知的障害者を店長に～自動焼鳥機の開発と人材育成～｜障害者雇用事例リファレンスサービス

知的障害者を店長に～自動焼鳥機の開発と人材育成～

2004年度作成

事業所名

焼鳥のカネグラ

所在地

青森県青森市

事業内容

たこ焼き、餃子、焼鳥を販売する店舗を二店舗展開。

従業員数

8名（他に在宅内職者5～6名）

うち障害者数

1名

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	1	焼鳥販売店店長
精神障害	0

目次

事業所の概要と障害者雇用の経緯
障害者用に業務機器を改良
雇用後の職場管理
人材育成
訪問を終えて

1.事業所の概要と障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

設立年月日　昭和62年8月1日
従業員　8名
青森東青市場店　4名（内女性パート2名）
浪打店　　　　　3名（内女性パート2名）
他に、在宅主婦数名に焼鳥食材の串刺しを依頼している。

（2）雇用に至った経緯

　現在、59歳の知的障害（療育手帳B）の男性を雇用している。
　山田金蔵社長の知り合い宅の隣家が障害者施設の先生宅ということから知己となり、施設入所者の採用に至った。入社以来、18年が経過している。採用を契機として、新規店舗（浪打店）を出店し、今では本人を店長職として運営させている。
　現在、本人は職場の近所にある民間の「福祉寮（障害者生活施設）」に20代から50代までの7人と共に居住しながら、本人は一人で職場に通っている。
　以前にも知的障害者雇用があり、22年間雇用したが5年前に退職した。この時は、障害者の父親との縁で雇用している。

2.障害者用に業務機器を改良

　山田社長は、物事に対する「工夫力」が抜きんでているようで、県内の発明工夫展で県知事賞や支部長賞を取ったりしている。
　実際の業務機器では、自動焼鳥機器を考案され、一時はパテントとして売買されたりもしていたようである。現在はご自身の店舗で活用されている。
　自動機器化で一番苦労した点は、加熱の強さと時間のバランスであったとか。しかし、社長のそんな工夫への努力が、障害者にとっての好作業環境となっているようだ。
　障害者従業員への配慮は、機器の自動化ばかりではなく、自動化された機器を操作する上でのちょっとした気配りも必要とのことで、知的障害者にも作業しやすいように、皮、レバー、カシラ等の焼鳥串の種類別に、自動焼鳥機の稼働設定時間を明記して張り出してその表示を見ながら操作することで、知的障害者にもできる商品品質の標準化をはかっているとのこと。
　同様に、餃子の食材では「蒸し餃子」を使うことで知的障害者には難しい衛生管理に配慮した対応をしているとのこと。

3.雇用後の職場管理

　現在の職場は、障害者本人と女性のパート従業員2名である。
　社長が時折職場に顔を出されるものの、知的障害者を店舗の現場に出して何か支障はないのかという私の質問に対して、他のパート従業員たちもいろいろ気づかった対応をしてくれており、心配はしていないとのこと。5千円札と1万円札を間違えた釣り銭計算をしたこともあったなぁ、と笑いながら答えていた。
　健常者ではなく知的障害者の雇用の意味をたずねたところ、健常者は仕事を覚えた頃には退職、あるいは独立されてしまう。知的障害者は釣り銭の間違いくらいはあっても長く勤めてくれるから・・・とのことであった。しかも、知的障害者の作業態度は、教えた通りに一つの手順に一生懸命で安心できる。健常者の安易な融通さ、適当さがないことがいい、とも語っていた。
　例外的に、特注で多量の注文が入ったときは、やはり対応はむりであり、注文内容のパック詰め本数を紙に書いてわかりやすく指示してやり、間違いの無いように対応している。
　知的障害者を雇用した場合の職場管理はルールで管理するだけではなく、知的障害者の気持ちを理解した職場管理の必要性を説かれていた。

4.人材育成

　知的障害者はその生い立ちから常に回りや他人にオドオドしがち。仕事をさせる際にはオドオドさせず、自信を持たせることに配慮することが大事である。
　たとえば、焼鳥の焼き具合を覚えてもらうためには、一度焼いた焼鳥の焼きムラから「旨い、ふつう、不味い」を順に食べてもらい、「旨い」ものを体で感じさせ、その味の焼き具合を自分自身で分かって貰うとのこと。更には、仕事ぶりを観察して、「手順良く上手にやった」ことを褒めてやることが大切とか。
　同僚の女性パート従業員は、知的障害者との仕事を理解しており、時には叱り時には褒め、たまには自宅から菓子を持ってきて一緒にコーヒーを飲みながらコミュニケーションを大切にしてくれているとのこと。職場訪問をした時のお話では、たまたま住んでいるところが近所なので、本人のことは前から知っており、まさかこの職場で一緒とは思わなかったと楽しげに語っていた。目立ってのトラブルはないようである。

5.訪問を終えて

　山田社長は農家出身で、社長自身は明るく話しをするものの、その青年期は農業労務を仕事とする苦労の多い時期であったようだ。青年学級活動の中での徒競走大会や弁論大会への出場等の経験を励みとして乗り越えてきたとのこと。その辛い経験と得意なことへの挑戦の精神が、「他人の痛みを知り、ハンディを持った者への自信の付けさせ方」という、味わい深い指導方法につながっているように思われる。
　山田社長は、その後東京方面での仕事の経験を重ねる中から、人の使われ方、人の使い方を実践的に経験され、現在の事業を展開する上での貴重な経営技量になっていることを感じさせるものがある。
　以前雇用していた知的障害者に対しては、職場の人たちが障害者雇用に慣れない面があったかもしれないが、知的障害者には「上の立場から使う」という気持ちではダメで、知的障害者と「同じ目線」で歩み寄ること、使う側が「使われる度量」を持つことが大事である、との山田社長の言葉は社長自身の様々な経歴から得た人間味が滲み出ている信念としての説得力ある言葉である。
　社長自身のたゆまざる「工夫への熱意」の障害者向けの業務機器改善は、機器を改善することだけが狙いではなく、「改善した機器を使う側の立場から考え、使い方までをも配慮して初めて機器改良の意味がある」ということに結びついて、結果として混乱のない業務、品質を意図した食品の提供、そして障害者の職場定着に結びついていることがうかがえる。
　今回は、とかく、職場改善、業務改善では見落としがちな点を気づかされた企業訪問であった。

（執筆者：（株）ナカ企画（人材開発センター）代表　中崎　良次）

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