精神障害者の就労に取り組んで25年
2004年度作成
事業所名 | 有限会社サカイダ工研 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 宮城県柴田郡柴田町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 自動車部分品付属品製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 44名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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1.事業所概要と障害者雇用の理念
有限会社サカイダ工研は、境田浩社長によって宮城県南部の村田町に個人企業として創業された後、昭和60年に有限会社となって現在にいたっている。 主な事業内容は、自動車用カーステレオ・ナビ用部品や自動車用エンジン部品の加工・組み立て、検査、梱包などである。 従業員44名のうち、障害のある従業員は全部で5名、精神障害者2名の他に知的障害者1名と身体障害者1名が働いている。 従業員の精神障害理解という基盤整備に地道に力を注ぎ、互いに理解を深めた家族的な就労環境のもとに精神障害者の就労に取り組んでいる。境田社長は、長く宮城県職親の会の副会長などをつとめるなど、創業当初から精神障害者の就労に取り組んでおり、積極的に研修会の講師などもつとめている。 |

2.精神障害者の就労・雇用に取り組んだ経緯
(1)F作業所の設立 |

村田町内に精神障害者の作業所をつくる必要性を感じていた役場課長が野球仲間の境田社長に協力を要請したことをきっかけに、境田社長は精神障害者の就労支援に関わり始めた。また、担当の保健師のご主人も野球仲間であったことなども含めて、野球仲間のネットワークという人の輪によって地域の精神障害者就労支援という大きな活動が開始されたのである。さらに精神障害者の就労の必要性を強く感じていた精神科医に相談して、精神障害の理解や精神障害者への関わり方についての知識を得て、一週間で関係者のネットワークをもとに作業所づくりに向けた取り組みがはじまった。精神科医の説明によれば、精神障害当事者は無口で、素直に、指示をしっかり守る。境田社長たちははじめこそ半信半疑だったが、それが真実であることを次第に実践的に確信していった。 制度利用に積極的な町役場課長の努力と関係者のネットワークのもとに、宮城県内の他の地域に先駆けて村田町に精神障害者のためのF作業所がつくられた。開所当初はわら細工などのごく簡単な2~3種類ぐらいの作業品目だけだったが、関係者は1人1人の意欲や能力、体調にあわせた作業内容を提供し、十分な休憩を取るなどの配慮に心がけた。 当初、精神障害当事者は疲れやすかったり、体力が低下していたり、不慣れな環境による不安などによって萎縮しているようであった。そこで、時間をかけてゆっくり、のんびり、根気強く支援することにつとめた。自信を持って作業に取り組むまでにはその後かなりの時間を要した。 |

(2)職親の会 |

一方、まだ限られた地域ではあったが、県内で精神障害者の就労に取り組む境田社長たち有志8人の職親としての活動が開始された。当時は、国際障害者年(1981)ということで、多くの人々が障害者の生活の向上に関心を持ち始めていたと考えられるが、境田社長によると、精神疾患のある人々への理解は身体障害者や知的障害者に比べると雲泥の差であり、深く根ざした偏見や差別意識を解消することはとても難しい状態であった。そのような状況の中で、職親の会の活動やF作業所の取り組みの意義はとても大きい。境田社長たちの活動はやがて県内各地に広がり、全国で3番目の職親の会が宮城県で組織されるなど、先駆的な取り組みが展開された。 |

(3)雇用と従業員教育 |

やがて、サカイダ工研から委託された作業がF作業所で行われるようになると、境田社長だけではなくサカイダ工研の従業員も、材料の搬入や製品の受け取りのために作業所に出入りするようになった。そして、作業所内での当事者の作業への自信も深まってきた頃、1人の精神障害者がサカイダ工研で働くことになった。 受け入れにあたって、境田社長は精神科医や保健師などに依頼して、精神障害理解を促すための従業員教育に力を入れた。具体的には、精神に障害があっても他の人と何ら変わることがないこと、精神障害者への関わりや援助は決して他人事ではなく、社会の中で誰もが関わるべき当たり前のことであるという考え方を従業員1人1人に浸透するように多くの努力がなされたのである。 会社内部の様々な努力にもかかわらず、当初、採用された精神障害者には落ち着きがなく萎縮しているようであった。それまでとは異なる環境下に1人で働くことにより精神的不安定状態がもたらされたと思われたため、さらにもう1人の精神障害者を採用した。すると、2人で働くことによって仲間意識や適度のライバル心が芽生え「大きな力が感じられて」、不安や緊張が少なくなり仕事に専念できるようになってきた。また、職場での様子にも明るさがみられるようになり、仕事を休むこともなくなった。 結婚や家庭の事情などで退職する人もいたが、そのときにはすぐ新たに雇用して常に2人以上の精神障害者が一緒に働くように配慮しており、それが就労継続の秘訣の一つであると境田社長はいう。 |

