障害を持っていても重要な戦力です
2003年度作成
事業所名 | 株式会社 伊勢ディナーサービス | |||||||||||||||||||||
所在地 | 三重県松阪市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 夕食材料及び給食の製造、宅配業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 53名(平成15年12月現在) | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 6名
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1.障害者雇用の経緯と従業員理解
株式会社伊勢ディナーサービスでは、昭和59年に最初の知的障害の方を、地元の知的障害者更生施設からの紹介で採用した事がきっかけで、現在では6名の方を雇用するにいたっている。 雇用を始めた当初は、健常者である従業員の反対が強く、『我々(健常者)を取るのか、障害者を取るのか』ということを迫られた事もあったが、そのような行動に対しても、社長をはじめ管理職が常に対話をし理解を求める中で、次第にどの従業員も協力的になっていった、という経過があった。 従業員の理解を深める要素の一つに、職務遂行援助者(以下、援助者)を選任する際の基準について、通常は、フルタイム労働者でなおかつ一定程度の経験を持つ人を選任していることが多いが、この事業所のユニークなのは、『障害者雇用に最も積極的ではない人』を選任していることである。 その他に重要なポイントとなったのが、地元ケーブルテレビ局による取材だったそうだ。近隣の養護学校高等部の児童と保護者がバスで事業所見学に来るのを、ケーブルテレビ局が取材するということで、『自分たちの会社が取り組んでいる事が、社会的に見て非常に意義のあることだ』ということを従業員が理解をする一助となったと考えられる。もしかすると、従業員たちがそのケーブルテレビに映る事で、知らず知らずの内に地域社会からも注目が集まり、良い意味での監視役がついたということが出来るのかもしれない。 障害者雇用を円滑に進めるうえで、最も障害者雇用に積極的ではない人を敢えて障害を持つ人の援助者として選任し、各工程のラインの責任者でもあるその援助者が、障害者雇用に関する様々な研修を嫌々ながらも受ける中で、次第に障害者雇用に理解を示すようになる。そして最も積極的でない人が積極的に障害者雇用に関わる様に変化する事によって、その各工程のライン全体が積極的に取り組む事が出来るようになる、という考え方を実践から得られ、結果として、現在の状況があるということだった。 |

2.各工程で重要な戦力に
現在のところ、各工程で、6名の障害を持つ従業員(以下、障害従業員)がいるが、全員が正規雇用の従業員として、最低賃金水準ではあるが、雇用されている。 障害従業員の個々の仕事については、視力低下の著しい1名を除き、それぞれ野菜カットと袋詰め、箱洗浄とセッティング、箱洗浄とセッティング及び管理、弁当箱分解と弁当箱洗浄、弁当箱洗浄、となっている。またこれとは別で、昼食の製造ラインや夕食の製造ラインに従事している者もいる。 障害従業員それぞれが、各工程において重要な役割を担っているというエピソードがある。ある障害従業員の家族からお盆休暇の取得について電話があったときのこと。障害従業員の家族から、「会社の休みを超過して、その従業員を休ませてもらいたい」と電話があったのに対して、担当の責任者が『○○さんがおられないと、作業が出来なくなってうちは困るんです。休ませないで下さい。』ということを家族に話し、それを聴いた家族の方が自分の子どもが会社で必要とされていることを理解し、休ませる事を諦め、その後は積極的に会社にも関わるようになったということだった。おそらくその家族は『うちの子一人ぐらい休んでも…』という気持ちであったのだろう、と考えられるが、その考え方が障害を持つ子どもが成長する上で障害となっているのではないか、と社長は話された。 |

3.作業工程での配慮として
(1)弁当製造 |

障害従業員に対する作業場の配慮としては、例えば早朝に製造するお弁当については、あまり重さを気にしなくてもよい漬物の配置や、惣菜を入れるアルミのケースを配置していく作業についている。作業自体は流れ作業になるので、様々な人のチェックを入れることが可能なラインの最初のほうに障害従業員が配置されている。 |

