働きやすい職場づくりが障害者へのやさしさにつながる
2003年度作成
事業所名 | 九州日本電気株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 熊本県熊本市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 半導体製造 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 2,471名(平成15年11月末現在) | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 33名
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九州日本電気株式会社正面玄関 |
1.事業所の概要
(1)沿革 |
NECの半導体デバイス生産会社として1969年(昭和44年)に設立。 |
(2)事業内容 |
システムLSIをはじめとした最先端の半導体製品(LSI・超LSI)の開発・製造を行っている。 主な製造品目は、マイクロコンピュータ、システムLSI、モスメモリIC、個別半導体など。用途は、パーソナルコンピュータ、ストレージ、EWS/Server、デジタルAV機器、携帯電話、ネットワーク・通信機器、ゲーム、自動車、家電製品と多岐にわたる。 |
(3)経営状況 |
半導体は需要の波が激しく、国内の半導体製造メーカーはこの数年、非常に厳しい時代を耐えてきている。九州日本電気においても従業員数は最盛期の3,700名から2,500名へと圧縮された。 しかし、昨年末あたりから企業の設備投資が伸張しはじめ、プラズマテレビなどのAV家電や自動車の電装関連製品も需要が高まってきた。また、近年停滞していたゲーム機の売れ行きがアメリカで急速に伸びはじめた。 これらに関連する半導体需要の伸びにより、現在、九州日本電気においては新たな半導体製造ラインを増設している。これによって従来あった空きスペースは解消し、本稼動が始まる平成16年4月には、工場開設以来最大の稼働率となる予定である。 但し、このような需要増加が恒常的に維持されるかどうか予測は困難である。そのため、安易な人員増加は避け、まず一人一人の生産性向上を図り、それで不足する部分はグループ企業内での人員の流動やアウトソーシングの活用によって補完する計画となっている。 |
(4)雇用状況 |
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(5)助成金の活用状況 |
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2.九州日本電気における障害者雇用の特徴
九州日本電気における障害者雇用の特徴は、定着率の高さに示されているように障害者・健常者を問わず「働きやすい職場環境」がつくられている点に集約される。障害者の勤続年数は最長30年、特に勤続20年から新規採用を控える6~7年前まではほとんど途切れがない。つまり非常に高い定着率を確保していることの証であり、それは障害者にとって働きやすい職場になっていることを示すものである。 しかし、これはこと障害者にとって特別な施策を実施していることによるものではなく、障害者・健常者を問わず誰にでも働きやすい職場づくりに取り組んだ結果であり、その背景には、安全で働きやすい製造環境づくりを進めることは職場におけるノーマライゼーションを高めることにつながるという基本的な考え方があるのである。 以下、これらの点について順を追って概略を紹介していく。 |
3.安全で効率的な製造環境とノーマライゼーション
九州日本電気の工場は広大な敷地にある。それぞれ巨大な複数の工場棟は連絡路とエレベータで接続され、水平移動、垂直移動がスムーズに行われる。巨大で入り組んだ工場群がひとつのシステムになっており、その効率的な稼動のためには移動の簡易さは大きな意味を持っているのである。そのため、工場内はすべてエレベータでの昇降が可能となっており、また、異なる工場棟の接続部はすべてゆるやかなスロープとなっている。 移動に関しては、工場システムの効率化のために搬送用ロボットも多く活用されており、工場内を歩くと、そのいたるところで通路を行き来するロボットに出会うことができる。決められた直線路だけを往復するという単純なものではなく、複雑な曲がり角を走行し、エレベータで上下移動も行う。工場内の通路を人とロボットが共有しているといった印象である。