雇用する側に支えられての障害者雇用
2003年度作成
事業所名 | 福井環境事業株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福井県福井市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | ごみ・生ごみ処理、空き缶・ビン・ペットボトルリサイクル事業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 230名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 9名
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1.障害者雇用の経緯、雇用状況
福井環境事業株式会社は1950年3月に設立以来、一般廃棄物、産業廃棄物の収集運搬業務を行っている。また今日では、収集量が増加してきている生ごみ、発泡スチロール、ペットボトルについてリサイクルの推進も行っており、まさに環境ビジネスの先駆けであり、今最も注目される企業の一つであると言える。平成12年、同敷地内にそれまで行っていた廃棄物処理施設の他に、発泡スチロールの再生施設を立ち上げた。その際、障害者職業センターからの紹介で何名かの知的障害者を採用することになる。 雇用されている障害者は、知的障害3名、精神障害2名、身体障害4名の計9名。身体障害者のうち1級と5級(視覚障害)の障害を持っている人は、福井市内にある中央卸売市場で収集業務に携わっており、5級で下肢機能障害の方は集金業務を行っている。また、作業中の事故が原因で中途障害となった3級の上肢機能障害の方は、車の運転に支障がないので、市内の収集業務を行っているということである。 3名の知的障害者のうち1名は収集作業に携わっており、他の人と区別されることなく正社員としてがんばっている。入社して25年経つが、出勤率が良いため、会社としても当てにでき、評価が高い。賃金も区別なく同じ金額が支払われている。収集業務は知的障害者であっても、作業自体は問題なく行われると思われるが、二人一組で行われるため人間関係がうまく作れるかどうかがポイントとなる。しかし彼は長い経験の中でその問題を克服し、現在では誰も彼の障害を意識することなく業務が行われているということである。 もう一人は収集資源センター(福井市南江守)で缶・ビン・ペットボトルの分別業務を行っている。ここは福井市の施設で、福井環境事業株式会社が委託を受けて作業を行っている。現在はビンの選別業務だけを行い、缶・ペットボトルは二日市リサイクルセンターへ移行した。 二日市リサイクルセンター(福井県福井市二日市)では2名の精神障害者と1名の知的障害者が主にプラスチックトレーの分別作業を行っている。工場内の作業はほとんどが機械中心で進んでおり、速さを要求される。その中で、プラスチックトレーの分別は本人たちの作業能力に合わせて調節されており、全体の需要に合わせつつも無理がかからない程度の速さに設定されている。また様々な問題にも直面するが、ジョブコーチとも連携を取りながら、現場と一緒になって問題を取り除き、職場定着に努めている。 今回のレポートは、特に職業センターとのかかわりが深い二日市リサイクルセンターへ配置移動になった2名の精神障害者と、資源センターで働く知的障害者について取り上げることにする。 |

2.職場への定着
障害を持った方が本社工場の分別作業に従事することとなったので、作業内容はそれほど難しいものではなかったが、早期の職場定着のためにジョブコーチが作業指導にあたった。その後は職場内の「業務遂行援助者」が声をかけ、本人たちをサポートしている。障害を持つ従業員について、特に何か配慮していることはないか尋ねたが、会社としては障害者というより、彼らを一従業員と考えているので、特別なかかわりを持つことはしていないということである。ただし、何らかの場合に備えて担当者を配置し、安心して働けるような体制を整えている。時には現場管理者自らが様子を見に行って声をかけることもあったという。会社全体でフォローしている様子が伺える。 |

3.異動や生産性向上への対応
平成15年4月より、精神障害者2名と知的障害者1名が、本社施設から新設された二日市リサイクルセンターへ異動になった。作業内容自体に変化はないが、手順が変わったことや、センターの運営が本社のような委託から「独立採算企業亅になり生産性を重要視するようになったということがあり、作業量を増やすことが必要となった。しかし、今まで取り組んでいたものを急に変えることは難しく、現場では障害者が今までのようなペースで作業をすることについて、現場管理者や同僚から不満の声が上がった。 職業センターからは1ヶ月に1回程度の割合でフォローアップが行われ、ジョブコーチが職場を訪問している。ちょうどフォローアップで職場訪問をしたときに、現場から障害者の作業状況について相談があった。ジョブコーチと現場管理者の話し合いの結果、現在起きている問題点を解決するために、2ヶ月間ジョブコーチが付くことになった。 一番の問題点は速さだった。生産性を上げるために機械の速さを決めているが、気が付くと勝手にトレーの流れるベルトコンベアーのスピードを遅くしてしまう。理由は「疲れる。」「スピードが上がると発作が出る。」などである。しかし、企業側としてはその理由は受け入れられなくて当然である。そこでジョブコーチが作業指導と同時になぜスピードを遅くしてはいけないか、勝手にそういうことをするとどうなるかということを本人たちに説明した。また、2ヶ月間の指導の中で、本人たちに合っており、且つ企業側からクレームが出ないスピードを模索した。その結果、本人たちが勝手にスピードを調節したり文句を言ったりすることはなくなり、現在までクレームは出ていない。 |

