音声ワープロを操る理療士さん
2003年度作成
事業所名 | アピックヤマダ株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 長野県千曲市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 半導体組立装置、リードフレーム及びプレス金型の開発・製造・販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 701名(2004年2月1日現在) | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
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1.会社の概要
![]() 金属部品加工や金型の製造、さらに半導体の自動化装置の開発・製造・販売へと日本の産業経済の変遷と共に、常にその先端で『物づくり』を追求してきた当社は、アメリカ支社のほかシンガポール、タイ、台湾、中国などに子会社を持つなど、グローバルに事業展開をしている。 そして、新たな半世紀に向けて、“創業の志”を込めた『物づくり技術』をより高め、顧客や社会への貢献度をさらに高めようと定めた「APICAL VISION」には、“「作る」「造る」から、「創る」へ”を掲げ、Newアピックヤマダの創生をめざして新たな挑戦を始めている。 この思想が、製品づくりから社員教育・企業風土にまで浸透しており、具体的な実施例を工場内の随所に見ることができる。 例えば、新たにリニューアルした社内教育機関「スキルアップスクール」もその1つである。 全社員を対象に、経営環境の変化に即応できる業務遂行能力を身につけ、仕事に生きがいをもち、良識ある社会人として常にスキルアップできるよう支援する…という目的のもと、英語・中国語,パソコン活用をはじめ、設計・営業技術や海外派遣講座などの専門コースまで設けるなど、「社員に対して会社は何ができるのか?」を常に意識しながら新しい社員教育や福利厚生のあり方を探り続け、社員の「やる気」に応えていこうとしているのである。 |

2.障害者雇用の経過
![]() 昭和40年代から雇用開始してきたが、金型製作や自動機の組み立てという重量部品を扱う職種のため思うように雇用拡大ができずにいた時期があった。 その後、半導体製造装置へと進出した昭和50年代の後半になり、自動化装置の量産化による業容拡大と共に社員数も急増し、障害者雇用率の未達成も問題になってきた。 そんな中で、平成5年の社名変更やロゴの変更を機に、全社あげてのコーポレート・アイデンティティ(CI)の見直しと再構築活動を展開し、新たな経営理念も策定された。 そのなかに ・自然にやさしさを、 ・社会に豊かさを、 ・人に幸せを。 という一節がうたわれ、これが社員への福利厚生や社内教育の充実、ボランティア活動を含めた地域社会への貢献など、人事諸施策の見直しや再構築の柱となった。 その方策として実施されたのが“THP(Total Health Promotion Plan)活動”であり、その1つが福利厚生面からの企業内理療士制度の導入であった。 |

3.理療士のKさんが引き寄せた2つの出会い
(1)「音声ワープロ」との出会い |

当社でマッサージを担当している理療士のKさんは、以前は病院で約10年間マッサージの仕事を続けていた。 盲学校で習得したマッサージを職業に選び、病院内の患者さんを中心に技能を磨き、7年8年と経つうちに精神的にも安定してきたあるとき、この出会いがやってきたのである。 Kさんご自身は「ラッキーだった」とおっしゃるが、ある日、近所の点字図書館から本を借りようと電話で問い合わせをしたときのこと、応対してくれた職員から「この図書館で新しく点字ワープロを教えることになったが、まだ受講者がいない」「あなたの声の様子ではお若い方のようですが、受講しませんか?」と誘われたのである。 当時の1990年頃はまだ点字ワープロそのものが出始めの頃で普及しておらず、Kさん自身もラジオで聞いたことがあった程度の知識しかなかったが、新しい物好きのKさんは強い興味をひかれ、すぐに受講を決めたとのことである。それから毎週1回、勤務が終わってからの時間を利用しての勉強が始まり、音声ワープロを習得したのである。 この思いがけない音声ワープロとの出会いが、Kさんの大きな転機となるチャンスを引き寄せることになったのである。 |