3.障害者の就労状況と雇用継続のための取り組み
(1)精神障害者の雇用状況 |

現在、サカイダ工研では統合失調症による2人の精神障害者(男性)が就労している。2人はともに精神保健職親制度の規定に基づく社会適応訓練を経て担当医、保健師、保健所担当職員との協議によって雇用実現にいたっている。 作業内容は金属の単純プレス作業、納品物の梱包作業であり、業務遂行援助者の指示や指導をしながら作業に従事している。2人とも素直で几帳面なので、作業効率は悪いところはあるが自分なりに努力している。また、周囲の作業者も意識して2人の作業を見守るようにしている。 精神障害者では、新しい環境になじむのに時間がかかり、動作が遅かったり臨機応変な判断が苦手な場合がある。そこで、業務内容を単純化してわかりやすい工程にして指示を出し、わからないことはすぐに聞けるような信頼関係を形成することがとても重要であり、業務遂行援助者の果たす役割が大きい。精神障害者が仕事に慣れるにはかなりの時間を要するが、一度仕事を覚えると仕事の遂行は堅実で間違いないと境田社長は言う。何よりも自信をつけることが大切なので、はじめから難しいことに取り組むのではなくて、「できること」からはじめて作業実践を積み重ねるなど、十分に観察しながら次第に作業目標を高くするように配慮している。
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(2)精神障害者の雇用継続のポイント |

その他、境田社長にうかがった精神障害者の雇用の継続性を維持する場合に大切なポイントを以下にまとめて整理する。 体調の管理に関しては、毎日の服薬を忘れないことと十分な睡眠をとるように周囲で配慮し、月1回定期的に担当医に通院するとともに保健師との情報交換を行いながら、精神状態や体調の把握につとめている。服薬を中断すると眼がうつろになったり体調が悪化したりするので、朝に出会ったときの顔色を観察することも大切であり、家族や他の従業員との連携も重要であると境田社長は強調する。そして、心身面において何らかの不安が生じたときには、すぐに保健師に連絡するなど、早めに専門職につなぐことがとても重要になる。2人ともに服薬を守っているため、発作はほとんどない。 また、休憩時間のすごし方も重要である。サカイダ工研では昼食時に各人が弁当を持ってきて食堂で食べる。従業員の誰かが漬物を持ってきてくれたり果物を持ってきてくれたりすると、みんなで分け合って会話を楽しみながら一緒に食べる。仕事の合間の楽しいひと時である。当然ながら、精神障害の従業員も一緒にみんなの会話の輪に入る。仕事の合間のこのような従業員同士の関わりも大事だ。精神に障害がある場合においても他の従業員と同じ待遇に心がけ、家族的な雰囲気の中での就労に配慮することが大切であるというのが境田社長の信念である。 そして、家族との連携が大事である。会社で過ごす時間も大切だが、自宅で過ごす時間も大切である。精神に障害があっても他の兄弟姉妹と同じように家庭内で充実した生活をおくっていることが、充実した就労を実現するためにもとても大事であると境田社長は強調する。 |

4.まとめ~偏見をとりのぞくために
サカイダ工研の特徴は、当初から従業員の精神障害理解という基盤整備に地道に力を注ぎ、互いに理解を深めた家族的な就労環境のもとに精神障害者の就労に取り組んでいることである。そして、この取り組みの中で境田社長の果たす役割は大きい。従業員数が40数名ということで、お互いが常に顔を合わせる環境にある利点を十分に生かしている。同じ会社に働く全従業員が、精神に障害のある従業員を同僚として受け入れているので、サカイダ工研では皆が見守る中で安心して作業に専念し休憩をとる環境が整備されている。境田社長によると、1人だけの力ではなく、全従業員を含めたチームの力、組織の力が最も大切である。 会社内における家族的な精神障害者就労支援とともに、長年、境田社長は職親の会とも大きな関わりを持っている。宮城県の職親会では、平成17年度を目途に特定非営利法人格取得が予定されているという。そして法定雇用率の精神障害者の算定導入も期待されるなど、精神障害者の雇用の促進を図るための様々な取り組みに期待も高まる。 境田社長が精神障害の就労に関わり始めて20数年の間に、日本の社会における人々の精神障害者に関する理解については次第に変化しており、境田社長の言葉でいうと、ようやく精神障害者も「表」で活動できるようになってきているという。しかし、まだまだ不十分なところが多く、偏見や差別も根強いものがある。そのような根拠のない誤解は精神障害者との関わりを持ったことのない人や一面だけの関わりしか持ったことのない人に多い。精神障害のある人に実際にかかわる機会があれば、いわれのない誤解も解消し、偏見や差別意識もなくなると考えられる。 精神障害者の就労の機会を広げ、充実した就労につなげるためには、精神障害当事者、医療関係者、そして境田社長など経営者などの連携がとても大切であり、その連携のもとに1人1人の特性に合わせた、1人1人を大切にした就労の実現が強く望まれる。 (執筆者:東北福祉大学総合福祉学部教授 阿部一彦) |

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