聴覚障害者を雇用して30年～経営者の信念と再雇用の多さ～
2004年度作成
| 事業所名 | 有限会社東急ドライクリーニング | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 青森県青森市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | クリーニング、理容、美容、浴場業を展開。 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 101名（クリーニング部門） 青森支店 47名 八戸支店 25名 十和田支店 29名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 10名
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 青森支店 |
1.障害者雇用の経緯と状況
（1）雇用に至った経緯 |
| 創業は昭和44年4月1日。昭和49年に肴倉龍司社長の知り合いの方の弟さんが聴覚障害の2級であり、当時個人営業的な事業であったが、知り合いのご縁により採用した。その直後、結婚され聴覚障害のご夫婦で勤めはじめた。 この採用が障害者雇用の最初であり、その初めて雇用した障害者は、仕事への意欲、仕事への対応にレベルの高いものを持っていた、と肴倉社長は30年前を思い出しながら話されていた。 |
（2）その後の雇用状況 |
| その後、業務拡大の中、社員採用に合わせ障害者も増加し、現在は聴覚障害者8名、知的障害2名となっている。 障害者の雇用にあたっては、クリーニング業務に関心を持ち適性がある人であれば、とハローワークに相談しつつ対応を対応を進めてきたが、障害者同士のネットワークでの情報交換が意外と雇用へとつながるケースも多いとのこと。特に、最初に採用した障害者が障害者同士で情報をやり取りし、その仲間を自分の職場へ誘うケースが有るようだ、と肴倉社長は採用の経緯を話されていた。 現代のIT機器の発達で、聴覚障害者の情報交換手段が飛躍的に便利になっているようで、FAX、携帯メールが障害者仲間の輪を広げている状況がうかがい知れる。 結果、平成16年3月31日現在の障害者の就業状況は次のようになっている。 昭和50年採用者 1名 平成 5年採用者 2名 平成 7年採用者 2名 平成 8年採用者 1名 平成 9年採用者 1名 平成10年採用者 1名 平成11年採用者 1名 平成12年採用者 1名 |
（3）再雇用の多さ |
結婚等で一旦退職しても、就業可能な状況になると当事業所に再就職しているケースがあるということ。更には、互いの障害者仲間の情報交換で他社の状況に憧れてか、自己都合退職をしていく場合もあるようだが、結果、当事業所に戻ってくるケースが何件か見られるということ。 これらは、就業環境による労働移動というより、障害者独特の仲間情報による仲間づくりによる移動の傾向もあるようだ、と肴倉社長は苦笑いされていた。 それにしても、元雇用者の再就職におおらかな企業風土に感心させられた一面である。 |
2.職場のコミュニケーション状況
| 聴覚障害による職場での業務情報の伝達についての不安をどのように解決しているのかという質問をしたところ、肴倉社長は大して気にはされていないようで、聴覚障害者が多いことから障害者同士のコミュニケーションは手話と口話で進んでいるようだと話されていた。 同時に、障害者の情報伝達は単に「言葉」を「手話」に変換するというテクニカルなことだけではなく、障害者同士の考え方をベースとした微妙なやり取りがあるようだ、と肴倉社長は述懐されるように話されていたが、長年、多数の障害者を雇用されその雇用管理にいろいろな経験をされた結果、社長自身、障害者との「間合い」を会得されてのではないかと想像させていただいた。 実際、今回の訪問の最後に、聴覚障害者の方々4人にお集まりいただき話を聞いた場面では、幾らか障害の軽い方が手話と口話を交えて私の質問を他の仲間に伝えていたが、私の方がどうしたら上手く伝わるかオロオロしているザマなのに、全員、何も気にせず私との会話を楽しんでいるようであった。相手の考えていることを、言葉だけではない、表情や全身のムードからどう感じ取るかが大切であることを実感させられた場面であった。 当然、職場の中での業務場面では、障害者以外の社員と障害者とのやり取りが日常的に行われているのであるが、障害者への対応、いわば肴倉社長の会得されたであろう「間合い」に慣れない健常者が、障害者とのやり取りで以前は多少のトラブルとなったこともあったとか。 また、職場での仕事の進め方や業務指示の仕方は、健常者と障害者に対してはそれぞれ対応を変え、障害者へはそれなりに工夫をした対応をしているとのこと。 当然のこととはいえ、聴覚障害者は手話、口話、筆談のみを手段とする、と決めつけず、手段を取り巻くサブ手段をも織り交ぜたコミュニケーションを展開されているようである。 |
3.訪問を終えて～経営と人材の活用
| 今、クリーニング業は着用衣服の時代変化の中、クリーニングを要しない衣服の着用が多くなってきているとのことで、競合の問題、単価の問題等の課題が多いであろう経営環境にあっても前向きに対応されているようであった。 聞けば、肴倉社長は県内のクリーニング業界では最初に「前金制営業」を取り入れたとか。更には徒弟的歴史のある業界にあって労働条件のあまり良くなかった当時、いち早くパート社員の就業形態に新しい手法を取り入れ、「実働労働」をベースにした変形労働制的勤務管理により処遇を明確にしている、といった「経営と労働」の面に斬新な取り組みを行っている。 お会いした障害者の皆さんのアッケラカンとしたあの笑顔からは、そんな肴倉社長の姿勢が、障害者の社員たちに「何かやってくれそうな社長、頼りになる社長」の印象を与えているのではないだろうか。 多くの企業が景況対策の一番の手法として「人員削減」を無条件に上げる中、今後の障害者雇用の可能性を投げかけたところ、肴倉社長からは、人の活用に対する工夫の必要性の話題が先ず口に出た。もちろん、経営として業績と固定費のバランスを考えなくてはならないであろうことは十分に察せられることではあるが、長年の障害者雇用の経験からか、どこか「障害者雇用」に対する信念を感じさせるものがある。 たまたまの縁で知り合いの障害者を雇用して以来30年になるが、おだやかな肴倉社長からは、ほとんど障害者雇用に関わる苦労話的な話題は最後まで聞かれなかった。 それどころか肴倉社長は、「みんな長く働いてくれているし、障害者とは仲の良い友達みたいなものですよ」、「みんなとは好きなことを何でも言い合えますよ」と多少誇らしげに語っていた。 とはいうものの、きっと多少のワガママな意見への対応もあるだろうと思われるが、「わたし、みんなが好きなんですよ」という肴倉社長の最後の言葉に「障害者雇用」の本質を見た思いである。 そんな肴倉社長だからこそ、多数雇用、継続勤務、が実現しているのだな、の思いで訪問先を後にした。 （執筆者：（株）ナカ企画（人材開発センター）代表 中崎 良次） |
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