(2)当社の企業内理療士への出会い |

高校時代から病気による視力低下が始まったKさんは、以前病院でマッサージ師として勤務している間にも、徐々に視力低下が進み、やがて完全に光を失ってしまった。その結果、病院内の移動が困難になり、いろいろと悩んだ末に、慣れ親しんだ病院ではあったが退職を選び、実家に帰ってハローワークでの求職活動に入ったのである。 Kさんは、「これもラッキーだった」とおっしゃるが、一年近い空白のあと当社からの求人に応じ、面接の時にこの音声ワープロの導入を申し出て、採用と同時に導入が決まったようである。 現在、経営企画室に所属し、人事・教育関係を担当されている竹内さんは、当時を振り返りながら次のように話してくれた。 ![]() 「Kさんが入社された平成5年は、当社の創立40周年であり、これを機会にCIを導入し、会社名やロゴ・シンボルマーク、制服などを現在のものに変更した年であり、さらに、企業理念や行動指針などが新たに策定された年でもあり、我が社が世界をフィールドに新展開を始めた画期的な年だったんです」 「そんな時に、Kさんから提案のあったマッサージの他に音声ワープロを使ってデータの管理も担当したいという完結型の仕事に対する前向きな姿勢が、トップを動かしたんだと思いますよ」 「私たちも今まで見たこともなかった音声ワープロの購入なんて、ビックリしました」 当のKさんも、「今思えば思い切って申し出てとてもよかったです。社員の日別・個人別の理療実績をカルテとして自分で整理するには、とても点字書類でできる容量ではありませんし、予約受付も含めて、自分の仕事で迷惑をかけないで出来ますので、助かります」 「特に3年前にソフトをバージョンアップしてもらってからは満足しています」 「最近は、東京の点字図書館からテープを取り寄せ、それを音声ワープロに入力して最新の医学的資料として保管し、知識の向上や蓄積にも使っておりとても重宝しています」 と、眼鏡をかけた自信に満ちたお顔で嬉しそうにニコリとされた。 |

4.雇用安定への工夫や改善
![]() 「最初に検討したのは、マッサージ室(当社では「医務室」と呼ぶ)をどこに設置するかということでした。お手洗いや食堂に近く、階段やエレベーターにも近い今の場所に決め、雇用開発協会からの助成金をいただいて部屋の改装をしたり、音声ワープロを購入しました。その他には特別なことはしていませんし、不具合が出ればその時に改善すれば…という気持ちもありましたしね」 「そうそう、最初はマッサージの予約は総務の担当者が受け付けていたんですが、途中からKさん自身に直接、電話でやってもらうように変更しました。Kさんご自身もこの方がやり易くなって、良かったようですね」 「その他には、緊急時に専任の誘導員を安全組織の中で決めてあるくらいですかね」 「何かあれば、Kさんは都度提言してくださるので、とてもやり易いですよ」 とのこと。このあたりにもコミュニケーションのとれた良い企業風土が感じられた。 |

5.取材の感想
Kさんは、さかんにラッキーだったと強調するが、今の仕事につくまでの出会いやいきさつなどをお聞きすると、確かに幸運だと思われる面は感じられる。 しかし、Kさんにお会いして感じたのは、白衣の似合う、誠実そうなお人柄と言葉の端々に出てくる前向きな人生観や仕事への積極的な取り組み姿勢が、これらの出会いを引き寄せたのではないかと思わせるのである。 確かに高校生時代からの途中失明であり、漢字を知っていたことがこの音声ワープロの習得に大いに役立ち、ラッキーだったとおっしゃるが、それまでのご苦労や葛藤の中から創り上げてきたのであろうあの明るく前向きな言葉が、従業員からの信頼を得、「身体だけでなく、気分もマッサージしてもらうんだ」という利用者さんがいるということをお聞きし、何か納得してしまうものを感じた。 さらにもう一つの側面は、会社側の人の育て方・仕事の与え方や考え方であろう。 地元に根づいた長年の『物づくり技術』が企業の伝統として受け継がれ、製品づくりだけでなく、“人づくり・人創り”に活かされており、社員に思い切った仕事の与え方をし、「やる気」に応えるというビジョンが社内の活気を生んでいるのにちがいないと感じながら、取材を終えたのである。 |

執筆者:吉江 英夫 |

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