仲間の絆で一人ひとりを大切に~中途障害者の雇用継続を図る~
2003年度作成
事業所名 | 小名浜海陸運送株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福島県いわき市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 一般港湾運送事業・倉庫業・通関業・船舶代理店業・貨物運送取扱事業・海上コンテナ貨物海陸一貫輸送事業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 246名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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1.事業所の概要
(1)事業の内容 |

同社は昭和30年3月に、その前身である小名浜港湾運送株式会社と小名浜埠頭株式会社との合併によって創立された会社である。小名浜港が国際貿易港として発展することに伴い、同社も逐次事業を整備拡大し、一般港湾運送事業・倉庫業・通関業・船舶代理店業・貨物運送取扱事業・海上コンテナ貨物海陸一貫輸送事業と、総合的な港湾関連事業を営む企業として発展し今日に至っている。 荷役作業には大型クレーンが使用され、大型トラック等の出入りも頻繁で常に危険を伴う仕事である。又、事業の性格から公共性も高いものと言える。これらの事情から会社としては従業員への安全教育の徹底と、貨物を大切・丁寧に扱うことを最大のモットーとしている。このことが延いては「従業員一人ひとりを大切にする」という企業理念が、その社風として息づいているのだと思う。 |

(2)障害者雇用の状況 |

同社の障害者雇用は新たに採用したものではなく、就業期間中に従業員が私症を含めて障害に見舞われた場合に雇用を継続している例である。その中途障害者の雇用継続に関して、優れた取り組みをしている企業として紹介するものである。 現在の従業員数は246名(平成16年1月現在)。雇用されている障害者は5名で、年齢は23才から60才まで広範囲にわたっている。勤続年数は6年から39年で、30年以上の人が4名とベテランの従業員が多い。障害を受けてからの年数は2年から19年である。障害の状況は表1のとおりである。 表1 障害状況
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2.障害者雇用の取り組みの経緯・背景
荷役作業については昔から労災事故の多い業種であった。同社についても例外ではなかったが、従業員への徹底した安全・衛生・健康管理指導及び適切な労務管理により、事故は大幅に改善された。 職場環境としてはアットホーム的であり、危険を伴う作業であるためお互いに助け合う雰囲気と従業員間の連帯意識が重視されている。これは会社の指標でもある〔従業員心得〕にも言い表されている。それは、[1]お互いに協力し、[2]明るく、[3]創意と工夫をもち、[4]サービス精神と荷物を大切にし、そして、[5]地域社会に貢献するという会社の基本精神から滲み出ているようである。この精神を土台として、従業員一人ひとりを仲間として受け止めていること、そして、その従業員はそれぞれの家族を支えている生活者であるとの視点を大切にしている。 こうした会社の姿勢があるからこそ、中途障害によって、その人のそれまでの労働的価値が減少しても、人間的価値・生活者としての価値を損なわない配慮が生まれているものと思われる。障害をマイナスイメージで評価するのではなく、たとえ障害を抱えていても、その人のもっている力(パワー)をプラスに発揮できるよう配慮している労務管理は大変価値の大きなものがある。障害者の雇用問題に際しては、このように「一人ひとりを大切にする」という人間的価値観と、「生活を守る」という労働理念は大いに学ぶべきことと言える。 会社では、障害を持つ従業員一人ひとりに対して、なるべく以前の仕事との関連性を考えながら、且つ、医療的配慮と安全に配慮しながら配置転換等をして対応している。 |

3.障害者の業務上の配慮と業務内容
障害を持つ人の業務内容は表2のとおりである。 表2 障害別業務内容
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4.職場定着への配慮とその効果
何よりも筆者を案内して頂いた労務課長さんの人間的な暖かさを感じた。これは会社の経営姿勢そのものと察せられる。障害を持つ人の家族との親身な連携と医者との協力関係。そして、各作業部門毎に置かれている現場労務管理者と上司への相談・連絡体制が信頼関係の絆となって繋がっている。各部署で働く障害を持つ従業員は、いつでも身体の調子の具合や心配ごとがある場合には現場の労務管理者と相談できる体制をとり、また、労務課長が現場へよく出向いて声をかけるなど日常的に暖かな目配りがされている。 障害を抱える従業員に対しての姿勢は、その人の障害の状態には配慮しながらも人間としては特別視することなく、今まで仕事を一緒にやってきた仲間としてその人を大切にし、その人の家族の生活を守ろうとする会社の『社会的責任』が自然体として表現されているように思える。このような会社の姿勢が、障害者本人にとっても心理的負担を負わせることなく、そして、従業員全体としての一体感と安心感、さらにお互いの信頼関係を強いものとしていると思われる。 改めてノーマライゼーションの理念を説くことも無く、ごく自然に障害を受容し共に働くことのできる職場環境は、全従業員が安心して仕事に打ち込める状況を作ることにもなる。それを基盤とした従業員個々のパワーの発揮は、会社にとって大きな財産を持つ結果になると思われる。 |

5.今後の課題と展望
同社の障害者の雇用は5名であるが、そのうち2名は重度者である。障害者の雇用に関する法定雇用率の算出では、重度障害者の場合は一人を二人に相当するものとしてカウントされる。したがってこの方式で算出すると同社の障害者雇用数は7名となり、従業員246名に占める障害者の雇用率は2.85%となる。「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、常用労働者数56名以上の民間企業においては1.8%以上の障害者の雇用が義務付けられている。同社はこれよりも高い雇用率を達成していること、及び中途障害者の雇用継続に際しては不利益にならないよう充分に配慮していることは、大いに評価できることである。 願わくは、同社の障害者の就業に関するノウハウを生かして、今後、新たな障害者への雇用創出へと挑戦されることが望まれる。 さて、障害者の雇用問題を全国的に見てみると、平成15年6月1日現在の雇用率は1.48%である。平成10年7月に法定雇用率が1.6%から1.8%に改正となったが、改正後もそれはほとんど変わらず、ここ数年1.4%から1.5%の間で推移している。雇用率の未達成企業の割合は57.5%と、未だ高い水準のままである。 障害者の雇用が何故この水準以上に進まないのであろうか。経済的不況の問題だけがその原因ではないと思われる。障害者の雇用については負のイメージがあまりにも強すぎるのではないか。障害者の持っている能力の活用というプラス面にもっと注目すべきである。成果主義による行き過ぎた競争は、結果的に社会や会社の連帯をさらに崩すのではないかと危惧される。 国際標準化機構(ISO)は、2004年夏、企業の社会的責任について国際標準規格を作るかどうか決定する予定であるという。環境問題だけではなく、企業内の人権や雇用のあり方、地域貢献のあり方なども検討されるといわれている。今後の企業経営には強く企業の『社会的責任』が、その評価として問われてくるであろう。 法定雇用率はあくまでもその最低ラインを示してあるものである。ノーマライゼーションの実現のためには職業を通じての社会参加が基本である。障害のある人が、その適性と能力の活用により雇用の場に就けるよう支援することも、企業の大きな『社会的責任』を果たすことでもある。障害者と共に働く、そして共に生きるということは、その企業の社会的評価を高め、そして何よりも企業で働く者の人間的な質を高めるということを是非知って頂きたい。 |

執筆者:いわき短期大学助教授 鈴木 尤恃 |

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