若年労働力不足の産業で新たな人材として期待
2003年度作成
事業所名 | 有限会社 西部産業 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岩手県岩手郡西根町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 畜産食料品製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 82名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 17名
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![]() 平成15年度の厚生労働大臣表彰に輝いた (有)西部産業 |
1.事業所の概要
安全な食品が求められる時代の成長企業 |

岩手県は「鶏肉」生産が全国第3位。ことさら近年は、食肉をめぐる様々な事件の影響で、安全性が確認できる岩手県産の鶏肉の需要が高まっている。鶏肉加工処理を主業務とする西部産業も、毎日ラインはフル稼働し、工場内は活気にあふれている。弱電や縫製などの地元企業が受注の減少に困窮する中、この不況下に成長している数少ない企業と言えるだろう。 |

西部産業は、昭和56年、全農系統である(株)全農鳥市岩手工場(現・岩手農協チキンフーズ(株)県央工場)の業務の一部を受託する協力会社として(有)吉田ファームの名で設立。平成8年に(有)西部産業と社名を変更した。 農協との安定した業務提携の下、着実に売り上げを伸ばし、設立当初は1日1万羽弱だった処理羽数が、現在は4万5000羽にまで拡大した。また、当初20人足らずだった従業員数も、平成15年6月現在82名にまで増員した。 | ![]() 整然としたライン。 「職場環境のため車いすを使う障害者を雇用できないのが申し訳ないところ」と吉田社長 |

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2.取り組みの経緯・背景
若い労働力を確保するため障害者を募集 |

着実な成長を遂げてきた企業ではあるが、従業員の確保には、苦労がつきものだった。全国の農村がそうであるように、若い働き手のもともと少ない地域だが、鶏肉加工処理工場となるとなおさら人気はない。そこで思い立ったのが障害者の雇用であった。しかし、それは苦肉の策というよりも、吉田稔博社長が長年考えていたことの実践であったという感がある。というのも、かつて吉田ファームだった頃に、従業員のツテで1人の精神障害者を雇用したことがあった。 「同じ作業を1日中、文句も言わずただひたすらやる姿に周りの社員も感心させられました。ところがある日突然出社しなくなってしまい、その時、障害者雇用の難しさを経験しました。もう少し声かけや気配りがあったら良かったのだと思います」と、吉田社長は初めて障害者を雇用した時の失敗談を話す。以来、「障害者や外国人など雇用条件の不利な人たちのために何かできないだろうか」と考えるようになっていたのだ。 障害者雇用の取り組みは、平成5年に母の後を継いで、社長に就任したと同時に始まった。さっそく近郊の障害者施設を回り、「うちの工場で働きませんか」と会社説明に歩いた。しかしどこの施設からもその場で断られた。当時はまだ福祉施設の側にも「障害者を一般の工場に就職させる」という意識が薄かったのだ。ある日、いったんは断られた盛岡市の福祉施設から連絡があった。「本当に採用してもらえるんですか」と。ここから施設との綿密な打ち合わせや職場見学、面接が始まり、2人の知的障害者の雇用にこぎつけた。 |

3.障害者の雇用状況
雇用率29.27%。出勤率97.8%。離職者ゼロに |

西部産業が雇用している17人の障害者のうち、7人は重度の知的障害を持っているため雇用率(重度障害をダブルカウント)は29.27%となる。常に高い雇用率を維持してきたため、平成10年には(社)岩手県障害者雇用促進協会長表彰、12年には岩手県知事表彰、そして15年には厚生労働大臣表彰を受けている。 さらに注目すべきは、平成11年から13年にかけての時期で、従業員数が52名から82名に増員されるのに比例して、障害者数も9人から16人に増員している。その間には6人の離職者もあったのだが、離職した人数を見ると、面白い現象がわかる。平成11年には3人、12年には2人、13年には1人。そして平成14年、15年にはぴたりと離職者ゼロとなる。それとほぼ時期を同じくして、出勤率が向上し、現在では97.8%。「ヘタすると若い健常者よりも当てになる」と、吉田社長は労働力として全幅の信頼を寄せている。 「振り返ってみると10人目の雇用が一つの壁でした。コスト、送迎、配置、いろいろなことが問題となっていて、障害者を雇用すべきかどうか迷い時でした。そんな時、協会長表彰をいただき、妙なもので、このまま進もうと思えたのです。それを乗り越えたら、12人も15人も同じでしたね」。 |

