製造業の少ない地域のリーディングカンパニー
2004年度作成
事業所名 | 岩手アライ株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岩手県岩泉町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 自動車オイルシール製造 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 145名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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1.事業所の概要~荒井製作所の100%出資によるオイルシールの専門工場

岩手アライのある岩手県岩泉町は、かつて「陸の孤島」とたとえられた地域である。今でも決して交通の便が良いとは言えず、盛岡市からは車で約2時間。カーブの続く峠越えがあり、道が凍てつく冬期には特に敬遠されるルートである。鉄道もあるものの、学生の通学やお年寄りの通院などに使われているようなローカル線で、物流網としてはほとんど機能していない。 そんな岩泉町小本に、岩手アライが設立されたのは昭和60年(1985)。地域おこしを積極的に進めていた岩泉町と岩手県が熱烈な誘致活動を行い、実現したものだった。製造業の少ない地域であるため、雇用面での期待が大きかったことはもちろんのことは言うまでもない。従業員数は145人。平均年齢35.5歳(2004年4月現在)。男子・女子独身寮も整備され、若い人がいきいきと働ける貴重な職場として地域に歓迎された。岩手アライとしてもこのような経緯から地域に対してオープンな姿勢が貫かれている。小・中学校の工場見学なども広く受け入れ、高校生のインターンシップは毎年訪れる。障害者施設との交流に関しても後述するように非常に大らかである。 岩手アライは、国内主要自動車メーカーに採用されているオイルシール(オイルが外部に漏れないように、また、外部からゴミやホコリが入らないように密閉するための部品)などを製造販売している(株)荒井製作所(本社・東京都葛飾区)の100%出資による専門工場である。原料・部品・金型はすべて荒井製作所から支給され、同社の作業標準・検査基準等によって生産され、製品はすべて同社に納品されている。製品は同社を通じて、本田技研工業やトヨタ自動車へ納められているのであるから、その品質についてかなり高い精度が求められることは推し量ることができる。岩手アライの工場では約900種類のオイルシールを製造することが可能で、常時約400種類を生産している。 岩手アライの仕事は「労働集約型」だと、取締役社長の鈴木雄作さんは説明する。「さまざまな工業製品の中でもゴムの部品というのはまだまだ人間の五感、つまり目や触覚に頼る作業の多い仕事です。ゴムは柔らかい素材なので、鉄などと比べて、寸法精度とか外観の不具合とかを見る際に識別がむずかしく人間の判断力に頼らざるを得ない。もう一つには、自動車部品というのは、1台の車を造るのに何万点もの部品が必要となっていて、自動車そのものも多種少量の生産であるため、どうしても機械化が遅れ、実はたくさんの人の手作業に頼っている部分が大きいという、そんな宿命的なところがある産業なんです」。 |

2.取り組みの経緯、背景~「障害者だから」と隔てる理由は何もない
手作業の多いものづくりの現場について考えた時、「健常者と障害者をあらかじめ区別する必要は感じていません」と、鈴木社長は障害者雇用について積極的に肯定している。 「たとえば九州の方には、障害者だけを集めたホンダさんの子会社の工場がありますね。だいぶ早い時期の試みでしたが、ここも手作業を中心とした工場ですね。私の知っている秋田県にあるゴムの工場も100人中30人くらいは障害者を雇用しているところがあります。そういう意味では、当社は決して障害者を多く採用しているとは言えないのですが、健常者と何ら違いのない仕事をしてもらっています」。
岩手アライが障害者を雇用し始めたのは、平成元年のこと。ハローワークの要請によって養護学校から職場実習を受け入れ、知的障害者を採用した。その後も県立久慈養護学校と県立宮古養護学校から推薦を受けるかたちで採用。現在、5人(男性3人、女性2人)の知的障害者(重度1人を含む)が就労している。養護学校の職場研修にも対応し、そのような機会には先生が卒業生の仕事ぶりを見に来たりする。「先日、先生がいらした時は、今、自動車教習所に通っている子がいるので、その彼に『(進み具合は)どうだ?』などと声をかけていましたよ」と、総務課の北俣貢さんが目を細める。養護学校の運動会など行事がある時には、岩手アライにも必ず案内状が送られてくるのだそうだ。 独身寮に入居している人、送迎バスで通勤している人、親が送り迎えをしている人など障害者の通勤形態はさまざまで、会社のほうで特別な配慮はしていない。男性社員は2交替制のシフトに組み込まれているので、夜勤(17時~深夜2時)もある。女性社員も残業はある。また、取材時、1人の女性社員は産休中とのことで、順調な社会生活を過ごしていることが察せられた。 岩手アライの建物は、旧岩泉高校小本分校の跡地に建てられているため、建物や敷地を歩くと、どこか学校の面影がある。その一つが立派な桜の木。春には全社員で花見をするのが恒例で、もちろん障害者も参加している。 |

