障害者が意欲的に社会参加できる営利企業を目指して
2003年度作成
事業所名 | 株式会社コーケン | |||||||||||||||||||||
所在地 | 高知県南国市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 水道メーター(計量器)の製造・改修修理・組立 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 34名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 14名
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1.事業所の概要
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2.会社設立の背景、経緯
「コーケン」は、障害者が意欲的に社会参加できる場にと昭和59年に設立された。当初は5名で出発したが、現在、正社員は27名、そのうち知的障害者が8名、身体障害者が5名、精神障害者が1名である。仕事は、水道メーターの法定検査と協力企業である業界大手のリコーエレメックス株式会社から発注されたメーターのOEM生産(相手先ブランドによる生産)を行っている。 社名は、2つの意味から名付けられた。1つは『社会福祉に貢献する』こと。自身も車いす生活の重度障害者である水口社長が「障害者がそれぞれの障害の種類に適応し、それぞれの障害の特質を活かせるような場があれば」と考え、「障害者の自立に役立つ、営利企業を目指した」法人会社を設立した。 もう一つは『高知で検査する』こと。そもそも水道メーターは耐用年数の8年以内に法定検査を受けることになっている。しかし、「コーケン」が設立されるまでは、メーターの修理、検査は市町村が県外の業者に発注していた。水口社長らは「地場産業を育てるためにも力添えを」と陳情に回ったという。 県外業者との受注競争が激しい中、同社は平成14年4月、計量法に基づく国の「指定製造事業者」の指定を取得した。これによって従来、県の機関に依頼していた製品の適合検査を自社で実施できるようになり、「経費の削減となり競争力や技術力、信用力がアップした」とのこと。また、高知県内の自治体では、「コーケン」利用率が年々高くなっており、地元の理解も深まっている。 |
3.作業内容と障害者
検査作業は、県内外の自治体から受注した計量器を分解し、内部の計測器を新しい部品と交換、再塗装後、通水検査などを実施する。通水検査では、国家検定で定められている±2%の誤差をクリアしなければならず、そのためには「品質管理のノウハウを社員全員に正しく周知させ、徹底して行うことが必要である」とのこと。 水道メーターの製造工場での勤務というのは繰り返しの作業が多いが正確さが要求される。しかし、「それぞれの特性に応じたポジションについた障害者は、自分の能力の範囲で精一杯作業をするという態度が印象的である」とのこと。すべての作業工程において障害者は十分な教育訓練を行っており、重要な活躍の場となっている。 |
4.施設・設備などハード面の工夫
(1)安全面 |
工場内にある機器類については、障害者ということで、「2ボタン」式のセイフティー装置をとりつけ、2重3重の安全面への配慮がなされている。また、工場内は段差をなくするなどバリアフリー環境が整えられている。特に、作業台やラインは、立位用と車いすのままできる座位用の2種類を設けて、障害者に配慮した設備になっている。 |
(2)生産面 |
「全てを自動化すると人はいらなくなる。当社は障害者が働くためにできた場。半自動化することによって、障害者がすべての工程において働くことができる」という考えから、各作業工程の半自動化を行っている。そのほか、車いすの人の目線に合わせて作業台を低床化するなどの作業台のレベル調整、コンベアーや移動用台車の活用など、作業設備全般において障害者が使いやすいよう工夫がこらされている。 その一例として、赤外線センサーによって水位を正確に計測する機械の導入があげられていた。このような機械の導入によって、「障害者1人で機械を操作することが容易になった」とのこと。 このように、「コーケン」では機械にストッパーを付けたり、赤外線センサーで水位を計測できるようにするなど、自社で市販されている機械を障害者が使いやすいように改造している。そうして要所要所に機械を導入することによって、障害者が作業できる幅を広げていくという視点を大切にしている。 |
5.ソフト面の工夫
(1)雇用管理 |
[1]募集・採用 現在は公共職業安定所からの紹介、または養護施設などの障害者施設の窓口を通じて募集・採用を行うという方法を取っている。採用に当たっては、基本的に本人と面接を行うが、本人が養護学校を卒業したばかりの未成年の場合は、親を交えた面接を行う。正式採用に当たっては、「本人のやる気」「適用能力」「継続性」などの職務志向をみるためにテストパターン的なものを行っている。 [2]賃金 賃金については、少ない人は最低賃金となっており、月に10万円ぐらいである。多い人は月に25万円ぐらいとなっている。また、給与については月給と時給との2通りがある。月給は平均の勤務年数が10年ぐらいの人となっている。障害者の場合、20歳になったら障害者年金がもらえるが、「年金はハンディの穴埋めであり、自分の働いたお金で生活できることが障害者にとって大切なこと」とのこと。 [3]昇格・昇進 一般企業と同じく本人の勤務状態や勤務成績で決めている。 [4]労働時間 労働時間は朝8時半から17時まで、原則週40時間であり、週休2日制をとっている。 |
