のペイオフ一部解禁後も個人預金を中心に順調に増加して、14年度の期末残高は1兆8,570億円、貸出金は資金需要が低迷するなかで地元中堅・中小企業融資への積極的な取組みに加え、消費者ローンの増強に注力した結果、期末残高は前期末比211億円増加し、1兆5,082億円となり、有価証券の期末残高も5,236億円となっている。 収益面については、資金需要の低迷や資金運用利回りの低下が続くなか、役務収益の拡大や経費の徹底的な削減に努めた結果、銀行本来の収益をあらわすコア業務純益(業純益から一般貸倒引当金繰入額および国債等債券損益を控除)は前年比10億円増加し150億円となり、経常利益は2億9千7百万円、当期純利益は8億7千9百万円となっている。 |

2.企業理念と中期経営計画
当行の企業理念は、次のように謳われている。
加藤取締役人事部長のお話によると、平成14年度から期間2年間の中期経営計画「21世紀の戦略~第1ステージ~」をスタートさせたが、この計画では、経営効力の一層の向上と、さらなる資産の健全化を推し進めることによって、公的資金に頼らず、経営統合もせずに「質・量ともに兼ね備えた長崎県のリーディングバンク」の地位を確立することを目指す、としている。つまり、地域や社会から求められていることや期待されていることは、地域のリーディングカンパニーとしての自負を持ってその役割を果たしていくということだとしている。障害者の雇用の問題についても同じ考えで臨んでいる、とのことであった。 |

3.障害者雇用の経緯
経営理念をふまえ、昭和20年代から障害者を雇用していたところであるが、昭和50年代は雇用率を達成していたが、その後従業員全体が増加する中で障害者の退職もあり一時期未達成で経過した。再度、法定雇用率を達成するようになったのは、平成8年からで、平成6年に2名の新規採用、7年に3名の新規採用と1名の中途障害認定によるものであった。その後も定年や結婚による退職が生じた場合には、障害者の新規採用を続けたり、中途障害認定により、法定雇用率を維持、向上させようとする意識の現われと評価される。ちなみに、平成6年以降平成15年までに行員数が500名近くも減少する中で、定年や結婚による障害者の退職者9名に対し、新規採用10名、中途障害認定数は7名の計17名であった。 特に従業員の増加により障害者の雇用率が低下していた時期には、公共職業安定所の指導のもと、毎年採用を行った。また、法定雇用率が平成10年7月(1.8%)から改正されることもあって、県下の合同就職面接会に積極的に参加し、雇用率の増加を図ってきた。 |

4.障害者雇用の実績
平成15年6月1日現在の従業員数は1832名、雇用障害者数は30名(うち重度12名)である。障害者は主に本店の業務に携わっている。 聴覚障害 10名(うち重度6名) 肢体不自由 17名(うち重度4名) 内部障害 3名(うち重度2名) 昭和58年度には長崎県障害者雇用促進協会長表彰も受章されている。また、昭和62年2月9日に障害者職場定着推進チーム(5名)を設置し、平成5年7月2日には職業生活相談員を選任して障害者への対応を展開している。この結果、平成15年6月1日現在の障害者雇用率は2.29%になっている。こうした状況から、平成15年度の障害者雇用促進月間(9月)において長崎県知事表彰も内定している。 障害者雇用率は次図のように一貫して上昇し、平成8年には全国の民間企業平均を上回ることとなり、平成13年には長崎県内の民間企業の平均を上回ることとなった。 |

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5.障害者の配置
30名の障害者の配置について、所属部署別の障害部位別に分類すると次のようになる。 |

![]() また職種別に分類すると次のようになる。 ![]() すなわち、十八銀行では、本社機構の中のバックヤードである「事務集中部」、「総務部」などの事務部門において障害者の雇用の場を集中的に創出している。 |

![]() 事務集中部 |

6.改善や工夫の概要
(1)一般労働条件 |

健常社員との差はない。勤務時間…8時45分~17時00分。休憩…昼休み60分。賃金…月給制。各種保険(雇用・労災・健康・年金)には勿論加入している。 |

(2)コミュニケーション |

聴覚障害者については、主に筆談と身振りによっているが、手話が可能な社員も2名いる。また、業務にかかる文書(通知文書)は、すべて回覧している。こうして、上司や同僚との意思疎通は十分にできている。 |

(3)職場定着 |

定着率が非常に高いのが特徴で、それに関連して永年勤続表彰者も出ている。定着推進チームについては、定着推進チームマニュアルにより従業員全員に対して主旨・活動等についての説明が行われている。定期的な活動は行っていないが、随時個別に対応している。 |

(4)教育・訓練 |

一般行員と同じように行っている。障害者は勤務年数の長い人が多いので、障害者のために特には行っていない。 |

(5)行事等 |

歓送迎会及び忘年会など部全体で行う行事には原則としてすべて参加している。 |

(6)駐車スペースの確保 |

行員一般には車による通勤は認めていないが、肢体障害者には特別に許可をしている。駐車スペースは通用門の脇の入口に近い銀行敷地内に設置している。 そして車いすでも通れるように正面玄関、通用口にスロープを設置した。 | ![]() 車いす利用者の駐車スペース |

(7)車いす用設備 |

廊下は車いすが通れるようなスペースやスロープを確保している。7階のトイレは障害者仕様になっている。 |

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(8)健康管理 |

医務室には産業看護士(保健士)・産業カウンセラー・THP指導者(心理相談)・身体障害者職業指導員の資格を持った社員を人事部の業務役として配置して、各種の相談業務に対応している。また、産業医も専属配置しているし、主治医とも随時連絡を取り、懸念がある場合には、随時面談等を行っている。人工透析が必要な内部障害者に配慮して医務室に器材を配置している。 |

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7.評価
十八銀行でのヒアリングを通じて感じたことは、不良債権の処理など銀行業務全般のリストラを行う中で行員数がこの10年で500名近く減少する一方で、障害者の雇用の維持や創出に意を用いていることであった。近年、十八銀行の障害者雇用率は、民間部門における全国全産業平均値や金融・保険・不動産業平均値を大きく上回っている。また、全国平均値よりも高い雇用率を維持している長崎県の平均値も大きく上回っている。次の点において創意工夫されているのである。 雇用の創出を図っている職場は銀行業務を支える本社の中枢部門である「事務集中部」、「総務部」、「人事部」における、事務職、オペレーター職などであった。障害部位から失われた職業能力と残存している能力を十分に検討した上で、当該職務に必要とされている能力とのマッチングを行った結果が、事務集中部などでの事務職やオペレーター職に雇用の場を創出していることにつながっている。 地道に肩ひじ張らずに自然体で雇用率を高めており、地元のリーディング・カンパニーとしての自負が感じられる。事務部門はどの産業や企業にもある。金融業、保険業、流通業、サービスなどの伝票処理業務が必要な業態においては、創意と工夫によっては雇用創出が期待される。 今後、地元産業界や企業に与えるプラス波及効果が大いに期待されるし、評価されるところである。 |

執筆者:長崎大学環境科学部 教授 浜 民夫(労働環境論) |

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