鋭きも鈍きもともに捨てがたし、錐と槌とを使い分けねば～人間はみな平等～
2003年度作成
| 事業所名 | 有限会社ホワイトランドリー | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 大分県日田市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | リネンサプライ。ホテル、病院等の寝具類のクリーニング | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 58名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 28名
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1.障害者雇用の経緯
| 社長室に社訓「心和」とともに掲げられている「有教無類」の額、「ある人がない人に教えれば、平等になる」の意とのこと。また、対面の壁面には、郷土日田が生んだ大漢学者広瀬淡窓の「鋭きも鈍きもともに捨てがたし、錐と槌とを使い分けなば」が、さりげなくかけられている。当社の障害者に対する思い（障害者観）が推察できる。 障害者雇用のきっかけは、操業間もない頃、当時厚生政務次官であった山崎拓氏を訪ねた時に、そこへ陳情に来ていた知的障害者団体と出会い、働く場所を作ってほしいという彼らのひたむきさに心を打たれたことに始まるとのこと。山崎氏の薦めもあり、自社で何かお役に立てることはないかと早速検討に入ったが、なにせゼロからの出発である。大分大学をはじめいろいろな機関・機会を活用して障害者について学習し、慎重に検討した結果の決断だった。 一端決断したからには徹底を期した。従業員を全員集めて、これからは障害者との共生が必要であり、障害者と一緒になって企業が生き残る努力をしなければならない。たとえ代が変わっても障害者雇用を促進していく決意であるので、障害者理解に努力してほしい等、これまでの経緯を含めて詳細に説明しスタートした。 以来今日まで、結婚のためと体調をくずして依願退職した2名のほかは、順調に雇用が続いている。 |
2.職場改善に取り組んだ経緯・背景
（1）てんかんをもつ従業員のために |
| 知的障害との認識で採用した従業員の一人がてんかんを持っていたため、操業中に突然大発作を起こし転倒する事態が生じ、その対策が必要になった。 |
（2）機械購入に伴い、障害者雇用継続するための企業努力の必要性を認識 |
| 機械の耐久年数はおおむね7～8年である。機械の新規購入の際に補助金を申請する場合、現在使用している機械を申請した際に雇用していた従業員5名の名前が必要なため、継続雇用促進の企業努力の必要性を認識した。 |
（3）知的障害者と健常者の「言葉上のトラブル」に関わる人間関係のもつれ |
| 自分の気持ちを上手に伝えられない知的障害者が「拒否」の表現として時折使う「馬鹿」という言葉を投げかけられた健常者が、彼らの特性を理解していないために、操業中に口論になる事態が生じた。日常的な障害者理解啓発に関する社員教育の必要性を痛感した。 |
（4）地域住民への知的障害者理解啓発の必要性 |
| 中津、福岡など遠隔地からの通勤者がいて、通勤途上で中学生からいじめに遭うなどの問題、あるいはパニックを起こした知的障害者が、刃物を持って社外へ飛び出すことがあった。何事もなかったのであるが、以来地域対策に万全の対策が必要になった。 |
3.職場改善の取り組みの具体的な内容及び効果
（1）従業員の操業状況を巡視できるように俯瞰的に見える廊下を二階に設置 |
 障害を持つ従業員の健康状況を把握する目的で二階を設置したことで、継続観察等を通して操業中の傾向を把握することが可能となり、よほどのことがない限り操業中の転倒は防止できるようになった。それとともに、他の従業員の様子も仕事に支障をきたすことなく観察でき、作業手順の改善に役立てることができた。また、見学者が見えたときにも大変重宝に利用できるなど、障害者のために改築した二階（階段及び入り口は屋外から）であったが、生産性の向上に、また多目的利用ができるなど設置効果が大である。 |
（2）安全性・効率性の確保の対策 |