3.取り組みの内容及び効果~優良事業所として厚生労働大臣表彰も
岩手アライの工場内は成型機などの機械音が常に聞こえ、どの社員もそれぞれの持ち場で黙々と働いている。工場見学のつもりで一巡しても、どの人が障害者なのかわからない。北俣さんに「この人と、この人と・・・」と教えてもらうが、「障害者のための仕事」を与えられているわけではないことは一目瞭然である。特に、成型されたオイルシールの内側にグリスを注入する「グリス入れ」作業を担当している女性社員は、むしろ社内でもベテランとして扱われ、新入りに教えることもある。「残業が多い時には日曜日も出勤したほうがよい」などと意見を言うほどの仕事好きで、まじめな性格は周知されている。平成14年度、障害者雇用優良事業所として岩手アライが厚生労働大臣表彰を受けた際にも、この女性社員が表彰状を受け取った。
「ご覧の通り、誰かがつきっきりで面倒を見るとかそういうことはまったくありません。しいて言うなら、班長(業務遂行援助者)が新しい仕事が来た時に、様子を見ながら仕事の割り振りをうまく調整しているのかもしれません。仕事がうまくできるように教えることは、自信を持ってやってもらうために大事なことですから」と北俣さん。忙しい時期には、月に70種類くらい製品が切り替わる。それに対応していく柔軟性が必要とされる仕事なのだそうだ。 「海外経験などを通じて思うことなのですが、我々のような仕事の場合、我々が求めるまじめさとは、決められた手順をきちんと守るということが基本です。東南アジアなどの製造業が伸びているのは、かつての日本のような勤勉な従業員が多くいるからです。今の日本はむしろそういうことができなくて、はじめから余計なことにこだわる若者が多い。その点、障害者の持っているまじめさ、根気強さというのがいい場合があります。その上で、仕事を続けていけば、改善の意見は自ずと出てくるでしょう。仕事について考える訓練ができれば、障害者であっても次のステップへ行けると思います」と、鈴木社長もまた障害者の「まじめさ」を高く評価した。
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4.今後の課題・展望~授産施設との連携も発展的に
岩手アライでは、数年前から岩泉町内にある知的障害者授産施設(2004年までは福祉作業所)「いずみの里」へ軽作業の内職を発注している。いずみの里では独自にシルクスクリーン印刷や手芸品の製作販売なども行っているが、部品加工の内職は、安定的な収入源となっているだけでなく、利用者の「社会参加」という目的においても意味がある。一時は研修というかたちで利用者を受け入れたが、グループ行動に慣れている利用者が不安になってしまったりしたため残念ながら雇用には結びつかないままとなった。しかし岩手アライとしては、今後も連携を続けていくことに変わりはない。 「一人ひとりを雇用するというかたちでなくとも、内職の場を工場の敷地内に持ってくるというのが理想です。内職というのは材料や製品の搬入で2日が無駄になる。それは現代的なスピードではないわけです。送迎の問題などがうまくできれば、近い将来のこととして前向きに検討していくことになるでしょう」と、鈴木社長は話している。 「地域貢献ということは意識していません。むしろこの地域で稼がせてもらっていると言ったほうが良いでしょう」と笑う鈴木社長だが、その存在が醸し出す温かな人柄と、根っからの技術者といった感じの率直さが、岩手アライの大らかな社風につながっていることは言うまでもない。 (執筆者:フリーライター 成田 木実) |

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