当然、曲がり角での衝突防止という安全策が必要になり、見通しの悪い角には球面ミラーが設置されている。また、搬送用ロボット自体に警告用のランプが点灯しており、ロボットが近づくと通路天井に設置された警告灯が点滅し、ブザーが鳴る仕組みとなっている。このような警告システムは製造現場にも適用されており、製造ラインの故障や作業終了を知らせるのも聴覚と視覚の両方に訴える仕組みとなっている。 これら工場内移動のしやすさやロボットに付随する警告システムは、そのままノーマライゼーションの思想に沿ったものとなっている。エレベータやスロープは車いすによる施設内移動の困難さを解消しているし、音だけでなく視覚にも訴える告知・警告システムはとりわけ聴覚障害者の多い九州日本電気においては有効に機能し、職場の安心感を高めているものと思われる。誰もが働きやすい環境、五感に訴えて安全性をより高めるシステムが、結果として障害者にとってもやさしい環境になっているといえる。 | 搬送用ロボット 搬送用ロボットが曲がり角を走行中 社員用通路のスロープ |
4.安心して働ける快適な職場環境づくり
職場環境とは前述したようなハード面だけでなされるものではなく、就業のルールや福利厚生制度などのソフト面、さらにはそれらの積み重ねがもたらす企業風土・文化なども大きな影響を与える。九州日本電気においては、これら広い意味の環境も高いレベルで整備されている。 |
例えば、まず法令上の基準は高いレベルでクリアされているし、社員食堂や駐車場も完備されており、職場としての快適性が高く保たれている。また、労働量についてのノルマなどはない一方、交替制勤務へのシフト手当ても手厚く、福利厚生制度も整っている。これらによって快適性とともに労働へのモチベーションが高く保たれているであろうことは想像に難くない。 なお、車いす用トイレも複数設置されているなど、障害者対策についても配慮されていることは今さらいうまでもないだろう。 | 障害者専用トイレ |
5.心と体の健康維持への取り組み
九州日本電気には産業医が保健師3名とともに常駐しており、肉体的な健康管理とともにメンタル面でのカウンセリングにも当たっている。このことは前述してきたハード・ソフト両面にわたる職場環境整備とならんで特筆すべき事項だと思われる。 近年、マスコミ等でもストレスの問題がよく取り上げられる。自然、社会、コミュニティ、家庭や子育てなど我々を取り巻く多様な環境が大きく変化し、個人へのストレスを増しているといわれ、特に近年の不透明な社会情勢や不景気感の下ではさらに重大な問題となっている。ストレス解消策はレクリエーションや趣味の活動、あるいは家族や友人とのコミュニケーションなどがあるが、併せて専門的なカウンセラーの必要性も最近よく耳にする。しかし、精神的なカウンセリングというものについてはまだ我が国では馴染みが薄く、タブー視する意識も少なからず残っている。 その点、産業医という気軽に相談できる存在があり、日常的にカウンセリングを受けられることは働く人にとって大きな安心につながるものであろう。このような取り組みが心身の健康維持や安定化につながり、ひいては職場内での事故やトラブルを防止する効果を上げているものと思われる。 |
6.まとめ:九州日本電気における障害者雇用環境のあり方
最初に述べたように、九州日本電気では障害者雇用のためだけに何かを実施しているわけではない。ハード面の整備、ソフト面の整備、さらには健康管理の面など、そのいずれもが、多くの従業員が快適に安心して働ける環境をつくるという目的のためにあるのである。結果として障害者にとっても働きやすい職場環境になっているとすれば、それはとりもなおさず九州日本電気の取り組みがノーマライゼーションの考え方を実現するものであったということではないだろうか。 誰かを特別な存在として扱い、特別な配慮をするのではなく、誰にとっても働きやすい職場にする。そんな当たり前のことを、しかし、高い水準で整備し、保っていくことは決して簡単なことではないだろう。九州日本電気の職場づくりにおける高い志と企業力がよく示されていると考える。 なお、障害者雇用において大きな問題となるのがコミュニケーションであるが、九州日本電気においては従業員の中から自発的な手話学習活動が生まれるなど、日常的なものとして定着していることを最後に付け加えておきたい。 |
執筆者:有限会社エアーズ 森克彰 |
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