関係機関との協働で進める障害者雇用と定着
2003年度作成
事業所名 | みやぎ生活協同組合 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 宮城県仙台市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 各種商品小売業(店舗、共同購入)、文化サービス事業、共済事業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 1,160名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 23名
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1.障害者雇用の経緯
みやぎ生活協同組合は、宮城県仙台市に本部を置き、宮城県内に41店舗を構える協同組合である。組合員数は約49万人を数え、県内世帯数比で57.5%をなし、供給高は2002年度で約940億円にのぼっている。「環境保全、自然との調和」「健康・安全・安心 そしてより安く」をキーワードにして営業している。 みやぎ生活協同組合が障害者雇用に初めて踏み切ったのは、1985年のことであった。障害者雇用率が未達成であったことから、身体障害者を正規職員として雇用したのが最初である。その後、1996年に、宮城障害者職業センターからの紹介を受けて、職域開発援助事業を活用して、知的障害者の実習を行い、店舗業務の遂行が可能との判断をもとにして、パート型嘱託職員としての雇用に踏み切る。 |

2.障害者雇用状況と業務委託
2004年1月段階での各店舗での障害者雇用は、13店舗にのぼり、総数13名の障害者が働き、雇用率は2.7%になっている。2004年1月時点での部門別の障害者数を示すと、本部事業所8名、店舗部13名、コープフーズ東北2名、計23名である。店舗部が障害者の主要な職場になっているものの、幅広く各部所で障害者が活躍しているとも言える。これらのほか、店舗以外での障害者雇用としては、子会社・コープフーズ東北が、魚切り身盛り付け業務と油揚げ製造ラインの担当として、それぞれ障害者1名を雇用している。 また、生鮮セットセンター内に、障害者の作業所が仙台市知的障害者育成会への業務委託事業として設けられている。それは事業所内の障害者のエンクレーブ的(注)作業所といえよう。 なお、みやぎ生活協同組合は、今後も、店舗部門業務で十分働けると判断される障害者が応募してきたときは、個別的に対応していくこととしている。 (注)エンクレーブ(enclave)とは、米国で行われている援助付き雇用の一形態で、8人以内の障害者がグループでジョブコーチの指導を受けながら企業内で仕事をするというものです。 |

3.N店舗ベーカリー部門で働く自閉症者のKさん
(1)N店舗の様子 |

みやぎ生活協同組合のN店舗は、仙台市の西部に位置し、古い街道筋に面し、周辺は街道にそって商店街が並んでいる。N店舗は、みやぎ生活協同組合のなかでも、地域密着型の店舗として知られている。近隣が高齢者の多く住む土地であることもあり、2階にはマッサージ室、福祉会の介護支援センター、ヘルパーステーションの拠点が置かれていたりする。1年前からは、商品の無料配達も開始している。無料配達は、店長が買い物したあとタクシーに乗り込む老人を見かけたのがきっかけであった。 そうした店舗の奥に、ベーカリーがある。N店舗を入ると休憩しながらコーヒーなどを飲むコーナーがあり、そこには買い物にきた高齢者が買い物を済まして三々五々一息いれている。さらに奥に進むと、香ばしい匂いがしてくる。そこがN店舗のベーカリー部である。みやぎ生活協同組合の各店舗では、ベーカリー部門は、テナントをいれているところが多いが、N店舗は直営として営業し、売り上げを伸ばしている部門である。それは、近隣にできたてのパンを販売するパン屋がないことも幸いしている。 |

(2)Kさんの経歴 |

そのN店舗には、自閉症者のKさんが働いている。 Kさんは、2年前に私立の養護学校専攻科を卒業したあと、父親の転勤にともない大阪に移住し、そこで障害者職業能力開発訓練施設「大阪INA(イナ)職業支援センター」のパン・菓子製造科で職業訓練を受けた。その後、仙台市に戻ってきて、みやぎ生活協同組合に就職したのである。ベーカリーの仕事は、Kさんの年来の希望職種であった。 |

(3)Kさんの現在の仕事ぶり |

![]() Kさんが仕事をするベーカリー部門は15名による3交代制勤務の職場である。仕事仲間は、年配者が多いものの、Kさんと同年齢の人も働いているが、人間関係でのトラブルもなく、勤め始めて早くも5ヶ月が経過している。Kさんの勤務時間は8~16時であり、常時3~4名が、パンづくりと販売に従事している。 |

![]() ここで、店長Hさんの言葉を紹介すると、「自閉症者でこわいことはパニックを起こすことかもしれない。しかしKさんはまだ起こしていない。自閉症者は手順を明確にして勝手に変更しなければ十分就労できるし、パニックを起こさないのではないか」と話していた。店長Hさんは何も心配していないようである。 |

