職場の‘お母さん’たちに見守られ、定着率100%
2004年度作成
事業所名 | 株式会社十文字二戸フーズ | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岩手県二戸市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 鶏肉加工処理 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 295名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 6名
![]() |
|

1.事業所の概要~安心のブランド「十文字チキン」
岩手県内では長年トップ、全国でもトップクラスの生産量を誇る「十文字チキン」ブランドの鶏肉は、グループの中核会社である(株)十文字チキンカンパニー(飼育農場と販売部門)と、9社のグループ会社(加工工場4社、種鶏農場1社、孵卵場1社、肥料の生産・販売1社、食肉の輸入・販売2社)によって、種鶏の飼育から加工まで一貫した体制の下、生産されている。2003年のデータでは、グループ全体での加工羽数は、4,178万羽。十文字チキンカンパニーの売上高は、326億円となっている。 「十文字チキン」のポリシーは、「きまじめ品質」。消費者へ「最高の安全とおいしさを届けるために」、雛(赤鶏を除く)の自社生産比率を100%とした一貫生産体制を整え、トレーサビリティ(生産履歴)システムをいち早く導入。品質統括部から各工場に専門の検査員を派遣・常駐させている。また、飼育部門では徹底した衛生管理をすることで、抗生剤を使用しない飼育を可能にし、飼料にはトウモロコシなど植物由来原料を約90%使用するなど、「健康」な若鶏を育てることを追究している。 十文字チキンカンパニーの社史は、まもなく半世紀を迎える。昭和35年(1960)、創業者である十文字健助が26歳の時、200羽の鶏を飼育し、生ませた卵を販売するという採卵養鶏を生業としたことに始まり、翌年には卵を生まなくなった鶏を食用として販売開始。1964年にはブロイラーの飼育を始め、東京へと販路を拡大した。 1975年には二戸の加工工場を増設し、フレッシュチキン(精肉)の生産ラインを整え、翌年、(株)十文字ブロイラーとして企業化。1991年、(株)十文字二戸フーズに社名変更し、現在に至っている。 十文字二戸フーズは、1992年10月、新しい工場を新築・移転。4,000坪の敷地に、最新鋭の設備と広々としたワーキングスペースを確保し、「安全・安心」な食品づくりのための環境づくりが徹底された。工場の処理能力は、1日27,400羽。ラインスピードにして1時間に3,600羽、つまり、1分に60羽、1秒に1羽のスピードで加工処理が行われていることになる。
|

2.取り組みの経緯、背景~採用はすべて養護学校からの推薦で
十文字二戸フーズでは、現在、身体(視覚)障害1人と、知的障害5人の計6人の障害者を雇用している。年齢は20~29歳で全員男性。1人は勤続10年、3人は5年以上になる。さらに驚くのは「辞めた人がいない」という事実。いわば障害者の雇用定着率100%なのである。こうした実績が評価されて、平成16年度、障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰を受けた。 「こちらのほうが助かっているくらいです。みんなまじめに働きますからね。むしろ今どきの(健常者の)若い人のほうが辞めたり、休んだりしますよ」と、工場長の清水隆治さんは苦笑いし、障害者の勤勉さを評価する。飼育農場部門から、加工処理部門である十文字二戸フーズの工場長に赴任しておよそ1年だが、問題は一度として起きていないと言い、取材陣が求めた「苦労話」について考えてみたものの、ついぞ思い当たらない様子であった。 障害者の雇用は、ハローワークを通じで養護学校から採用の要請があったのがきっかけで、現在の社員は、盛岡市の緑生園(更生施設)、岩手県立花巻養護学校、それに隣県の青森県立青森第二高等養護学校などから推薦された生徒を実習後に採用した。雇用の前には必ず「職場実習」というかたちで、2週間程度の教育期間を設定し、養護学校と連携して、仕事を覚えてもらうことになるが、これまで実習の結果、不採用になった例はない。「学校のほうで『この子なら大丈夫』という子を送り込んでくれているのでしょう」と、管理課に所属している障害者雇用推進者の立花良子さんは学校推薦に全幅の信頼を寄せている。 |