| 機械類が大きく、常に回転している機械が多いため、安全面の対策はかかせない。乾燥機などは特に危険度が高いので、別注で視覚的に感知できるパトライトを設置した。乾燥機が回転している間はランプが消えているが、人体等物が接触するとセンサーが感知し、直ちに運転が自動的にストップされ、ライトが点滅回転する仕組みである。てんかんの方は勿論、一般従業員の安全性も確保された。 また、仕事の効率性を勘案して就業時間を年間実務労働時間で調整を図っている。 原則は、一日7時間40分勤務。午前中10分、昼40分、午後10分の休息・休憩。一日4～5人が休日をとれる勤務態様にしてある。しかし、この業界の特性として、時期的に旅館・ホテルの稼働に応じ2，3月及び6月は暇な時期になるため、時給制を敷き年間給料で合わせる方式を採用して効果をあげている。 さらに個々の障害者に対し課題把握が出来るよう、「生活動作分析表」を作成し数値データで評価し、これを基に指導・訓練するシステムの採用も効率性に関与している。 |
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（3）職場定着推進チームの結成 |
| 保護者代表3名と会社代表3名（課長、部長、（副）社長）で構成。定着推進のために2，3ヶ月に一度定例会を持っている。保護者から率直な意見を聴取し、職場改善の資料にしている。職場定着には保護者の協力が欠かせない。また、定着率の向上対策の一環として5年、10年、25年表彰制を設け、褒賞金は旅行費に充てている。これらの成果のためか過去中途退職者はほとんどない。障害者の職場定着推進のために、後述する「ホワイト父母の会」とともにこの定例会の効果は大である。 |
（4）安全会議を開催し、「障害者全員教育」を徹底 |
| 知的障害者の生活指導の要諦は、場と時を捉えて何度も繰り返し指導することが必要である。一度言ったらそれで定着するということがない。 毎週土曜日に係長以上で開催する安全会議で話題になったことや、挨拶の仕方，健康管理、金銭の使い方などの、社会性の向上等、日々の生活指導について指導する場である同時に、障害者からの意見を傾聴する会（障害者だけの全員教育の会）を3ヶ月に一度設けている。大勢の前では意見が言いにくい場合は、投書箱に意見を書いて投函してもいいことにしている。 カウンセリングマインドで臨むこの会の価値は本人参加が言われる昨今、よりよい職場作りのために意義が大きいと感じた。 |
（5）「ホワイト父母の会」及び「ホワイト祭り」など多彩な行事 |
| 職場定着の促進や地域への障害者理解の啓発のためには、保護者の協力が欠かせない。前述の、地域が絡む問題が発生した直後に保護者に協力を求めたところ、その答えは「障害を持ったことがないのに気持ちが分かるのか」であった。一方的に協力を求めるのではなく、日常的に理解し合うことの必要性を感じ、早速協力し合う体制として「ホワイト父母の会」を結成した。 3ヶ月に一度の会であるが、86回を数えている。会社でやっていることを話したり、協力してほしいことをお願いしたり、家でどういうことをしているかのアンケートをとるなど、子どもたちのために親や会社がどのようにあればよいか、地域にどの様にして理解を求めていけばよいか等々について、今では保護者が主体的に企画立案して実践出来る会に成長した。 また、当社の自慢は、「ホワイト祭り」をはじめ観月祭、日帰り旅行、老人とのふれあい会等々、会社主催の行事（厚生活動）が多いこと。これも職場定着率の高さに貢献している。「ホワイト祭り」などは地域最大のお祭りに成長した。現在、障害者雇用に踏み切った当初に生じたような地域住民とのトラブルは一切ない。 |
4.今後の課題・展望
| 18年勤続後60歳で定年退職したA氏（現在65歳）は、養い親がいない。退職金280万円と就労中の預貯金870万円を所持しているが、金銭管理は他者の援助が必要である。市の施設入所を希望したが実現しなかった。やむを得ず退職後も、日々は食事代等とたばこ銭、日曜日と床屋に行く時には各3,000円を渡すなどの方法で、現在も当社で生活を援助している。 定年退職後の対策の必要性から、福祉工場や授産施設、そしてグループホームなど総合福祉村を作りたいという構想を語られた。実現してほしい。 |
| 執筆者：別府大学短期大学部初等教育科 佐藤賢之助 |
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