4.取り組みの内容及び効果
実習期間に施設とタイアップしてしっかり教育 |

高い出勤率、そして離職者なし、という状況をどのようにして実現できたのだろうか。出勤率に関しては、生活環境が大きく影響していることに気がついた。出勤率が悪いのは、自宅から通っている障害者で、福祉施設から通っている障害者は出勤率が良かったのである。つまり、家族の甘さが原因であった。そこで親の会との連携を密にすることで親の「送り出す責任」を認識させた。また、重度障害者通勤対策助成金を利用して通勤用バスを購入し、送迎を徹底することで、通勤の「おっくうさ」が解消されたことも出勤率の向上につながったと思われる。 離職者ゼロについては、採用前に設けられている実習の徹底が効を奏している。重度の知的障害者の場合、実習期間は半年から1年間。施設からの要請に応じて実習生を受け入れる。与えられた仕事ができるかどうかはもちろんだが、周りに迷惑をかけないか、時間を守れるかなど基本的な態度が検討される。日々の評価は施設が用意した作業日誌につけ、施設の担当者とコメントのやりとりをしていく。これは事業者にとって大変な手間である。 「採用してしまったらもう西部産業の人間。もしダメなことをしたら給料を下げられ、クビにもなり、一般社員と同じ扱いになる。だからこの実習期間に施設とタイアップしてしっかりと教育しておかなければなりません」と吉田社長。自らも時間と手間かけながら、周囲の支援体制を整えていく姿勢は、採用という目的を越えて、障害者一人ひとりの人生をバックアップしていくかのような懐の深さが感じられた。 障害者を雇用して職場に問題は起こらなかったか。と言えば、もちろん、問題はあった。最初は従業員の反対だった。これに社長は「何言ってんだ」で押し通した。人手が足りなく、障害者も大切な労力なのだと理由をきちんと説明した。その後には、ある障害者が休憩室で何度か盗難事件を起こした。小遣い銭が足りなくてお腹が空いた時に起こすのではないかと気づいた社長は、「おやつ作戦」に出た。社長の奥さんが毎日、障害者分のおやつを用意し、就労後、事務室で渡すようになったのだ。多少経費はかかるようになってしまったが、このアットホームな発想で、見事、盗難事件は起きなくなった。 何か問題が起きた場合、最終的に叱るのは社長の役割である。社員たちは「社長に叱られるよ」と注意を促す。「一番怖い人」という父親的な存在、「おやつをくれる人」という奥さんの母親的な存在がうまく機能しているようである。 また1年ほど前からは、実習生の日誌を社長ではなく部署の担当者に書かせるようになった。始めは「何を書いたらいいのか」と言っていた担当者が、今ではびっしりと申し送りを書いている。「期せずして意識づけの機会になった」と吉田社長は目を細める。今では誰も「何で障害者なんか雇用するんだ」と文句を言う社員はいない。むしろ「休まれると困るよ」とすっかり当てにしている。 |

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5.今後の課題・展望等
農業分野への進出と、新たな障害者雇用へ |

鶏肉加工処理工場として現在すでにフル稼働の状態にある西部産業では、これ以上の処理能力を上げることは難しい。しかし事業の拡大に当たっては、工場を拡張するのではなく、生産分野つまりブロイラーの飼育を新しく始めたいとしている。その理由は大きく2つある。1つは、JAの発注に左右されない部門をつくることで、自社の体力をつけること。もう1つには、生産者の高齢化や設備の老朽化による生産部門の衰退が懸念されていることである。 「目標は10万羽を飼育できるブロイラー団地。この農場には、工場ではあまり採用できなかった女子の障害者を10人余り雇う予定です。飼育の仕事はマメで飽きっぽくない女子のほうが向いているでしょうから」と、吉田社長は計画を話す。すでに福祉施設から採用人員の推薦もあり、寄せられる期待は大きい。いずれは農場の従業員専用の寮をつくり、親の会に運営させたいとも考えている。 授産施設などとは異なり、一般企業が障害者を労働の主力として農業生産部門を立ち上げる事例は全国に例がないのではないだろうか。若年の担い手の少ない農業という分野において、一心にコツコツ働く能力のある障害者を起用することは新たな可能性であり、それは労使の両者にとって幸福なことに違いない。 |

執筆者:フリーライター 成田 木実 |

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