3.取り組みの内容及び効果~家族の励ましも勤続を後押し
(1)配属 |

障害者が配属されているのは主に「解体ライン」という工程である。これは脱毛され、頭や足、内臓が取り除かれた鶏をもも肉やむね肉などにバラしていく加工処理ラインで、熟練スタッフのていねいで素早い手作業が発揮されるところである。そのラインのスタートのところで1羽ずつラインの鉤に鶏をひっかけていく「懸鳥」という作業や、ラインの最後にガラをはずしカゴにまとめる作業、解体ラインの前に鶏を冷やしておくためのチラー(水槽)に氷を入れる作業などに障害者が携わっている。また、視覚障害者はガラの箱詰めを冷蔵庫へ運ぶ仕事が中心となっている。 知的障害者の仕事はローテーションで定期的に交代する。「恐らく、人がやっている仕事が良く見えるというのか、『ボクもやりたい』ということで、ローテーションさせるようになったのではないでしょうか」と、立花さんもいつからローテーションするようになったかはさだかではない。何しろ10年も平穏にやってきたのであるから、あいまいな答えとなってもいたし方ないだろう。 ケガの心配は避けたいということで、ナイフを使う仕事には就かせないが、工場の特性上、足元がすべることはある。過去に一度だけ、労災を申請したのは、転倒事故だった。転んでコブをつくった障害者が「絶対に病院に行く」と言い張ったことがあった。会社では「大丈夫」と言ってなだめたが、あまりに主張するので、家族に連絡を取り、病院へ連れていってもらったという。
|

(2)家族の協力 |

雇用している障害者の居住環境は、全員、家族と同居で、会社の送迎バス(9台)を利用して自宅から通勤している。何かの時にはすぐに家族に来てもらえるのが会社として安心なだけでなく、定着率にも関係があるように思われる。 というのは、十文字チキングループといえば、岩手県では名の通った企業であり、ことさら製造業の少ない県北地方ともなれば、まさに地域における屈指の優良企業である。そんな企業に入れたことは本人だけでなく家族の喜びでもあるに違いない。「入ったからにはがんばりなさいなどと親御さんもおっしゃって、励ましながら会社に送り出してくれているのだと思います」と、立花さんは家族の存在の大きさに触れた。 |

(3)職場の‘お母さん’たち |

さらに、もう1点、定着率について考えてみると、見逃せないのが職場の‘お母さん’たちの存在である。十文字二戸フーズは、従業員295人のうち、9割以上の270人が女性の職場。しかも平均年齢は50歳と、年配層が非常に厚い。 「まるで自分の孫に教えるようにやさしく接しています」と、立花さんが言うように、とりたてて指導者を置かなくても、周囲の女性たちが自然に声をかけ、温かく見守っている雰囲気がある。同じ部署で作業を教え、あれこれと世話をしたある女性社員は、定年退職後も手紙のやりとりを続け、まさに‘精神的なお母さん’としての関係を築いていたのである。 職場の女性たちの自然なフォローは仕事の場面だけでなく、会社生活全般にわたっている。たとえば、給与は本人の口座へ振り込まれ、社内にあるキャッシュディスペンサーから下ろすことができる。入社当初は事務室にやってきては「いくらお金を下ろしたい」と相談していたが、どの社員も親切に教えたので、今では自分でできるようになったという。労働組合の行事として毎年行われている社員旅行や忘年会にも積極的に参加し、カラオケではマイクを離さないほど、のびのびと楽しんでいる。時には、障害を持つ20代の若い男性社員と接することで‘お母さん’たちの気持ちを明るくすることさえあるのではないかと思われるくらいである。 |

4.今後の課題・展望~欠員があればこれからも積極的に採用を
現在、工場はフル稼働の状態で、適正な数の社員が働いている。前述のように、地域の優良企業であるため、一度採用されれば長く勤めたいと思うのは、障害者に限ったことではない。 しかし「欠員が出れば、あと2、3人は(障害者を)雇用したいと考えています。これまで通り、養護学校からいい子の推薦があれば採用したいですね」と、工場長の清水さん。「本当に、きちんとよく働いてくれますから」と言葉を補い、うなずいた。 知的障害者の場合、適応しやすい就労先として考えられるのが製造業なのだが、その製造業自体が少ない地域にとって、十文字二戸フーズが貴重な存在であることは言うまでもなく、養護学校も家族もその事情は、痛いほどに知っている。一方、雇用主としては障害者雇用を「地域貢献」だなどとは声を大にして言っていない。なぜなら、労力としては十分に役割を果たしており、企業には確実なかたちでメリットがあるからだろう。しかしそれだけでなく、送りだす側の「熱い思い」と、受け入れる側の「自然体」が、障害者にとってどちらも有効なサポートとなっているという点が興味深いところであった。 今後もし誰かが辞め、誰かが入っても、全体の雰囲気はきっとこのまま変わらないだろうという何か確信めいた安心感を抱きながら、工場を後にした。 (執筆者:フリーライター 成田 木実) |

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。