“障害者”である前に、ひとりの“職業人”として
2003年度作成
事業所名 | 花国 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山梨県甲府市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 花の販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 7名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 1名
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![]() 店舗前にて |
1.沿 革
当該事業所は、昭和21年4月、甲府市内で先代(現事業主の父上)が創設された。先代は、戦後から競輪の選手でありながら花屋でも修行していたという異色の経歴の持ち主である。ご子息である大森金三・現事業主が、18歳の時に二代目となられて現在に至るが、近く娘婿に後を継がせたいと考えていらっしゃる様だ(しかし、驚くなかれ先代も未だ現役である!)。 |

業務は店頭での販売のみならず、葬儀用の献花や生け花教室で利用する花の配達を、主に県内中部・北西部をエリアとして行っている。また、最近では新たに『花キューピット』の配達が顕著に増加しているとのこと。 一時期は従業員が10名程居たこともあったが、長引く不況の中、花の需要は年々減りつつあり、コスト削減も止むを得ない状況とのことである。 | ![]() 花国代表 大森金三氏 |

2.採用までの経緯
元来、事業主は県内にある身障者の養護学校の校長と知己の間柄で、障害者について無縁の世界ではなかったが、要望があっても実際に雇うまでには至っていなかった。今般、ハローワークを通じて紹介されたのが精神障害者ということで、自分以上に他の従業員からは受け入れに否定的な意見も少なからずあったとのことである。 花が好きだから、という理由で仕事を希望してくる若者がいるが、大半は長続きしなかったそうだ。見た目の華やかさと現実の厳しさのギャップではないと事業主は考えておられる。そこで、誰に対しても試用期間を設けて様子を見ることにしている。これは受け入れ側だけでなく、本人にとっても続けていけるのかどうかを判断する有効な期間となるからだ。 当然、今回初めてとなる障害者の受け入れにあたっても同様の方法で臨むつもりだったが、本人の面接に同行してきた障害者の就職を支援する機関(障害者職業センター)の担当者が職場実習制度を活用するよう提案してきたことで決断がし易くなった、とのこと。こうして2ヶ月弱の実習を経て、不安は残るが採用可能な者として認められるに至ったわけである。 |

3.配慮により当てになるまでに
![]() 事業主はこうした点や、ストレスに対して特に疲労し易い本人の特性を配慮されて、先代や事業主が吸わない(吸うのを好まない?)タバコを本人の常識的な裁量に任せて自由に吸うことを認めるようにし、勤務体制として基本的に残業させないこととした。また、通院日については時間休でなく日休として認めているとのことである。 結果、現在に至るまでの4年間(!)、特段大きなミスもなく仕事をこなしているが、何よりも特筆すべきは、「休まないことは何にも増して素晴らしいこと。4年間でたった1回風邪を引いただけ。まさしく勲章もの!」。と事業主は声を大にして言った。 当てになること。これこそが基本中の基本であり、仕事を続けていく上で最も重要な、しかし決して生易しいことではない、と事業主は続けられる。そのうえ、他の従業員は休日出勤が難しいので、代わりに積極的に出勤してくれることが大変助かっているのだそうだ。日曜日は、事業主と本人の2人だけのこともある。ところが本人は、むしろ休日の方が来客も少ないので負担は軽い、と言うので、ある意味では一石二鳥の方法が採られているということなのだろう。 |

4.信頼関係と本人への期待
![]() 今後への期待として、事業主はコミュニケーションの上達を挙げておられる。障害特性のひとつとして、その大変さは理解しているが、だからといって難しいの一言で片付けるのではなく、これから後輩が入ってくる職場の状況を考えると、こうした職場はある意味で職人的要素の強い所といえるので、そうした連中に指導・教育できるような存在として振る舞えるようになって欲しいとのこと。つまり、事業所としては厳しい状況に在りながらも、出来る限り長く続けて欲しいということを期待しておられる事業主のお気持ちの表れに他ならない、と言えよう。 事業主以外の従業員、特に3代目になるであろう娘婿(業務遂行援助者)との関係も入社当初とは比較にならない位に上手くいっているとのこと。“キー・パーソン”が移譲できるとは、何と恵まれた環境なのだろう!勿論、この環境は自然発生的なものではないはずだ。 |

5.雑 感
この事例を読まれた方の多くは、「偶然に上手くいった結果を後追いしているのでは?」と思われているかも知れない。そう、何を隠そう、執筆している私自身、今回の事例が普遍的に通用するものとの確信など持っているわけではない。 しかし、考えてみれば、例え障害者であろうが、そうでなかろうが、ひとりの人間が、ひとつの職場である程度の期間活躍していることをモデル事例として、それを他者に有効に活用できるケースなど、そうザラにあるものなのだろうか? 本ケースの場合、確かに精神的な病を抱えるが故に結果として配慮されていることもそれなりには認められるものの、何かしらの事情が在れば何かしらの配慮が為されるのは障害者ばかりではない、と考えても不思議のない範疇であろう。だからこそ、障害者だから配慮しなければ雇用は難しい、或いは、障害者であれば誰も彼もが配慮された上でしか職場定着できない、と決めてかかる前に先ずは、職業人として、言い換えれば企業の一戦力として、何が必要なのか、何を為すべきなのか、受け入れるにあたって今何が不足し、それはどうしたら補えるのか、そのことを事業所としてサポートするにはどうすべきか等々を考えるべきである。恐らく特に多くの人材を必要とする大規模な企業のトップや人事担当者、各部署の責任者等、人的マネージメントに携わる者であれば普段から当然の如く深慮されていることを、それが障害者であろうとも同様に行えば、おのずから望ましい結果が導かれるのではないだろうか、と考えてしまうのである。 事業主は、最後にこう付け加えられた。「小規模事業所では、ひとり上手くいっても実際問題として次々と障害者を受け入れることは出来ない。正直な話、大変だと思う時も無いわけではない。多くの部署を抱える大企業がもっと努力すべきことがあるのではないだろうか?」。 |

執筆者:平野 隆司 |

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