4.トラブルへの対応と再就職
別の知的障害者でこのようなこともあった。本社工場で選別作業を行っていたYさんが工場内で一般家庭から出されたごみの一部を持ち帰るというトラブルを起こした。企業側としては多少のことに目をつぶっていたのだが、当時生活支援を担当していた施設職員が、企業に迷惑がかかってはいけないということで本人に自主退職するよう促した。Yさんは自主退職し、福井市内の授産施設で訓練を受けることになり、その間は関係施設の職員が生活面も含めて支援した。授産施設で訓練をはじめて約1年たった頃、福井環境株式会社で当時障害者の受け入れを担当していた営業課長から生活支援担当者へ「もう一度うちで働かないか。」と連絡があった。会社では「あれぐらいのことでYさんをやめさせてしまった。」と気にしていただいていたと言うことだった。 Yさんはその後、職業センターの職域開発援助事業による職場実習を行い、半年間の職場適応訓練を経て職場復帰した。本社工場の選別作業に携わった後、現在は収集資源センターでビン・缶の選別作業に従事している。またYさんは収集業務に携わることもあった。「Yさんなら問題ないだろう。」という営業課長の判断だった。結局は選別現場の人手が足りず、元の作業に戻ることになったが、本人の能力にあわせた仕事を提供しようという企業の考えも垣間見ることができる。 |

5.障害者としてではなく個人として
最近では大学生やフリーターなどのアルバイトを採用してもすぐにやめてしまうという。希望者はたくさんいるが、7~8人採用しても、残る人は一人程度なのだそうだ。逆に「障害を持っている人のほうが前向きに一生懸命仕事のことを考えているのではないだろうか。」と営業課長も言われている。そのように障害者を前向きに捉えている背景には、企業が障害者を障害者として福祉的に扱うのではなく、一人の従業員として扱うという姿勢があるからではないかと思う。従業員としての役割を期待されているという点では、雇われている障害者もプレッシャーが大きいだろう。しかし、制度や助成金を当てにせず、本当に個人として対応していただけるという環境は、障害者に自信を持たせることになり、結果として個人のやる気を導くのではないだろうか。 |

6.今後の課題・展望等
本社工場は収集業務が主であり、今後業務内容が変化することもほとんどないと考えられるため、新しい社員を採用する予定はないということだったが、二日市リサイクルセンターは今後新しい作業種が導入される可能性もあり、新規採用も検討されるのではないかということだった。センターでは今後、現在の選別出荷業務以外にも、材料から製品に仕上げるまでを同工場内で行う計画があり、その過程で採用の可能性があると言うことである。しかし、今後ますます要求されるスピードは速くなり、選別内容は細かくなっていくことが予想される。生産性を重視した場合、これらは必須条件で、効率が悪くなるような従業員をあえて雇い入れるようなことはないだろう。しかし、逆に考えれば、速い作業についていくことができれば、また細かな選別でも対応できれば、どのような障害があってもそこで働くことは可能と言うことになる。 福井環境株式会社は行政の仕事を請け負っていたということもあり、最初は多少企業イメージの向上をねらっての障害者の採用だったということだが、実際にはまったく関係なくなってしまったという。現在も障害者がいるから…とアピールするようなことはなにもないらしい。障害者も一従業員として完全に溶け込んでしまっているのだろう。 最後に障害者を雇用するということについて話を伺ったところ、「どのような職種であっても、企業があえて障害者を雇用するということはある意味特例であり、いわば特別枠的なところがある。そのためお互いに協議が必要になってくる場合が多い。まずは、雇用を促す側から企業への積極的な働きかけが大切なのではないでしょうか。」ということだった。しかし、福井環境事業株式会社では今までもたくさんの実習生や職場体験を受け入れてきた。それは雇用を促す側からの働きかけもあったに違いないが、それだけでなく企業側に障害者雇用に対する深い理解があったからだと言えるだろう。このような企業は、今後も働きたいと強く願う障害者にとって、心強い存在であることにはかわりない。障害があっても、その企業のニーズに則していれば必ず戦力となる。福井環境事業株式会社の障害者雇用の実例は、そのことを顕著に示しているといえるだろう。 |

執筆者:社会福祉法人コミュニティネットワークふくい 丹南事業所 所長 丹尾和春 |

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