(2)職場配置 |
「興味がもてるポジション、そして達成感があるポジションで働くことが大切であり、そのポジションも障害者それぞれの特性に応じて十人十彩である」とのこと。そのポジションの見つけ方は、本人が「これをやりたい」という場合と、周りの人に「これができる」と教えられる場合の2通りがあり、適正なポジションについた障害者はみな使命感をもって仕事に取り組んでいる。 定着力もよく、最も長い人は会社設立から19年間勤務しており、その間1日も仕事を休んだことがないという。 |
(3)教育訓練 |
作業に必要な技術や知識があるかどうかを評価するために、作業者認定評価を行うなど、教育訓練は徹底して行っている。作業者認定評価は、同じ勤務年数の人でもそれぞれに個性があるため、仕事に必要な技術・知識を調査するために行っている。 その技術・知識を取得するための教育訓練は巻き返し、繰り返ししながら身体に染み付くような方法で行っている。「このような教育訓練を5~6年間継続した社員であれば、必要な認定は全て取得することができる。」とのこと。但し、養護学校を卒業したばかりの人には半年の間、作業プロセスを一部分ずつ順に行ってもらうという方法をとっている。 |
(4)福利厚生・健康管理 |
健康管理については、本人やその家族にとって大切な問題である。本人や家族も日々の健康管理には気を配っている。また、病気の状況に応じて定期的に病院に行くなど、健康診断は個人ごとに必要に応じて行っており、健康保険にも加入している。 福利厚生としては、釣り大会、ボーリング大会などを開催している。 |
(5)やる気づくり |
自分で生活できるための収入を得ることが働く喜びにつながっている。そのためには、「目標意識を持たせるために、達成する目標をつくること」「国の検定試験に合格するためにも、誤差を調整するための品質管理のノウハウを社員全員に正しく周知させること」が必要であるという。 |
(6)父兄・養護学校・医療機関との連絡 |
「障害者の就労においては、父兄や医療機関などとの連携が重要である。当社でも家族、養護学校、病院などの医療機関との連絡は密に行っている。特に知的障害者や精神障害者については体調管理が難しいので気をつけている」とのこと。 養護学校とは、県内の養護学校に行って障害者の職業的自立や社会人としての自覚、働くことなどについて講演をしたり、養護学校や施設の生徒を職場実習として受け入れるなど連携を密にしている。 「父兄のなかには、自分の子が職場にいるというよりも大学に通っているという感覚を持つ人もいる」といった話もあった。そのため、職場で働くわが子の様子を知りたいと、父兄が訪れることが日常化している。父兄が訪れたときに、話をすることが会社と保護者の意見交換の良い機会となっている。 |
(7)助成金や各種制度の活用 |
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の扱う助成金のなかで、適応するものを活用している。 |
(8)通勤 |
会社でマイクロバス1台を用意し、送迎の必要な職員について朝晩の送り迎えを行っている。また、送迎が必要ない職員については、家が近い人は自転車で通い、家が遠い職員で自分で運転できる人は改造した自家用車で通っている。職員のなかには、近年普通免許を取得した障害者もいるという。 |
6.取組の効果
障害者でも仕事を持ち、自分の働いたお金で生活ができるという経済的な自立の実現により自信が生まれ、ハンディを感じて閉じこもりがちで内向的な性格であった障害者が外向的になり、社会人としての認識を持つようになったことが重要である。 当社で働いている障害者については、雇用の安定と安定した収入が実現され「納税者」となることにより、障害者本人の職業的な自立を図るという点ではかなり前進したと思われる。また、集団のなかで働くことによって協調・調和の精神を学びながら、「工程・最終品質99.85%、市場クレーム0件」という品質目標に向かって、社員全員が切磋琢磨しながらものづくりに参加することによって、責任感が生まれているという点も大きな効果と言える。 |
7.今後の課題・展望
設立当初からの目的である障害者の職業的自立の実現が最大の課題である。そのため、会社としては、不況の中で大変だが、事業を発展・拡大していきたいと考えている。そうすることが売り上げ倍増=雇用拡大にもつながるからである。また、バブル期のように製品をつくれば売れるという時代は終わった。今は会社としても競争に打ち勝つための体力づくりが必要な時期と考えている。 また、「コーケン」は現在障害者の共同作業所との連携を図っているが、今後はそのネットワークを拡大していきたいと考えている。そのために、将来的には社会福祉法人の設立も検討している。そうすることで、例えば通勤が難しく生活の場が職場(収入の場)となる重度障害者などに、施設内でできる仕事を提供することができるようになればと考えている。ネットワークが様々な地域に広がり、一緒にものづくりに取り組むなかで、必要な「もの」や「お金」は「コーケン」が準備するが、「人」はその地域で提供してもらうというようになれば良いと思う。 |
執筆者:くろしお地域研究所 調査研究部長 浜口 忠信 |
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