重度障害者の多数雇用を維持する第3セクタ－企業
2003年度作成
| 事業所名 | 株式会社サン・シング東海 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 岐阜県損斐郡大野町 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 寝具の製造・打ち直し | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 46名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 24名
 |
 |
1.事業所の概要
| 岐阜県と大野町、株式会社ト－カイにより設立された岐阜県では初めての第3セクターの重度障害者多数雇用企業である。現在、全体の職員数は46名で、そのうち障害者を24名雇用している。知的障害の方が21名、身体障害の方が3名である。療育手帳でA判定の方が3名、そのうち1名は知的障害と身体障害の重複障害である。その他の方はB判定である。 主に病院や寮などの寝具（貸し布団）の製造・打ち直しを行っている。株式会社ト－カイの下請け的な位置づけで始まったが、最近では、枕の製作や羽毛布団のリフォ－ムなど、独自の事業も展開している。なお、平成15年5月に、特例子会社として承認された。 |
2.設立の経緯・背景
 株式会社トーカイの洗濯工場（病院、ホテル、ダストコントロ－ル用のリネン）において、当時の法定雇用率1.6％を大きく上回る2.4％の障害者を雇用していた実績があり、障害者にやさしい、理解のある会社として認められていた。岐阜県において、第三セクター方式の重度障害者多数雇用事業所の設立が要請され、当社に白羽の矢が当たり、1993年に「株式会社サン・シング東海」として出発した。 |
3.作業内容と配置
 布団の製造と加工は、綿と布にわけ（解体）、洗濯されたものを点検し補修し（検品・補修）、綿を打ち、布団側の中に綿を入れ（がわさし）、綿を入れた布団を縫う（とじ作業）という4つの工程で完成する。解体作業に5、6人、検品、選別に3人、綿入れ、とじ作業にそれぞれ5，6人が従事している。立った姿勢での繰り返し作業が多い。縫製以外のほとんどの工程が障害者のみによって行われている。親会社から出向した職員が、作業の各部門に1名リ－ダ－・マネ－ジャ－として配置され、作業を監督・指導し、障害者からの相談も受けている。このマネ－ジャ－は4名おり、障害者職業生活相談員という資格をとっている。職業上の指導のみでなく、生活面の指導・援助もおこなっている。また、下肢障害のある女性が事務職に就き、コンピュ－タ業務、接待を行っているが、知的障害者、特に女性社員の相談相手となっている。 |
 |
4.勤務時間及び賃金
| 勤務は月曜から金曜までで、時間は8時半から5時半までである。給料については、月給制で能力に応じて若干差をつけている。知的障害のある者については、最高で12万7千円、最低で11万2千円となっている。 なかには、給料に見合う仕事をこなせない人がいる。ふつうなら1日で120枚こなせるところ、20～30枚、調子がよくて60枚くらいしかできない人もいる。まず、自分の能力を自覚させ、もっとできる、がんばろうという気持ちを起こさせるように努めている。自分でできそうな数を申告し、できた数を報告させる。そうした繰り返しの中で、自分で目標を出して、ひたむきに努力する人が徐々に増えてきた。 |
5.人間関係への配慮
| 知的障害のある従業員のなかには、自閉的傾向があり、人間関係で問題をかかえる人もいる。入社当時から誰とも話さない、挨拶もしないが、朝礼の挨拶はしっかりとできたりするなどで、孤立気味である。他にも、ちょっとしたことで腹を立て、仲間に暴言をはいたり、こづいたり蹴ったりなどのいじめをする人もあった。そういった場合には会社の取り組みが大切になる。いじめは、本人が言わないので見つけにくいが、明らかに問題だと思われるときは、当事者を割り出して注意している。 基本としては、ノーマライゼーションの理念に立ち、障害者の権利を第一に考えていきたい。そのために、スタッフ同士のコミュニケ－ションを積極的に図り、それが苦手な人には特に配慮することを提唱している。また、人間関係が悪化した場合は、配置転換するなどの対策をとっており、たいていそれで解決する。自分から部署を変わりたいと申告する場合もある。ただし、配置がえをしても、作業内容でうまくいかない人もいる。様々な作業を行うことができる人は少なく、1つの作業に習熟するのに時間がかかるという課題もある。 また、職業生活相談員が7人おり、そのうち業務遂行援助者として3人、職業コンサルタントとして1人配置しており、職業、生活面の指導、援助、相談を行っている。人間関係や遅刻、欠勤などの仕事上の生活指導は行うが、なかなか家庭生活の援助までは手が回らない。家庭環境は様々で、必ずしも家族の理解・協力が得られないといった問題もある。もう少し家族が仕事に理解や関心を示し、会社に仕事振りを見に来てもいいのではないかと思う。 |
6.通勤及び福利厚生
| 通勤は、直接自転車などで来る人と、最寄りの駅からの会社の送迎バスを利用する人がいる。対人関係がうまくいかない人同士がかち合わないよう、時間をずらしたりバスをかえたりという工夫もしている。 年2回の健康診断や年1回の社員旅行、株式会社ト－カイと共同でウォ－クラリ－やゲ－ムなどのレクリエ－ションも行っている。そのときは家族にも参加をよびかけている。 |
7.今後の展望
| 現在、月に16,000枚ほどの布団を生産しているが、需要が徐々に減少してきており、枕の製造、羽毛布団のリフォ-ムなど、新たな仕事を増やしてカバ-している。更には、ユ-ザ-のニ-ズに変化が起きており、掛け布団を作り替えるのではなく、丸洗い洗濯をして再利用するという傾向が現れており、新たな事業として布団の洗濯に取り組むことを考えている。新しい事業を始めることで、仕事の確保と雇用の継続・維持を図りたいが、雇用の拡大までは難しい。 |
8.コメント
| 本事業所では、共に働き、理解するというノーマライゼーションの理念のもと、重度障害者も健常者も、快適に働くことができる環境を創るために、積極的な取り組みが行われている。特に、障害者職業生活相談員の資格を取得し、職場での仕事や生活指導をとおして、コミュニケ－ションが困難な方や対人関係のうまくいかない方への援助が行われるなど、きめ細かな配慮が伺える。そのためか、定着率もよく、創業当初より勤続している人が多数を占めているようである。 建物や、生産設備などは新しく、居住環境もゆったりとした感があり、障害者の快適性、安全性への配慮が感じられる。前身となる洗濯工場の時代から、障害者に向いた仕事を開発し、雇用の場を提供し、知的障害者の多数雇用を継続・拡大してきたことで、雇用管理上のノウハウを蓄積しており、周囲のサポ－ト体制も充実しており、これまで順調に運営されているようである。あらたな障害者の雇用機会の創出が期待されるところである。 |
| 執筆者：中部学院大学短期大学部助教授 稲垣 貴彦 |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。
