「私も働きたい」という願いを叶えるために
2003年度作成
事業所名 | 山口部品株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山口県美祢郡美東町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 電気機械器具製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 305名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 7名
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![]() 本社工場(山口県美東町) |
1.山口部品株式会社と障害者雇用
わが国屈指の景勝地“秋吉台”に隣接する美東町に、広々とした敷地をもつ山口部品株式会社の本社がある。山口県の企業誘致により、昭和59年3月に設立された当社は、現在、本社工場、萩製造所、長門製造所、山口工場の4工場を有している。国内大手自動車メーカーのワイヤーハーネス(自動車用組電線)の生産を中核とし、太陽熱温水器の販売施工、LPガス設置工事、CAE設計業務、介護サービス事業等を業務の柱としている。 県や地元からの要請と創立者のリーダーシップにより、障害者雇用については会社の設立当初より果敢に開始された。まず、地域の養護学校から知的障害や肢体不自由の卒業生を採用したのを初めとし、その後一般の学校からも聴覚障害者や内部障害者を採用し、現在に至っている。 |

2.安定就労をめざした取り組み
障害者の雇用と安定就労に向けて指揮をとっておられる西村廣明課長に話を伺った。 「現在、当社は法定雇用率を達成しており、お陰様で調整金もいただいております。また、施設設置等助成金で社内のバリアフリー化に向けた改造も進めました」 |

(1)CAE設計業務の部署 |

美東町にある本社には、肢体不自由者2名、聴覚障害者2名が働いている。 肢体不自由者2名のうち、1名(上肢・下肢障害;身体障害者手帳4級)が勤務するのはCAE設計業務の部署である。当業務の社屋入口には、スロープと自動ドアが設置され、すぐそばに障害者用駐車スペースが確保されている。社屋内では、しんと静まりかえった中、20数名の社員がそれぞれのパソコン画面上で設計図作成に取り組んでいる。全ての作業がバリアフリーのワンフロアで進められるため、下肢障害のある社員も業務に支障は生じない。パソコン室の隣には休息用のコミュニティールームがあり、休憩時間には社員同士の会話がはずむ。トイレには手すり付きの身体障害者用便器と、車いすを方向変換させるに十分なスペースが確保されている。 |

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(2)ワイヤーハーネス(自動車用組電線)生産の部署 |

聴覚障害者2名のうち、1名(両耳全失聴;身体障害者手帳2級)が勤務するのはワイヤーハーネスの電線自動切断の部署である。きびきびと作業に取り組んむYさんは両耳全失聴のため、安全確認用等の情報をパイロットランプの点滅で把握している。 |

そして、社内での円滑なコミュニケーション支援の役を担うのが、そばで働くMさんである。Yさんは、Mさんとの筆談や読唇(相手の唇の動きを見てことばを理解する)で意思の疎通をはかっている。聴覚障害者はその障害ゆえに必要な情報から隔絶される状況が生じやすいため、Mさんのような支援者がそばにいることは聴覚障害者の安定就労を促進させる上で大きな意義があるといえよう。 もう1名(平衡機能障害;身体障害者手帳6級)が勤務するのはワイヤーハーネスの材料搬入の部署である。音声言語を介したコミュニケーションは可能であり、同僚社員とともに搬入作業にてきぱきと取り組んでいる。 | ![]() 作業に取り組むYさん(両耳全失聴) |

(3)福祉工場見学と関係機関からの支援 |

「実は、肢体不自由者や聴覚障害者の採用にあたっては、当初会社側に若干の不安があったのは事実です」と西村課長は語る。 「そこで、障害者を数多く雇用している県内の身体障害者福祉工場に見学に行かせてもらいました。そして、そこでたくましく働いている人たちの姿を見て、これなら採用しても大丈夫!と思いました。さらに、ハローワーク(公共職業安定所)や労働局からの強いご支援もありましたので、採用にふみきることができました」 |

(4) 障害者職業生活相談員の配置 |

当社では、本社工場、萩製造所、長門製造所、山口工場の4工場に障害者職業生活相談員をそれぞれ1名ずつ配置している。かつては、総務担当の社員が苦情等に対応していたが、現在では資格認定講習を修了した社員を中心に、会社が組織的に対応する体制ができている。ただ、内容によっては西村課長が対応することもあるという。 「各工場の相談員は、皆よく対応してくれています。全員が前もって資格認定講習(2日間)を受講したのですが、この研修により“障害者の悩みを見て見ぬふりはできない”という前向きな姿勢が相談員に身についてきたようです」と西村課長は微笑む。 |