4.ジョブコーチ、本部人事教育部、関係機関の協働ですすめる就労支援
(1)店長の不安と支援体制 |

KさんがN店舗のベーカリーで働くことが決まったとき、N店舗の店長Hさんは、知的障害者の職場定着指導をした経験をもっていた。それでも、Hさんは、いくつかの心配が頭から離れなかった。金銭処理は、ベーカリー部門独自で処理するのでなく食品売り場のレジで処理するシステムを採用しているので問題はないものの、Kさんはパンづくりで油を使い揚げることになるが、どのくらいの時間で揚げたらよいのか分かるであろうか、というのも心配であった。Hさんが、それ以上に心配したのは、当面、パンづくりに専念してもらうものの、お客さんがKさんに「服の売り場はどこですか」などの声をかけるようなことが予想されるので、そのとき、うまく応対できるであろうかということであった。 こうした心配は、実際は、それほど深刻なことではなかった。宮城障害者職業センターからジョブコーチが2ヶ月間指導にあたる一方で、みやぎ生活協同組合人事教育部の職業コンサルタントも定期的にN店舗を訪問し、必要に応じてKさんと面談して、こまかい指導を行なってくれたからである。加えて、ジョブコーチや職業コンサルタントは、Hさんの心配に丁寧に応えてくれたのである。Kさんも、積極的で、分からないところをH店長に聞きただしているようである。 |

(2)組織内の体制 |

みやぎ生活協同組合での障害者雇用は、重度障害者介助等助成金を活用した職業コンサルタントのいる本部・人事教育部と協働するかたちで進められている。人事教育部内には、雇用促進チームが設けられ、定期的にフォローのために面接する担当者が決められ、定着の推進に従事してる。現在、フォロー担当者は3名いて、その内2名が職業コンサルタントとして、13名の障害者の定着にあたっている。だが、「13名を3名が担当する体制では不十分さが残り、支援体制の見直しが必要である」というのが人事教育部の見解ではある。それは、フォロー担当者といっても、専任ではなく、人事、労務、福利厚生を兼務している実情があるからである。 |

(3)定着指導での協働 |

フォロー担当者の定着指導の方法は、毎月、本人と面談するとともに、店長(副店長)や部門チーフとの話し合いを行うことを原則にしながら、問題発生時には、宮城障害者職業センター、仙台市障害者就労支援センター、職業安定所など、必要に応じては養護学校の進路指導担当への支援協力を依頼し、所属長、部門チーフ、保護者、本人、職業コンサルタント(人事教育部職員)が協議して問題解決に当たることにしている。これら労働諸関係機関とみやぎ生活協同組合本部雇用促進チームの協働は円滑であり、またそれら機関と養護学校の進路指導担当の協働も良好である。実際、養護学校の進路指導担当者は、職場実習期間はもとより、就労後も、卒業生の就労状態をフォローアップしている。こうした関係機関との協働が、店長Hさんの心配を解決しているのである。 なお、店長Hさんは、Kさんについて、近い将来、店に出て販売担当してもらうことを予定をしている。Kさんも、パンづくりではトッピングをしてみたいとの希望をもっている。 |

5.障害者雇用の土壌づくりと職場定着
みやぎ生活協同組合は、10年以上も前から、毎年、養護学校、聾学校、盲学校等の依頼に応えて、各店舗で現場実習の受け入れを行ってきた。そのため、各店舗では、障害者に対する理解は深まっている。生協本部の人事教育部でも、部内報等を発行し障害者理解のための情報を職員に提供している。そうした意味では、みやぎ生活協同組合の障害者雇用の土壌はしっかりしたものであるといえる。しかし、他の小売業に比して障害者雇用率が高いこと、加えて、長期にわたる経済低迷の中で競争も厳しく、引き続き計画的に障害者の雇用を推進することが困難になりつつあると認識している。実際、Kさんの勤めるN店舗の近くには大規模小売店が開店し、N店舗の売り上げが多少減じている。そのため、Kさんの働くベーカリー部門のように店舗部門業務で十分働くことができる障害者が応募してきた場合は、個別的に対応するものの、むしろ、障害者の職場定着を強めることに重点を置きつつある。 職場定着を強めるというとき、障害者の多くが養護学校高等部卒業後、3~5年も経過すると、結婚年齢になり異性との関係が問題になるばかりか、余暇の過ごし方を十分に知らないことから問題が生じたりもする。こうした問題に対応するには、入職時や職場定着時での労働関係諸機関による支援だけでなく、関係機関の支援の輪を大きくして、障害者の地域生活支援の必要性が意識されてきている。今後は、宮城障害者職業センター、仙台市障害者就労支援センター、職業安定所、養護学校高等部とみやぎ生活協同組合の本部・人事教育部と各店舗での指導が協働していた輪のなかに福祉関係機関が加わり、みやぎ生活協同組合の障害者雇用が進められるのかもしれない。 |

執筆者:宮城教育大学教授(障害児教室) 清水貞夫 |

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