(2)夕食材料セット |

次に夕食材料のセットの作業では、お弁当の製造作業と同様にラインの最初に障害従業員が配置されている。またこのラインでは最後に夕食材料の入れ物に蓋をする作業に障害従業員が配置をされている。毎日数種類のパターンがあり、それぞれに決められた具材をスチロールケースに詰めていく作業だが、準備段階において、パターンごとに区切られた入れ物を用意し、それぞれ次の日に必要な具材を個別に包装し、パターンごとに順番に並べられていた。当日早朝に配送されてくる豆腐などの具材もあるようだが、ほとんどのものは前日の準備段階から障害従業員も一緒になって行っているとのことであった。 当日の作業としては全員が同じパターンであることを確認するために、そのパターンを記入した札を流すようにしていた。一般の従業員であっても一度に入れる具材が3種類を超えると間違う確率が高くなるため、障害従業員の場合は2種類まで、というような配慮がなされていた。手順としてはライン責任者が具材を読み上げ、それを担当する人が返事をし、最終確認として数が合っているかを順に数えていくという手法がとられていた。具材を入れる位置は、確認が必要であればその都度、ライン責任者がどのように配置していくのかを指示していた。もし途中で具材が不足したり、最後にあまったりした場合は、どこかに入れ忘れや余分に入れている可能性があるため、すぐに報告をし、再度そのパターンの夕食材料セットを確認する作業をしていた。 このラインに従事している障害従業員の方々は、作業のパターンをよく覚えているために、次にどのケースを用意すればよいかという指示は特に出されていなかった。また、自分が担当する具材は自分達で用意をし、周囲が乱雑であれば可能な限り整理をするようにしていた。 これらの夕食材料セットについては、前日までにスチロールケースに中敷を入れ、必要な数だけ積み上げるという作業があるが、この作業を担当しているのは、数を数えることが出来ない障害従業員で、目印を決めてそこまで積み上げてください、という指示を出しているということであった。またケースの蓋については、それぞれのパターンごとのシールが張られており、そのシールごとにまとめてセッティングされており、そのパターンが終了すれば決められた場所に収納し、次のパターンの蓋を用意する作業をする、という手順で行っていた。 |

(3)弁当箱洗浄 |

最後に一人だけ視力低下が著しい障害従業員についてだが、お弁当の製造や夕食材料のセットは細かい作業で、技術的に困難であるため、作業の安全性を考慮して、洗い場において、前日までに返却されてきたお弁当箱を洗浄する準備をしていた。具体的には、お弁当箱と蓋とを分ける、お弁当箱に残っている残飯を出して集めるという比較的動作の簡単な作業で、ある程度の視力低下までは対応が可能な作業部所に配置されており、気配りが感じられた。 |

4.採用後の教育と職場適応
採用後の職業トレーニング(OJT)は、マンツーマンで約半年から、長い人で1年半かかっているとのことであった。どの作業が一番その障害従業員にとって合っているのか、ということについては、作業のローテーションを組む中で見出していくということをされていた。現在採用しているのはすべて女性だが、男性はこれまでに採用した人にトラブルが続いているために、現在は採用を見合わせているとのことだった。しかしながら職場そのものの男女比率を考えても圧倒的に女性が多く、流れとしては自然の成り行きという部分があるように感じた。 職場適応については、養護学校の教員が半年に1度の割合で訪問しており、職業安定所も対応してくれているので問題は余りないということであった。また障害従業員の家族もかなり頻繁に事業所に足を運んでおり、事業所での様子や家庭での様子についても情報交換は出来ている為に、問題が深刻化することが余りないように見受けられた。 過去にあったトラブルでは、列車で通勤をしている障害従業員が、高校生に絡まれて殴られるということがあり、その時は通勤の見守りを従業員で行ったこともあるそうだ。 |

5.今後の展望として
伊勢ディナーサービスの今後の展望をお聞きしたところ、障害従業員の親亡き後を考えて、グループホームを作りたいと考えており、グループホーム立ち上げの窓口として、NPO法人を設立し準備に入ったが、本体業務が忙しいためになかなかそちらまで手が回らないというお話であった。また雇用枠の拡大については、現在、経済情勢が厳しくすぐの雇用拡大は難しいが、情勢が好転し仕事が拡大すれば障害者を主に雇用を拡大することも検討できる、というお話であった。 これに関連して、将来的には障害従業員だけの職場を作ることなども構想しておられ、非常に積極的に取り組みをしておられる姿勢が感じられた。 |

6.まとめにかえて
株式会社伊勢ディナーサービスにおいて障害者雇用を継続できている背景には、次のようなことが考えられる。
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執筆者:佛教大学大学院博士後期課程社会学・社会福祉学研究科 尾崎 剛志 |

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