3.新規事業による雇用創出
当社は設立当初、ワイヤーハーネスなどの自動車部品の製造を業務の中核としてきた。しかし、コスト削減のために国内の工場が海外移転を進めるなか、いわゆる国内空洞化の現象が生じてきた。こうした時代背景のもと、国内の余剰人員を吸収するための雇用創出を旗印に掲げ、当社はCAE設計業務や介護サービス事業等の新規事業を開始した。このように、国内に目を向けた積極的な取り組みが、ひいては障害者雇用の機会拡大につながっていることは注目される。 介護サービス事業については、製造を中核としてきた当社にあって一見異色とも思われるが、これまでの社会通念をうち破る取り組みであろう。この事業は、地域に居住する高齢者への身体介護、家事援助、相談助言等の活動が中心である。現時点で当事業に障害者は参画していないが、知的障害者が介護の仕事に就く実践報告が昨今全国的に紹介され始めており、今後の当事業の展開が期待される。なお、この事業を開始するにあたっては、当社がこれまで障害者雇用を進めていた関係から、福祉事務所や社会福祉協議会等と円滑に連携することができた。 |

4.障害者の就労面と生活面を支える
「地域障害者雇用支援ネットワーク研究会」(1999)は、事業所が障害者雇用をためらう原因として、[1]障害者にどう働いてもらえば良いか分からない(雇用管理に係わる内容)、[2]職場を離れた日常生活面や働き続けられなくなったときの対応が分からない(事業所の責任領域に係わる内容)等を指摘している。 大手企業では、いわゆる中小企業にみられるような面倒見の良い雇用関係は期待しにくいため、障害者の受け入れを推進するには、「企業にとって対応可能な内容」と「対応困難な内容」を整理し、後者については企業外の支援機関がサポートするといった体制を整備するなどの取り組みが必要となると思われる。 |

(1)聴覚障害の社員への支援 |

前述したように、当社では聴覚障害の社員との意思疎通について、主に筆談を手段としているが、2~3ヶ月に1回、地元の社会福祉協議会より専門の手話通訳者を職場に呼ぶことで、さらなる適切な支援につなげる試みを継続している。聴覚障害者にとって、最もリラックスできるコミュニケーション手段は手話であるといわれている。仮に職場での悩みや会社への要望などがあれば、その社員は手話通訳者に手話を用いながら心おきなく伝えることができる。そして手話通訳者は共感しつつ正しく理解し、内容によっては職場に適切に伝えることで、事業所として諸問題への早期対応が可能となる。この取り組みは、社外の支援機関が事業所をサポートする体制ということができ、聴覚障害者の安定就労を促進させる実践として注目できる。 「手話通訳者は、聴覚障害の社員にとって心許せる人でないといけません。今、ふたりの関係は良好です。通訳者は社外の社会福祉協議会からおいでになるということもあり、社員も遠慮せずに何でも伝えられるようですね。現在当社では、職場上の問題や軋轢などは特に生じていません」と西村課長は語る。 |

(2)知的障害の社員への支援 |

就職後に安定して働き続けるには、職場における支援とともに、職場を離れた日常生活に関する支援も必要とされる場合がある。例えば家庭内の諸事情により、○経済的な困窮、○子弟の養育上の問題、○金銭管理の問題等が社員に生じることもある。生活面の安定と就労面の安定は表裏一体の関係にあるため、事業所としても気がかりな事態である。しかし、生活面への支援については、ややもすると家庭生活のプライバシーに踏み込んでしまう可能性もある。また、日々忙しい事業所としても、社員の就労上の支援に加え、生活面への支援に力を注ぐことには困難が生じよう。当社では、障害者職業生活相談員が日常生じる諸問題への対応にあたっているが、内容によっては福祉サイドからの支援(例;社会福祉協議会や保健婦等からの支援)も念頭においている。この取り組みも、社外の支援機関が事業所をサポートする体制といえよう。諸問題を社内でかかえ込まず、地域の支援機関を活用するという柔軟な姿勢がここにある。 |

5.就労による自己実現
知的障害者への支援に長年尽力した池田太郎(1984)は、障害者が胸にいだく願いとして、[1]私も働きたい、[2]無用の存在でなく有用の存在であると認められたい、[3]みんなと一緒にくらしたい、[4]楽しく生きたい、の4つがあることを指摘した。今も、事業所への就労が究極の社会参加であることはおそらく異論のないところであろう。山口部品株式会社は、障害者の「私も働きたい」という熱い願いを叶え、就労という社会参加を通しての自己実現を支援する取り組みを今日も継続している。 【引用文献】 ○地域障害者雇用支援ネットワーク研究会:地域障害者雇用支援ネットワークの形成,日本障 害者雇用促進協会障害者雇用管理等講習シリーズNo.158,pp17-19(1999) ○池田太郎:青年期以降の生活の充実,「精神薄弱児研究」,No.318,pp12-17(1984) |

執筆者:山口大学教育学部 松田 信夫 |

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