12年を経過した特例子会社の課題
2003年度作成
事業所名 | ワイピービジネスサービス株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 静岡県浜松市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | データ入力、計算サービス | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 20名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 17名
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1.事業所の概要
親会社であるヤマハ株式会社100%出資の特例子会社。従業員25,000名を擁する大企業である。資本金は2千万円。 楽器、スポーツ用品、AV機器、半導体等広範な製品を製造し、また音楽、教育、メディアなどに多彩な事業活動を展開、グループにはオートバイ、ボートのヤマハ発動機もある。 行政の障害者雇用率達成の指導が行われる中で、雇用率未達成の克服と大企業の社会的責任を果たすべく、平成元年12月にワイピービジネスサービス(株)(以下YPB)を設立、平成2年4月より業務を開始した。 当時はワープロすら稀少な時代。事業はコンピューターでのデータ入力業務を中心とし、最初は2名でスタート、以後業務を拡大し増員を図ってきた。 事業活動開始から2年を過ぎた平成4年5月、静岡県第2号の特例子会社としての認定を受けた。 |
2.12年の環境変化
(1)パソコンの普及 |
この間、オフィスにはパソコンが普及し、従来行ってきた通常業務のデータ入力はYPBに委託することなく各現場で処理出来るようになり、またワープロ的作業も次第に少なくなり今後もそれほど期待できない状況に変化してきている。 これは一挙に変化したわけではないが、数年前から「安定的、継続的業務の確保」ということがYPBにとって常に最大の課題になってきた。 |
(2)設立時の関係者の異動等 |
当時の関係者が、親会社を含めて異動や退職で次第に少なくなり、当初の設立の意図、認定の経過、苦労などを知る人は数えるほどになっている。 現在の常勤取締役であるO氏(事実上の代表者)も、2年余前に全く異なる部署から赴任した方で、「就任の話があるまでYPBの存在を知らなかった」とのこと。 |
(3)会社の移転 |
また、親会社ヤマハの事業活動、組織の拡大・変革に伴い、子会社も含めて各部門の配置とスペース効率化が検討され、それまでフェンスの外にあったYPBもヤマハ構内の棟に移転することとなった。 |
3.変化への対応
(1)就労環境の再整備 |
従来より、(イ)VDT作業中心のため、就業時間(9~17時)中の休憩を定時にとり実働6時間以下にする、(ロ)データー・エントリー装置で肢体障害者等の入力作業を容易にする、など働きやすい条件を整えてきた。 平成15年9月、会社移転を契機に、働く基盤を再整備の上新たな飛躍を目指そうと、建物・付帯設備を見直し、障害者の働く環境改善に取り組んだ。 ・障害者用駐車場5台分の確保 ・専用トイレの増設、既設設備の改造 ・玄関や事務所・トイレ等出入り口の自動ドア設置 ・玄関口ポーチの設置(雨天通勤時の車乗降に配慮) ・作業室内に休憩場所(設備)の確保 など |
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(2)取扱業務の拡大 |
データ入力・集計・加工、文書作成等の業務が、現在も主要業務であることは変わりないが、業務の減少に伴い以下のような新たな分野に取り組んでいる。 ・OCR読み取り-タイムカード読み取り ・スキャニング-社内報の全巻CD-ROM記録 ・Power Point 資料作成 ・録音テープ起し ・DM発送作業 など |
4.現在の課題と望ましい方向
(1)モデル職場として |
再整備により、就業環境は障害者に配慮された一層使いやすいものになっている。 重度障害者も安心して働くことの出来る職場として、近隣の養護学校をはじめ、一般の中学、高校からの見学も多い。定着率も極めて良好な状態で推移している。 希望を言えば、この重度障害者のモデル職場が、在宅、在校障害者のあこがれの職場となるよう今後新規採用を是非とも実現していただきたいものである。 |
(2)営業努力 |
この「営業」は採算とか収益の問題ではなく、安定した「仕事の確保」である。 17名の障害者をはじめ全社員が継続的に取組むことの出来る仕事が望ましいが、現在は「スポット的」で多様な仕事となり、指導員の対応のご苦労も多いと思う。 取締役のО氏はじめ職員が、ヤマハ社内の各部門に声をかけYPBのアピールをし「受注」をするということが重要な仕事になっている。DM発送など他の子会社の業務をYPBで引受けるなど、ヤマハ社内の外注仕事をとりこむことで“ヤマハの利益に貢献する”という誇りを持つことも大事だとО氏は考えている。 この結果、YPBの存在も徐々に認識されるようになり、この2月は例年は全く閑散な時期だが、今年は「残業が必要か」という嬉しい誤算も生じている。 また、最近О氏は知人を頼って、社会保険事務局を訪問。診療報酬請求にかかるレセプトのデータ入力業務を受注できないかアプローチをするなど積極的な「営業」活動もすすめている。再委託禁止などの規制やYPBの対応能力などですぐに実現することではないが、能力開発も視野に入れつつ、新たな方面への業務拡大の方向性は評価すべきであると思う。 |
(3)親会社のYPBの位置づけ |
ヤマハ(株)の、YPB設立・運営だけでなく企業全体の障害者雇用に対する努力と成果に対して深い敬意と感謝の念を表しつつ以下のことを記したい。 子会社設立検討の経緯から当然の結果と考えられるが、事実上YPBはヤマハ人事部の直轄子会社という印象である。社長をヤマハ人事部長が兼任し、仕事はヤマハとの業務委託契約だが、人事部関係のものが主要な部分を占めているようにみえる。 しかし、特例子会社認定から12年を経過した現在、YPBの今後のあり方を考えるとき、ヤマハの全社的な理解と支援に支えられた組織にできないか、ということである。日本国内だけでも多様な事業と数多くの事業所があり、関連子会社も多く、各事業所からは多様な仕事が外注されていると想像される。 YPBによる重度障害者の多数雇用実現からさらに一歩進めて、より安定的な業務の供給を、改めて会社として組織的に検討をしていただきたいというのが希望である。 |
5.まとめ
障害者雇用促進法に基づく特例子会社は、昭和52年3月に第一号が承認されて以来25年余、この間に設立された事業所は130社を越えている。この制度は、重度身体障害者や知的障害者をはじめ障害者の雇用促進と、当時遅れていた大企業の雇用率達成の推進に寄与し、多くの障害者の励ましになった。 しかしながら年月の経過は、自身や周囲の状況の変化を伴い、特例子会社全ての事情が同じとは思わないが、少なくともこのYPBの12年の歳月は、様々な課題を生じており、「このままでいいのだろうか」というふうに感じざるを得ない。 規制緩和や企業間競争の激しい時代ではあるが、例えば公的業務を、特例子会社のような企業が優先的に受注できる仕組みを機能させる(厚生労働省から各都道府県に通達されているようだが、末端の出先機関まで趣旨が徹底しているとは思えない状況にある)とか、継続的な運営状況確認と親会社も含めて専門的相談指導を行うなど、設立後の行政(障害者雇用促進協会)の特別のバックアップも「施策」として実施することが必要ではないかと考える。 障害者雇用に大きく貢献しているYPBをみながら、「仕事がある」ということが、働く人の意欲や技能の向上につながり、企業としての活性化と一層の拡大発展につながると信ずるからである。 |
執筆者:障害者雇用推進技術顧問 中島 義夫 |
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